テラーノベル
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飛行機は飛び続ける。
花斗はずっと、窓の外のキラキラと輝く海面を見つめている。
「イルカさんとか、みえないかなぁ」
ぽつりと零したその発想が可愛くて、私は思わずふふっと笑ってしまった。
「見えたとしても小さくて、わからないと思うよ?」
「えー、ぼくならみえるとおもう」
「いや、見えないって」
「みえるもん!」
そう言って花斗が窓に顔をくっつけた瞬間だった。
急にガタガタと機体が揺れ、慌てて花斗の腰を手で支える。
どうにか座らせると、花斗は「ひこうき、ついらくしちゃう!?」と青ざめていた。
「大丈夫、そんなことない。ちょっと揺れただけだよ、パパは世界一安全な空の旅を約束してくれたんだから」
そう、壱月なら大丈夫。壱月だからこそ、世界一安全だと私は言える。
壱月の空への思いと責任を、私は知っているから。私が花斗を必死に抱えた三年、彼だって戦っていたんだから。
しばらくして、揺れが収まる。花斗の肩の力が抜けるのを感じて、私もほっと安堵の息をつく。
すると、機内アナウンスが流れた。
「皆様、機長の海野です。ただいま当機が揺れましたのは、乱気流の影響でございます。それとは関係はございませんが、異常が見つかったため、当機は関西国際空港へ緊急着陸いたします。皆様を安全に空港まで送り届けますので、どうかご安心ください」
その声にはっとした。
異常。緊急着陸。
それは、壱月が一番嫌いなもの。そして、おそらく壱月が一番苦手なものだ。
機内が不穏な空気に包まれる。CAさんに怒号を飛ばす人も現れた。
「ママ……どうしたの?」
そんな空気に飲まれて、花斗も不安そうな顔をこちらに向けた。
私は精一杯の笑顔を作って、花斗にわかるように説明する。
「飛行機の調子が悪くなっちゃったから、途中の空港に着陸するんだって」
「大丈夫なの……?」
「うん、大丈夫だよ。だって、壱月の飛行機だもの」
自分に言い聞かせるようにそう言った。
けれど、一番心配なのは、壱月のこと。
丁寧な声色だったけど……大丈夫かな。
シートベルト着用の指示に従って、しっかりと花斗をシートに固定する。無論、私も。
それから、万が一に備えてCAさんが衝撃時の体勢を教えてくれる。けれど、機内に広がった不穏な空気はなかなか消えない。
「パパ……」
花斗が泣きそうな声で呟く。私はそんな花斗の小さな手をぎゅっと握った。
「大丈夫だよ、壱月だから」
「そうだよね……だいじょうぶだ」
花斗は繋いだ手をぎゅっと握り返してくる。そうしているうちに、機体がガタガタと大きな揺れに見舞われた。
私は必死に、花斗をかばうように覆い被さる。
機体はそのまま、揺れ続ける。必死に花斗を抱きしめ、どのくらい経っただろう。
揺れが収まり、ふと顔を上げると、すでに地上に着いていた。
「花斗、もう大丈夫だよ」
花斗のシートベルトを外してやると、即座に窓の外を見た花斗は「もう飛んでない」と、少しがっかりしていた。
やがて、CAさんから振替便の案内があると、機内は落ち着きを取り戻していった。
皆ゆっくりと列になり、指示通りに飛行機を降りていく。
私も花斗を連れ、列の最後に並んだ。
すると、飛行機の出口で、頭を下げる壱月が目に入った。
「壱月……」
私の声に顔を上げた壱月は「ごめんな」とこちらに苦笑いを向けた。
「ううん、そんなことより……壱月は大丈夫?」
彼の身を案じたのに、ニカっと笑った壱月は私の背中をバシッと小さく叩いた。
「俺を誰だと思ってるんだ。世界一安全に飛行機を飛ばすキャプテン、なんだからな」
すると、花斗が声を上げる。
「あーパパ、ママたたいた!」
「これはいいの! ほら花斗、行くよ!」
周りのCAさんたちの苦笑いが恥ずかしくなって、私はまだ暴れそうな花斗を抱き抱えて飛行機を降りた。
それから、案内された振替便に乗り込む。
「またひこうき、のるの?」
不安げな声色に、私は花斗の顔を覗き込む。
「……怖い?」
「ううん。だってぼくも、おおきくなったらそうじゅうするんだもん!」
花斗はふんっと鼻を鳴らして言う。
「そっかあ、花斗は強いね」
それで、私たちは振替便に乗って、沖縄へと向かったのだった。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 今回のエピソード、すごく胸に響きました。乱気流と緊急着陸の緊張感の中、花斗くんを一生懸命守ろうとするお母さんの姿勢が切なくて…「壱月だから大丈夫」って自分に言い聞かせる強さ、すごく伝わってきました。最後の花斗くんが「操縦するんだもん!」って言うところ、泣きそうになりました。素敵な家族の姿を見せてくれてありがとうございます🌙