テラーノベル
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夜は静かに深まっていった。
和葉は自分の部屋のベッドに寝転びながら、スマホの画面をぼんやり見つめていた。トーク画面には、さっきの「またね」から何も続いていない。
打っては消して、打っては消す。
『今日は来てくれてありがとう』
それだけでいいのに、それすら送れない。
(重いかな…)
小さくため息をついて、スマホを胸の上に置いた。
頭に浮かぶのは、さっきの帰り道。
名前を呼び合った、あの瞬間。
(あの時、言えてたらな…)
でも、言えなかった。
怖かったから。
一方その頃、滉斗もまた同じようにスマホを握っていた。
ソファに座りながら、何度も画面を開いては閉じる。
和葉とのトーク履歴。
最後のやり取りは、短い「またな」。
「……」
思わず苦笑が漏れる。
(何やってんだろうな、俺)
送る言葉はいくらでもあるのに、どれも正しくない気がする。
『今日はありがとな』
それだけでもいいはずなのに、その一言すら指が止まる。
——一線を越えたくない。
そう思っているはずなのに。
(でも…会いに行ってる時点で、もうアウトだろ)
自嘲気味に息を吐く。
守ろうとしているのは、和葉の未来だ。
13歳の彼女には、もっと広い世界があって、もっとふさわしい相手がいるはずで——
そこに自分が入るべきじゃない。
わかっている。
わかっているのに。
スマホが震えた。
びくっとして画面を見る。
和葉からだった。
『今日はありがとう』
たった一行。
それだけなのに、胸が締め付けられる。
滉斗は少しだけ目を閉じて、それからゆっくり打ち始めた。
『こっちこそ。また時間あったらな』
送信。
それだけ。
それ以上は、踏み込まない。
すぐに既読がつく。
でも、次のメッセージは来ない。
きっと和葉も、同じように迷っている。
数分後。
またスマホが震えた。
『うん。またね』
それで終わり。
会話は、あっけなく途切れた。
なのに、不思議とその短いやり取りが、さっきよりもずっと近く感じさせた。
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