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莉乃ちゃん
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【敦Side】
『しゅんだって、いつかは僕のこと嫌いになっちゃうかもしれないじゃん……っ!!』
泣き叫びながらひろに言われた言葉が、脳裏で反芻する。
もちろん怒りも覚えたが、それよりもショックの方が大きかった。
今までひろには、言葉でも行動でもたくさん愛情を伝えてきたつもりだったし
ひろにそれが届いていて、トラウマの男である浜崎のによって植え付けられた恐怖も、かき消せるぐらいには安心してくれていると思っていた。
でもそれは、俺の勝手な期待だったのだろうか。
…正直、ひろがあんなことを言うなんて思ってもみなかったし、考えたこともなかった。
病気やトラウマの影響だ、なんてことは頭では理解できていても
今回ばかりはダメだった。
余裕をなくして、ひろにキツい言い方をしてしまった自覚もある。
それでも、ひろの言葉が頭から離れない。
『浜崎くんだって最初は優しかったのに、甘い言葉をたくさんかけてくれたのに、途中から変わった…!』
『僕が鈍臭くて、面倒だから、えっちもできないから、罵って殴ってサンドバッグにした…!!』
不安定な子供が親に当たり散らすようなトーンだった。
ひろが、浜崎にDVを受け酷い扱いをされるようになったことを、自分のせいだと思っているのは言葉の節々から伝わってきたが
それを否定してあげたい気持ちよりも、俺と浜崎を重ねられたのが悲しかった。
俺だって、完璧な人間じゃない。
だから、どうしてそこまで言われなきゃ…という気持ちはあった。
でも、ひろを責めたいわけじゃない。
ひろが苦しんでいるのも、怖いのも分かる。
だからこそ、ひろの過去を知っているからこそ難しかった。
俺がどれだけひろを大切にしようと、優しい言葉をかけようと
浜崎のように変わってしまうんじゃないか、と疑われてしまえば
どんな言葉を選べばいいのか
どうやって寄り添ってあげればいいのか、どれだけ頭を捻っても分からない。
ひろはきっと、俺じゃなくて、未来を怖がってる。
分かっていても、上手く行かないことがある。
だから、どう接すればいいのかも分からなくなった俺は、普段通りにするしかなくなった。
朝も、いつも通り二人分の朝食を作って、ひろを起こしに行く。
一緒に食卓を囲んで、「いってきます」と「いってらっしゃい」を交わす。
最低限の会話はする。
でも、以前のような雰囲気はなかった。
ひろは俺と目が合うと、目線を逸らしたり、お風呂に誘ってみても「1人で入るから…」と断るようになった。
寝るときも、お互い背中を向けて眠る。
まるで冷めきった恋人のように、無機質な毎日だった。
しかし、そんなある日の夜
「しゅん…っ、しゅ、ん……」
暑くて目が覚めると、ひろが俺の背中にギュッと抱きついてきていたのだ。
起きているのかと思ってびっくりしたが、確かにひろは寝ていた。
(なんだ、寝言…か)