テラーノベル
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隣を歩く和葉も、同じように言葉を飲み込んでいた。
(好き、なんて言ったら…困らせるよね)
滉斗は優しい。だからこそ、絶対に受け止めてくれる。でも、それが逆に怖い。
今の関係が壊れてしまうくらいなら、このままでいい。
——本当は、よくないのに。
「ねえ、滉斗」
「ん?」
「もしさ」
和葉は一度言葉を切る。喉の奥で何かが引っかかる。
「…なんでもない」
結局、笑って誤魔化した。
滉斗は一瞬だけ和葉を見たあと、何も言わなかった。聞かないほうがいいと、本能でわかってしまったから。
沈黙が落ちる。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ、この距離が心地いいとさえ思ってしまう自分たちが、少しだけ苦しい。
やがて分かれ道に着く。
「じゃあ、ここで」
「うん」
和葉は立ち止まる。
滉斗も同じように足を止めた。
夕焼けが二人の影を長く伸ばす。
言えばいいのに。
たった一言でいいのに。
「滉斗」
「和葉」
同時に名前を呼んで、また止まる。
顔を見合わせて、小さく笑った。
「…先、いいよ」
「いや、そっちが」
結局、どちらも続けられない。
滉斗は少しだけ視線を逸らして言った。
「気をつけて帰れよ」
「うん」
それだけ。
それ以上は踏み込まない。
踏み込めない。
和葉は一歩下がって、手を振る。
「またね、滉斗」
「おう、またな」
背を向けて歩き出す。
数歩進んで、和葉は立ち止まった。
振り返りたい。でも振り返ったら、きっと全部こぼれてしまう。
滉斗も同じだった。
(好きだ)
(好きだよ)
同じ想いが、同じ夕焼けの中に沈んでいく。
届くはずなのに、届かないまま。
二人の距離は、ほんの少しの言葉だけで埋まるのに——その“少し”が、どうしても越えられなかった。
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