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ネフテリアからの手紙にはこう書かれていた。
『ミューゼ達と旅に出ます。このままでは生きていけない!』
それを読むのは、納得顔のフレアと、目を点にしたガルディオ。
「まぁ深刻な問題よね……」
「いや何があった娘よ」
流石に本当の事をそのまま手紙に書くなど出来るわけが無く、とんでもなく抽象的な内容になってしまったが、同じ女であるフレアにはしっかり伝わったようだ。
ガルディオは分かっていないので納得出来ないが、フレアから『乙女にとっては大事件ですから』と説得され、とりあえず了承する事にした。
「まぁ先生も一緒だから大丈夫か……」
同行するピアーニャに絶対の信頼を寄せている王族。しかし、同行するメンバーがそれを許さない。
「アリエッタちゃんもいるから、ピアーニャ先生の安全は確保できますね」
「ちょっと誰か護衛! 今すぐテリアを追いかけろおぉぉ!」
手紙に書いてあるメンバーは、ネフテリア、ピアーニャの他に、ミューゼ、パフィ、アリエッタ、クォン、ムームーとなっている。
何かトラブルが起こった時、ネフテリアがミューゼを守り、ミューゼとパフィがお互いとアリエッタを守り、アリエッタはピアーニャを拘束する。そして、クォンとムームーがお互いを守り合う事になる。
誰にも守られずに、最も無防備になる王女様であった。
「王族の扱い本当に酷いなオイ」
「まぁあの子なら大丈夫でしょう。あのリージョンの報告が楽しみだわ」
楽観的なフレアは、クォンとノエラに頼んで完成させたパフィ柄のクッション(モノクロ)を撫でながら、心の中でネフテリアを応援するのだった。
「それじゃあ行くわよー!」
「なんでそんなテンション高いのよ」
「テンション上げないと落ち込みそうだからよ!」
「………………」
エインデルブルグの転移の塔に、ミューゼ達がやってきた。
今回も新しい服でのリージョン旅行。アリエッタがクォンから得たイメージを元に、いくつか描き上げた中から選ばれた渾身の衣装である。
「なんでこんなボディラインが出ちゃう服にしたのよアリエッタちゃん……」
「選んだのはノエラさんですけどね」
「付属品多いけど、運動しやすそうなのよ」
アリエッタがイメージしたのはSFやメカ娘。ボディースーツに何かが噴射しそうな部品を付けたり、腕に魔法で浮かぶリングを付けたりと、かなりやりたい放題な見た目になっている。ただの服なので実用性は無い。
ネフテリアの衣装は何故かハイレグボディースーツ。しかしお腹周りには魔力で浮かせた大きめの腰パーツがあるので、見えて欲しくないお腹は見えないようになっている。他にも腕には細めのアームパーツ、肩から背中にかけて翼の骨型のパーツが付いている。当然飛ぶ機能は無い。そして足にはやたらと重厚感のあるブーツが装着されている。
「つ、強そうですよ?」
「そんな笑いそうな顔で言うなーっ! アンタ達だって同じよーなものなんだからね!」
笑いを堪えたクォンにフォローされて、とっても不満なお姫様。お腹周りに気を使われている所が、全員どうしても気になっているようだ。
「まぁ何度かクォンの服見たから、割と平気なのよ」
「テリア様みたいな変な露出無いし」
「ぐぬぅ……」
クォンの衣装は出会った時と同じで、ハイレグボディスーツに様々なパーツを装着している。しかしネフテリアのように隠すといった事はしていない。ボディだけはやたらと無防備である。本人曰く、軽量化による機動力重視型とのこと。
ミューゼの衣装は、トップスが長袖スーツ、ボトムスがショートパンツで、へそ出しになっている。腰から左右に長めのパーツが付いており、腕には大きなリングもある。体のパーツは大人しめだが、杖がやたらとゴテゴテしていた。耳の部分には謎のアンテナもあったりする。
パフィの衣装は、トップスがノースリーブ、ボトムスがショートパンツ。下半身と腕のパーツがかなり重厚感を帯びているが、上半身は薄着なうえにパーツで寄せて上げているせいで、胸の主張がかなり激しい事になっている。
ムームーの衣装は、露出はほぼ無い。ただカッコよさを重視したデザインになっていて、トゲトゲしたパーツが多い。糸を通す小さな穴も開いていたりする。
「おまえら、わちのとコウカンするか?」
『勘弁してください』
全員に衣装交換を即拒否されたピアーニャの衣装は、猫に似た動物型。手足には子供向けなのか小さなパーツはあるが、何故かスクール水着風の物を着せられて、胸にはしっかりと『ぴあーにゃ』と刺繍されている。
「なんでわちだけナマエいりなのだ! マイゴになると、おもっているのか!?」
最年長者にとっては屈辱だが、拒否したら作者が泣くかもしれないと脅され、渋々着てしまったのが運の尽きである。
その隣にいる作者も、恥ずかしそうにモジモジしていた。
(おかしい……ちょっぴり悪ノリして、ミューゼ用にセクシーなメカ少女衣装を描いたのは悪かった。でも、何でそれを僕が着せられてるんだろう)
アリエッタの衣装は、ネフテリアとほぼお揃い。ただし子供向けという事で、下の角度は際どくない。可愛さを重視したのか、背中にある翼のパーツは鳥の羽を模している。後、やたらとピンクが多い。
実は対ドルナ用武器のデザインから、アリエッタの好きな色はピンクや白、そしてパステル系の明るい色だと思われていた。デザインした本人にとってはそんな事は無く、ただピアーニャに似合うから、魔法のイメージに合うからという理由だけで作っていったのだ。
そんな可愛い報復を食らったアリエッタが、そうなった経緯を理解している訳がない。ただ恥ずかしがって、大人たちからデレデレした目で見られ続けていた。
「今更だけど、よくここまで再現しましたよねぇ。魔法って凄い」
「姉さん達もスーツ部分を作ってたけど、このパーツはワグナージュ人のお店で作って貰ったんだって。ハリボテだから軽くて安全で安いから、クラウンスターからもこういう服出てるし、新しいリージョンの服だからって売れてるみたいだよ」
「売れてるのよ……?」
感心するクォンに、微妙に流行となりかけている事を説明するムームー。たまにルイルイによって調査に向かわされているらしい。
「道理で、チラチラ見られたけど、変な目では見られないと思ったよ。少し普及した事で珍しさが減ったんだね」
「えっ、これ変な服なの?」
「クォンにはそれが普通だからねー。わたしたちも最初は驚いたよ」
「ねぇ……」
いつの間にかファッショントークに発展してきたところで、一番羞恥心を抱えているネフテリアが手を挙げた。しかしトークは止まらない。
「ねぇ! いつまでこんな所にいるの!」
『あっ』
大声でようやく我に返り、本来の目的を思い出した。ピアーニャも傍観していたが、服のせいで乗り気になれず、黙っていたのだった。
「……それじゃ、いくか」
「いく?」(やっとお出かけか。たしか行先は……)
気を取り直して、ミューゼ達は塔の中へと入っていった。ピアーニャとネフテリアがいるので、手続きはスムーズに進んでいく。
中央の台座に全員が立ち、転移の準備が整った。
はやくダイエットの旅に出たいネフテリアが、気合を入れなおして叫んだ。
「よーし、いざ『サイロバクラム』!」
── サイロバクラム ──
足元に沢山のブロックが……これが土? あっちには直方体の長い棒が……あれは木?
石も家も雲も太陽も、みんな四角のブロックで出来ている。
そんなカックカクな世界の中で、ヒトはとある力を発見した。
それはどんな事でも出来てしまう、夢のエネルギー『エーテル』。
無限の力を得たヒトは、それで何を成すのだろう。
破壊? 創造? それとも豊かな生活? きっと使い道も無限大。
でもその力、本当にうまく使えているの?───
「うああああああーーー!」(なんのサンドボックスだよこれはっ!!)
「ちょおおおっ!? アリエッタどうしたのおおお!?」
目的のリージョンに着いた瞬間、アリエッタが叫んだ。前世で物凄く見たことのある感じの光景だったからだ。
至る所にブロック。近くにある崖はきれいな直角。空を見ても四角だらけ。そんなどこかのゲームのような世界に入ってしまったら、ツッコまずにはいられない。共通の言葉をマスターしていたら、間違いなくその言葉で叫んでいただろう。
「すごいリージョンなのよ……ほら土拾ったら真四角なのよ」
「くだいてみろ」
「え? あ、砕いたら小さな四角になったのよ」
「いやどーゆー事?」
これまでの物理法則とはまた一線を画したリージョンで、初めて来たミューゼとパフィはひたすら戸惑っていた。
アリエッタは戸惑うなんて生易しい状態ではない。完全に挙動不審になって、近くを走り回っている。それをムームーが、転ばないかハラハラしながら追いかけている。
一方同じく初めてサイロバクラムに来たネフテリアは、一応報告書でこういうリージョンだという事は知っていたので、落ち着いて周囲を見渡している。
「えーっと、いいですかね? お姫様とミューゼとパフィ」
ちょっと遠慮がちに、クォンが声をかけた。
「ここがクォンの故郷のリージョン。『サイロバクラム』です。すっごい驚きました?」
「そりゃあ驚くわよ。こんなカクカクしたリージョン、初めてだもの」
こうして、一行は『サイロバクラム』と名付けられたクォンの出身リージョンへやってきたのだった。
目的は観光とダイエットである。しかし、
「って、カクカクな中でダイエットって、どうすればいいんだろう……」
ダイエット以前のよく分からない問題に直面していた。