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「……朝から君を離したくなくなりそうだ」
「離さないでいてほしい……。だって今日は、お休みなのでしょ?」
この幸せなひとときを、もう少し味わっていたくなる。
「……ん、だがそろそろ朝食の用意ができたと、呼びに来る頃かもしれない」
その予感は的中して、外からコンコンとノックの音がすると、「お食事の準備が整いました」と、源治さんの声が聴こえた。
「少し名残り惜しいが、起きようか」
先に起き上がった彼に、手を引かれ抱き起こされる。
「最後に、もう一回だけ……貴仁さん」
呼びかけにつと上げられた彼の唇を、不意討ちに奪うと、
「……んッ」
驚いた様子で、彼が目を丸く見開いた。
あの港での場面でも、こんな風に自分からキスをして、彼をやっぱり驚かせたんだっけ。
なんだか私ってば、この頃ちょっと大胆さに拍車がかかってるような気がするけど。
だけどそれも、やっぱり貴仁さんのせい……かな。
だって彼って、思わずキスしたくなるくらいに魅力的で、
……罪作りなんだもの……。
朝食の席に座ると、「おはようございます、貴仁さま、彩花さま」と、源治さんから声をかけられた。
「ああ、おはよう」と、応える彼に続いて、「おはようございます、源治さん」と、返すけれど、正直”さま”付けで呼ばれるのには、未だに慣れなかった。
「しかし女性の方がいられると、やはり華やぐ感もありますね」
源治さんが搾りたてのオレンジジュースをグラスに注いでくれながら、にこやかに話す。
「このお屋敷には、女性っ気があまりなくて……。何しろ坊ちゃまは、女性には奥手でいらしたので……」
源治さんがそこまで喋ると、「……うんっ」と聞こえよがしに彼が咳払いをした。
「それぐらいにしておかないか……」
気恥ずかしそうに抑えたトーンで、彼が口にする。
そんな和やかな朝の風景に、ずっと前から自分もここに居たような家族らしい温かみを覚えて、思わずふふっと頬が緩んだ。