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朝霧さんの言葉は衝撃的だった。確かに日本へ行くことは私の大きな望みのひとつだけど、それを口外したことはないしフェルにも話したことはない。先ずは交流を最優先に考えていたし、その辺りの調整はハリソンさん達にお任せしていた。
まあ、合衆国での観光が粗方終わったら次は日本かなぁって考えたことはあったけど。
少なくともハリソンさん達からはまだそんなお話を受けていない。大丈夫なんだろうか?
「驚かせてしまって申し訳ありません」
「いえ、ハリソンさん達からはなにも聞いていないからてっきり合衆国へ行くのかと」
「本来はその予定ですし、私やニシムラさんはそのために派遣されました。しかし、我が国の首相が内々でティナさんとお会いしたいと」
「美月さんが?」
椎崎 美月首相とは前世からの深い縁があって、私が唯一前世のことをカミングアウトした人だ。
この時の会話だけは、アリアにも聞かせていない。聞かないようにお願いしたと言うのが正しいかな。混乱を招くと思うし。
美月さんにカミングアウトした後私は直ぐに飛び出して、そしてスーパーマーケット事件が起きた。だから美月さんとはその後会うことはなかったんだよね。首相は多忙だから、私が落ち着いた時には日本へ帰国していたし。
「はい。どうでしょうか?」
「ハリソンさん達は承知しているんですか?」
ハリソンさん達に任せてある以上、それは確認しないといけない。
「いえ、あくまでも内々の話です。合衆国側にはまだ説明していません」
「そうなんですか?」
これは……美月さんの個人的な要望もあるだろうけど、私達を日本へ招待したいと言う日本政府の思惑もあるのかな。
確かに私達は合衆国としかまだ交流していない。ウクライナへは行ったけど、あれはお忍びの観光だったし現地の人と少し交流するだけだった。つまり公式な訪問じゃないし、バイカル湖については誰にも察知されていない。
二番目に私達を公式に招いた国となれば、交渉や交流にも弾みが付くだろうね。
私個人としては前世の故郷だ。はっきり言って合衆国より遥かに思い入れはある。他を無視して日本とだけ交流してしまいそうになる。だから最初は合衆国を選んだ。地球最大の大国って面もあるけど。
「もちろん我が国の思惑もありますし、ティナさんの苦手な政治的な面も多分に含まれています。
しかし、椎崎首相が貴女とお会いしたいと言う想いに打算はありません。それは断言できます」
うんまあ、そうだろうね。それを公表しても良いのに、それをしていない。私達だけの秘密にしてくれているみたいだ。
私との個人的な繋がり。これほど有効なカードは無いだろうに。好い人になってくれたみたいだ、良かった。
とは言えこの要請をそのまま受けたらハリソンさん達に対する不義理になっちゃう。いや、散々迷惑かけちゃってるから今更だけどさ。
「お話は分かりましたが、非公式に行くのは避けたいと思います。ウクライナは観光だったけど、今回は美月さん。日本の首相とお会いするんです。ハリソンさん達に不義理を働きたくはありません」
「……仰有る通りです。ですが、合衆国政府が首を縦に振るか……」
朝霧さんも好い人だ。私からハリソンさんにお願いするように要請すれば簡単なのに、それをしない。私の手を煩わせるような真似をしたくないんだろうなぁ。
別に面倒なことじゃないし、朝霧さん個人にも私のやらかしで迷惑をかけてる負い目もある。美月さんともお話ししたいし、何より日本へ行けるなら行きたい。
「分かりました。私からハリソンさんにお話しします」
「ティナさん……!?」
「そうですね、妹のティリスを観光に連れていきたいけど、他に良い場所はありませんかって聞いてみようかな」
今の情勢を見る限り、アジアの地で合衆国が訪問地として真っ先に挙げるのは多分日本だ。間違っても中華じゃない。
……いや、中華料理は好きだし万里の長城とか生で見てみたいけど、あそこの政府は怖い。
いやもちろん前世の記憶だし今では違うかもしれないけど……うーん、説明が難しい。
「確かにそれなら……以前合衆国以外の訪問地として最有力であると打診されています」
「それなら良かった。今からハリソンさんに連絡してみますね」
ここで私はまた失敗した。つまり、また時差を考えていなかったんだよ。同じ失敗を繰り返してばかりの自分にうんざりする。
相変わらず可愛らしいパジャマとナイトキャップ姿のハリソンさんは、笑って許してくれた。むしろ。
『私達のことまで気に掛けてくれたこと、感謝する。日本政府にも正式に要請しておくよ』
「それだと合衆国の立場が悪くなるんじゃ……」
私の個人的なわがままで、合衆国は関与していないって状態にしようと思ってたんだけど。
『君達の行動を縛るルールは存在しないし、理由もない。そして手段もないのは理解しているよ。にも拘らず、君達は私達に配慮してくれて、合衆国の立場まで考えてくれた。だが、これ以上君の好意に甘えていては合衆国の名が廃る。上手くやるさ。だから、君達は日本を満喫してほしい』
「ハリソンさん……ありがとうございます。日本で用事を済ませたら合衆国へ向かいますから、交易品はその時に」
『楽しみにしているよ』
ハリソンさんの好意もあって、アッサリと日本訪問が実現してしまった。私のわがままとしないのは政治かな?
『合衆国はティナを制御できていないと言う印象を持たれないためかと。主導権を握っている立場として、そのような印象は致命的ですから』
「なるほど」
アリアの解説で取り敢えず納得しておく。よく分からないし、それで私達に不利益はないし、ハリソンさん達が助かるなら問題ない。悪巧みをしないなら、ね。
日本訪問が決まって、次に移動手段が話し合われた。転移でも良いんだけど、ここは招待される身として甘えることにした。
結果、私達三人は日本の大型輸送機で向かうことになった。朝霧さんは最初政府専用機を手配するなんて言い出したけど、今この国の飛行場は支援物資を満載にした各国の輸送機や救助隊の飛行機でごった返している。
そんな場所にわざわざ政府専用機を呼び寄せたら、混乱を招いてしまう。だから、日本へ帰る輸送機に便乗させて貰うことにした。
「ティナちゃんってあれだよね、無自覚に胃痛と頭痛を撒き散らすタイプだよね☆」
「なんでさ?」
なぜかフェルまで納得してるし。解せぬ。