テラーノベル
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花斗の初フライト、読んでてこっちまでワクワクしちゃいました! 機長アナウンスで「パパだ!」って気づく瞬間、めっちゃグッときましたね。しかも操縦してるのが壱月って安心感がすごい。CAさんが「キャップ、気合入ってましたよ」って言うのもほっこりしました。家族の温かさがぎゅっと詰まった素敵な回でした!
やがて搭乗案内があり、ゲートへと足を進める。
花斗が『我こそ先に』と走っていきそうになって、私は慌てて花斗を抱き上げた。
「すごい! テレビとおんなじ!」
飛行機内に入ると、以前テレビで見た光景に花斗は胸を踊らせる。
「そうだね。でも、静かにしててね」
「はーい」
そんな会話をしながら座席につく。すると、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。
「……叔母さん!」
「愛音ちゃん、だよねえ。こんなに大きくなったんだ。お子ちゃん」
私たちの席は、左翼の少し後ろ。通路を挟んで三人がけの席のこちら側に、母の妹である君子叔母さんが座っていたのだ。
見回すと、どうやら私たち以外にも、ぽつりぽつりと親族が乗っている。
皆、姉の結婚式に向かうらしい。
「愛音ちゃん、旦那さんは?」
「あー、旦那は仕事で、現地で落ち合う予定なんです」
旦那、なんて言うのもくすぐったい。
少し照れながらそう言うと、後ろから花斗の声が飛んできた。
「パパはパイロットだよ! このひこうき、そうじゅうするの!」
それで、叔母さんが目を丸くする。
「おや、それはすごい偶然!」
それで、私は花斗を一度振り返り、叔母さんに向き直った。
「すみません、叔母さん。こちら、息子の花斗です」
私はそう言ったけれど、叔母さんはニヤリと口角を上げた。そして、花斗に聞こえないように声を潜める。
「パイロットなんて、いい男捕まえたじゃない」
別に、パイロットだから選んだわけじゃない。それに、私はずっと捕まえられなかったんだけど。
そんなことを思いながら、私は曖昧な笑みを浮かべた。
花斗を窓側の席に座らせ、シートベルトをかけてやる。
すると、花斗は手に持っていた壱月にもらった飛行機のおもちゃを、両手で持ち替えて遊び始めた。
「ママ、いつしゅっぱつするの?」
「もう少しだから、待っててね」
「つまんなーい」
私もシートベルトを締め、花斗ごしに窓の外を眺めた。
私も、飛行機に乗るのは久しぶりだ。
大学の卒業旅行以来かな、なんて思い返しながら、次はどうなるんだっけと考える。
すると、
「皆様、こんにちは。本日はNALJ航空をご利用頂きありがとうございます。〜」
CAさんがアナウンスを始めて、隣の花斗はきゅうにピシっと背筋を伸ばした。
「もうすぐ動くよ」
「うん」
小声でそう教えると、返ってきたのは緊張したような声。
ただの飛行機の離陸なのに。思わずクスリと笑うけれど、花斗は真剣な眼差しをぴくりとも変えない。
「当便の機長は海野。副操縦士は袴田。チーフは私、恵那でございます。ご用の際はご遠慮なくお声をおかけくださいませ。当便はまもなく出発致します。〜」
恵那さんの言った『海野』の言葉に、私も思わずピクリと肩を揺らしてしまった。
どうやら、私も少し緊張していたらしい。
ちらりと花斗を見るけれど、その表情はなにも変わっていない。
おそらく、気づいていないのだろう。
それからすぐに、飛行機はゆっくりと前進を始めた。これを壱月が操縦していると思うと、なんだか不思議な心地がする。
花斗は、飛行機のおもちゃをぎゅっと握りしめていた。
飛行機が加速を始める。がたがたと少し揺れて、花斗は私の袖口を引っ張った。
私はその手をぎゅっと包んで繋ぎ直し、
「大丈夫だよ、壱月が操縦してるんだから」
と、笑顔で話しかける。
花斗はぎゅっと唇を結んだまま、こくりと頷く。するとすぐに、体に少しの重力を感じた。
窓の外を見る。景色は斜めになっている。
無事、離陸したらしい。
「花斗、お空飛んでるよ」
「え? もう?」
「うん。もう少ししたら、シートベルトが外せるから。そうしたら、窓の外見
ようね」
「うん!」
花斗はさきほどまでの緊張の面持ちからうって変わって、急に顔を綻ばせる。
機体の揺れも収まり、大人の視線からは窓の外にキラキラと輝く海面が見えた。
しばらくすると、シートベルトサインが消える。
さっそく花斗のシートベルトを外してやると、座席に膝立ちになって窓の外を眺め始めた。
「なんか見える?」
「うーん……おそら」
思わずふふっと笑うと、そのタイミングで機内アナウンスが流れた。
「ご搭乗中のお客様、こんにちは。〜」
すると花斗は、はっと機内を振り返った。
「パパだ!」
目をキラキラ輝かせ、壱月の声に耳を傾ける花斗は、なぜか靴を脱ぎ、座席に正座をしていた。
「〜ありがとうございます。機長の海野です。当機はただいま箱根の南側上空を飛行中です。右側窓のお客様は、ぜひ窓の外を御覧ください。まもなく、ほんのりと雪をかぶった富士山が〜」
こちらの席は左側。窓の外には海しか見えない。
けれど、その手前の花斗の表情がおかしくて、それを見ているのが面白い。
やがて簡単な挨拶とともに壱月のアナウンスが終了すると、花斗は手をパチパチと叩いた。
「パパ、すごい!」
すると、花斗に気づいたCAさんがこちらに笑みを向けてきた。
私と目が合うと、彼女は軽く会釈をしてくれる。
「海野キャップの、奥様ですよね。本日ご搭乗なさるからと、キャップ、気合が入っておりましたよ」
CAさんはうふふと笑って、花斗にジュースを手渡してくれた。
私は恥ずかしくなって、肩をすぼめて会釈を返した。