テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#主人公最強
#ハッピーエンド
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
白い光が目に飛び込んできて目が覚めた……朝か。
その日の明け方、クロエは本当に見張りを代わってくれた。レベル差を考えれば信じられない待遇だ。
まさかまともに眠れるとは。
寝袋の中で体をこわばった体を伸ばす。
目をやると震天雷を片手に立っているクロエの横顔が見えた。
「おはようございます」
と、挨拶をしようとして思わず口をつぐんだ。
クロエが真剣な顔で空中に手を伸ばして何かを触るような仕草をしている。
ステータスウィンドウを見ている時によく見る仕草だ。
ステータスウィンドウは自分にしか見えない。
初めてクロエと会った時のように見せる相手を指定することは可能だが今は違う。
だからクロエが何を見ているのかはわからない。
ただ顔が真剣そのものだ。よほど何か重大なことがあったのか。
しばらく中空に指をなぞらせていたクロエがため息をついてうなだれた。
「……おはようございます」
なんとなく声をかけにくい雰囲気だったが、挨拶をするとクロエが振り返った。
「起きましたか。おはようございます」
クロエが言って軽く会釈してくれる。さっきまでの雰囲気は消えていた。
口調は昨日と変わりはない。俺の考えすぎだろうか。
「よく眠れました?」
「はい、おかげさまで」
正直言って、仮眠程度しか取れないと思ったんだが、おかげでそれなりに休めた。体調もいい。
なんだかんだで徹夜は応える。
「ところで、何か見てたんですか?」
ステータスウィンドウを見ることは実はあまりない。
普通は戦闘後にHPやMPの状況を見るくらいだ。
レベルアップ直後ならもちろん見る。
成長したステータスを見て悦に入ったり、クラスチェンジ・ツリーを見て自分の未来を思い描いたりする。俺だって昨日は何度も自分のステータスウィンドウを確認した。
だが、クロエは俺と違ってレベルアップしてるわけじゃない。クラスもすでに最高ランクだ。
ステータスウィンドウを開けても、前と変わらない数字が並んでいるだけだと思うが。
クロエの落ち着いた顔にわずかに物憂げな影が差した。
「やっぱり……戻れないんだなって」
クロエがしばらく間をおいてつぶやいた。
……戻る?
まだ星見の尖塔の先は長いが……だからこそアイテムの不足とかは気になるかもしれない。
これで50階とかまで行っていると戻るのはあまりにももったいない。だが今はまだ20階層だ。
アルフェリズに戻って補充をし直すなら、確かにこの辺りが限界だろう。
「アイテムの不足を気にしているんですか?戻りますか?」
「いえ、違います。さ、支度をしてください。先に行きましょう」
クロエが首を振って俺を促した。
◆
朝食を済ませて、クロエに急かされるようにすぐに階段を上った。
階が進むと敵は少しづつ強くなっていく。そして相変わらず見たこともない相手が大半だ。
25階の奥、26階への階段の間近で広めの通路の立ちふさがったのは黒い毛並みの巨大な三つ首の犬のようなモンスターだった。威嚇するように三つの首がそれぞれ吠え声を上げて歯をむき出しにする。
村雨を構えるが、まだそいつまで距離がかなりある。
切り込むか、様子を見るか。どうするか。
「バーゲストですね。火を吐いてきます。私が切り崩すのでとどめを」
クロエが落ち着いた口調で言って震天雷を構えた。円を組み合わせたような穂先に赤い光が灯る。
バーゲストとかいう三つ首の犬が火を吐いてきたが、クロエの周りを浮いていた盾が飛んで炎を遮った。
近衛の大楯。
これもSSR装備で本人の意図で飛び回る盾らしい。だから両手武器の震天雷を使いつつ、盾でも守りを固められる。
「行って下さい」
クロエが言うと同時に空中に次々と爆発が起きた。爆発が鎖のようにつながってバーゲストを捉えた。バーゲストが悲鳴を上げて動きが停まる。
爆発を追うように走る。熱くなった空気が頬を撫でた。
爆炎が消えると、体のあちこちが焼けただれて硬直したバーゲストの姿が見える。
赤く燃えような目がこっちを見た。まだ動く。
蹴りだされた足をサイドステップでかわした。巨大な柱のような塊が横をすり抜ける。
巨体の下に入った。ここなら足も牙も届かない。頭上の黒い毛に覆われた腹に村雨を突き立てる。
軽い手ごたえの後に悲鳴が上がって、ドス黒い血が噴き出してきた。
血を避けるように首を方に回り込んで喉に村正を突き立てる。
切り裂きざまにバーゲストから離れた。
バーゲストが呻くような声を上げてよろめく。こっちに向かってこようとして、そのまま崩れるように倒れた。
バーゲストの体が消えて行って白い光が俺の体に吸い込まれていく。
ステータスウインドウを開けてみると、レベルが25になっていた。
「今のでレベルはどこまで行きましたか?」
「これで25です」
ステータスを見ると、HPとSTRが極端に伸びている。
それ以上に大事なのがスキルが強くなったことだ。地図探索が強化されればより広い範囲の状況を正確に捉えられる。
試しに意識を集中して地図を頭に思い浮かべた。
今までの倍近い距離の地図が頭に浮かぶ。これは便利だ。この塔の通路のつながりはかなり複雑で迷路のようになってる。
今まで何度か地図の範囲外を捉えられず回り道をする羽目になったが、これならそんなこともないな
それに、今まで曖昧にしか見えなかった敵も正確に捉えられる。
さすがに範囲ギリギリの奴までは正確には分からないようだが、遠い敵はどうせ接敵の可能性が低いからどうでもいいな。
「地図探索が強化されましたよ」
言うと、クロエが軽く微笑んだ。
「今後もしっかり働いてください」
「ええ、頑張りますよ」
「そういえば、あの蹴りをよく避けましたね。心配しましたよ」
「あいつの目が死んでなかったので。何かしてくると思ったんです」
バーゲストのダメージは大きかったが、あの目にはまだ戦意が感じられた。
戦意というか憎しみとか、自分に傷を負わせた相手への敵意という方が正確かもしれないが。
モンスターも本質的には俺達と同じ生き物だ。
知性はなくとも戦意とか恐怖心とかそういうのはある。目だけじゃなく、モンスターの動きはそういうものを知らせてくれる。
注意して相手を見ることは大事だ。
クロエが少し感心したように頷いた。
「やはり……レベル以上に戦い方が上手いですね」
「訓練はしてましたよ……ただ」
「ただ、どうしましたか?」
「自分で積んできた修練が無駄ではないのは嬉しいんですけど、これだけお膳立てしてもらってレベルを上げるのは、やっぱり引っかかるんですよね」
レベリングというのはあるから、こういうのは当たり前なんだが。
それでも、ほぼ戦闘不能のダメージを食らわせてもらって、さああとは止めだけ刺して、と言われるのはなんだか納得がいかないものはある。
まあ俺が弱いのが悪いと言われれば返す言葉もないんだが。
「そう言う感情もあるんですね」
「そりゃあ俺も冒険者ですからね」
勿論レベルが上がるのは嬉しいんだが、それでも自分の力でレベルを上げたいという気持ちはある。
しかし、我ながら贅沢な話だ。一昨日までは自分でレベル上げどころじゃなかったっていうのに。
「なるほど。そういうものですか」
クロエが首を傾げる。
この人にはそう言うこだわりは無いんだろうか。
「でも今はまだ辛抱してください。この後もあなたはHPやSTRを中心に上がっていきます。HPが高くなれば安心して戦えるでしょう。私のサポートも必要なくなります」
「なんで分かるんですか?」
「案内人のクラス特性は、戦闘においても前に立って仲間を導くことです。だからそう言う風になっている」
クロエが確信を持ったって口調で言う。
確かにステータスを見ると、STRとHPの上がり方がかなり速い。だが、なんでこの人はそんなことを知っているんだろうか。
かつて案内人の仲間でもいたんだろうか。
「ところで……さっきの敵」
「バーゲスト」
「なんで攻撃が分かったんです?戦ったことあるんですか?」
俺も知らない相手だったが、名前も行動も当たり前のように見破っていた。
「まあLV98ですから」
クロエがこともなげに応える。
確かにそんなレベルまで上がる過程で俺が本で読むよりはるかにいろんな奴と戦っているのは当然か。
「では行きましょう」
「了解です。この廊下の奥が上への階段です」