ところが貴仁さんにはやんわりと止められたものの、源治さんは一度喋り出したら止まらないらしく、
「私は、久我家のお祖父さまの代から、長くお仕えさせていただいておりますが、貿易を営んでいた貴仁さまのお祖父さまは、とても奔放な方でいらして、家にはあまりおらずに絶えず海外を飛び回っておられて──」
長々とお家事情を喋り続けた。
やや困り顔をする彼ヘ助け舟を出すつもりで、「源治さんは、お祖父さまの代から務めていらしたんですね?」と、差し当たり問いかけてみた。
すると、源治さんが「ええ」と頷いて、「海外をよく行き来してらしたので、お留守の間のお世話にとお屋敷の方に上がったのです」と、答えた。
「そうだったんですね」と私から返して、そこでおしゃべりの方も切り上げられるかなと思ったのだけれど、どうやらまだ話し足りないようだった。
「先々代の旦那さまは、始終家を空けられた末に離婚をされて、貴仁さまのお父さまもずいぶんと寂しい思いをされていましたが、貴仁坊ちゃまも同様に、先代の旦那さまがお忙しく小さな時からずっとお独りでいらしたものですから」
源治さんのそんなとりとめのない話に、私はいつか聞いた彼のクリスマスイブのエピソードを、ふと思い浮かべた。
「……あの、それじゃあ、これからは私がにぎやかにしちゃいますから。あっ、もちろんご迷惑じゃなければなのですが」
幼い頃のように、もう貴仁さんには寂しく感じてほしくはない一心で口にした『にぎやかに』という一言だったけれど、もしかしたらおせっかいかなとも思って、『ご迷惑じゃなければ』と、語尾に付け足した。
「迷惑なわけがないだろう」「迷惑なわけはございません」
貴仁さんと源治さんがほとんど同時に揃って口にして、
「……ありがとうございます。それでは、いっぱいにぎやかにさせてもらいますね」
心うれしさに、顔をほころばせた。
「ええええ、それはもう目一杯に」
にこやかな笑い顔で言う源治さんに、
「ああ、そうだな」と、彼が相づちを打った後で、
「ただ君がいてくれれば、私は何よりも幸せだから」
私にだけ聞こえるよう、そうこっそりと呟いて、言うまでもなくキュンとさせられてしまった。
「これでお子さまが増えたら、もっとにぎやかにもなりますね」
源治さんの言葉に、赤らむ顔を彼と向き合わせる。
「それも巡り合わせだからな。いつかは有りうることだろうから、その時を待てばいい」
そう微笑んで話す彼に、胸がほっこりとあったまるのを感じて、きっとこの人との元に生まれる子は幸せだろうなと心から思えた──。
二人とも家族が少なかったこともあって、子供は早くに出来たらとは思っていたけれど、そればっかりは彼の言うように『巡り合わせ』だからとは感じていた。
でも、もしかしたら、源治さんや貴仁さんの言葉が先触れの暗示でなんていうこともあるのかなと思うと、それだけでなんだかおめでたい予兆に包まれるようだった──。