子供たちを助けたい。そうローに言ったのだが、ローはすぐに首を盾には振ってくれなかった。
「こんな厄介なもん放っとけ、薬漬けにされてるらしい」
「わかってるよ! 調べたから! だから、家に帰してやりてえけど、薬を抜くのに時間がかかるし、何よりこんなに巨大化してる」
「人の巨大化ってのは何百年も前から推進されてる世界政府の研究だ」
「政府が? 何のためにそんなことを…」
「兵士だろうな。好きなだけ巨大な兵士を増産出来りゃ、政府に敵はいなくなる。――これを成功させてシーザーは、政府やベガパンクの鼻を明かそうって腹だろうが……そうそううまくいかねえよ」
「ロー……頼む。俺もこの子たちを助けたいんだ…」
ローの服の裾を掴み、お願いすると、ローは俺の方をジッと見る。
「お願いだ…」
「本気で助けてえのか? どこの誰かもわからねえガキどもだぞ」
「見ず知らずの子供たちだけど、この子たちに泣いて助けてと頼まれたの。マスターは上手く騙してここへ連れてきたようだけど、本人たちだってもうとっくにあの施設がおかしいと気づいてる」
「あぁ。俺が世話をしている時も、いつ出られるの? いつ助けてくれるの? ってしょっちゅう聞かれてた」
子供たちの安全を確認できるまでは島を出ないというナミに、ローはひとりで残るつもりか? と尋ねる。
「仲間を置いてきゃしねえよ。ナミやチョッパーがそうしてえんだからおれもそうする。あと、サンジが侍をくっつけたがってた。お前、おれたちと同盟組むんなら協力しろよ」
「ン……」
「いまいちわかってねえみたいだな。お前、同盟って共通の目的を達成するために限って協力しあう関係のことだって思ってんだろ? 言っとくが、ルフィの思う同盟って多分少しズレてるぞ」
「友達みてえんだろう?」
「ほら、俺の言った通りだ。多分主導権握るのもムリだぞ」
「そうだ。思い込んだ上に曲がらねえコイツのたちの悪さはこんなもんじゃねえ。自分勝手さではすでに四皇クラスと言える」
「だが、お前の仲間の要求は同盟に全く関係が……」
「ロー、手伝ってくれるなら俺、お礼になんだってするぞ」
俺がそういうと、ローは眉間にシワを寄せて俺を見た。俺の肩を掴み、俺の顔をまじまじと見る。
「言ったな」
「? あぁ、男に二言はなしだ!」
ローはニコリともせずに、俺たちに背を向けて了承した。
「ロー! ありがとう! やっぱお前は最高だよ! 大好きだ!」
俺が抱きつくと、ローは一瞬表情を緩ませてから俺を引き剥がした。
「船医はどいつだ? 一緒に来い。シーザーの目を盗む必要がある」
「麦わらの船医はチョッパーだぞ。俺が運ぶか?」
「……」
「お前の無言は肯定ととるからな。んじゃチョッパー、俺が運ぶからな」
「悪いな。俺今動けねえから、よろしく頼む」
「おう、任せとけ」
「さっきの2人組の仕掛けで分かるとおり、シーザーはお前たちと白猟屋のG-5を消し去り、ガキどもを奪い返すつもりだ。それが達成されるまで、奴の攻撃は止まない。4年前の大事件で犯罪者に成り下がった元政府の科学者、立ち入り禁止のこの島に誰かがいるという事実が漏れれば、あいつはこの絶好の隠れ家を失うことになる。だからお前らを全力で殺しに来る」
懸賞金3億ベリー、殺戮兵器を所持する。ロギア系、ガスガスの実の能力者。シーザー・クラウン。
「覇気を纏えないものは決して近づくな。ただの科学者じゃない」
「こっちで覇気使えんのは俺とゾロとサンジ、あとお前だろう?」
「俺も使えるぞ」
「ジェイデンもか」
「十分だ。俺たちは一足先に研究所に戻る」
「で、そのマスターを俺たちとお前で誘拐すりゃいいんだな?」
「そういうことだ」
ローの言葉に、なぜ誘拐するのかとフランキーが尋ねる。身代金は誰から? その問いにローは誘拐の目的は金ではなく混乱だと答える。
「混乱?」
「どういうことだ」
「成功してもいねえのに、その先の話を今する意味はない。とにかく、シーザーの捕獲に集中しろ。決して簡単じゃない」
無事にシーザーを捕獲できれば、計画はしっかりと話す、とローは言う。シーザーの誘拐に成功した時点で、事態はおのずと大きく動く。そうなると引き返すのは無理と言えるだろう。
「考え直せるのは今だけだが」
「大丈夫だ、お前らと組むよ」
「なら、おれもお前たちの希望を呑むとする。残りの仲間をしっかり説得しとけ」
「ああ、わかった」
「頼んだぞ、ルフィ」
「ああ!」