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ネフテリアがここでの活動に悶々と悩んでいる間、ミューゼは周囲の景色に目を移し、改めて驚いていた。
「えっ、これが植物?」
「うん。やっぱり驚くのね」
驚愕と興味でいっぱいのミューゼが、地面に突き立った四角い棒へと手を伸ばす。どこからどう見ても柱にしか見えないが、これがサイロバクラムの樹木である。
ちなみに葉は薄い四角で、枝の先端も鋭角ではなく断面のようになっている。
「なんか光ってる……」
木の幹には沢山の細い真っ直ぐな筋が通っており、その筋が光っているのだ。これも他のリージョンでは見られない現象である。
「それはエーテルラインって言って、エーテルの通り道よ」
「エーテルって、確か魔力と同じだって、ゼッちゃんが言ってたやつよね。たしかに感じる力は魔力と全く同じだわ」
「ファナリアから来た人はみんなそう言うね。凄いなぁ」
自分の感覚で魔力そのものを操る事が出来るファナリア人は、当然ながら感覚だけで魔力を感じ取る事が出来る。
その魔力をエーテルと呼び、道具の動力として利用しているサイロバクラム人は勿論、他のリージョンの人々にも、魔力を感じるという事は出来ない。
その事を初めて聞いたのか、ミューゼが驚いていた。
「そうなんですか?」
「えっ、知らなかったの? パフィも魔力感じなかったでしょ?」
「なのよ。でも気にしてなかったのよ」
なんとラスィーテ人のパフィと一緒に住み、活動していたというのに、全く気にせず仕事をしていたミューゼ。
そんな無関心なシーカーに、ネフテリアが呆れている。
「いやぁ、ただの慣れかなと……」
「それもあるけど、能力の質というか、そういうのが他のリージョンと違うのよ。実際ピアーニャだって魔力を感じる事は出来ないし」
「そうなんですか!?」
「そーだよ」
「プロだし、みんな強いし、魔力感知出来るものとばかり……」
「……もうちょっと他人の能力に関心持とうね?」
「はい……」
ミューゼは注意され、軽く落ち込んだ。それを見たアリエッタが、これはチャンス!と思い、優しい目でミューゼの手を取り慰め始めた。拒む理由など一切無いミューゼは、それをあっさり受け入れ、甘え始めた。パフィが羨ましそうに見ている。
「こらこら、なにやってるんだ」
「ねぇピアーニャ。今度、魔力とリージョンについて講習でもしたら?」
「……そうだな。ゼッちゃんからのジョウホウも、まとまったからな。ロンデルにもソウダンしてみるか」
神であるイディアゼッターは、特に隠す理由が無いという事で、ピアーニャ達の質問に答えていた。その中に、魔力についての話があったのだ。
予備知識がしっかりしているネフテリアも直接聞いていたので、ピアーニャと一緒になって教える側に立っている。
ミューゼもそうだが、魔力が無いと思っていたパフィとムームー、その辺りの事を初めて聞く事になるクォンは、これは知っておくべき事だと何となく感づいている。話の内容が半分以上分からないアリエッタは、当然分かっていない。
「まぁまぁ。折角だから今、大まかに聞いてもいいですか? クォンもエーテルと他のリージョンの事知りたいですし」
「そうだな。おいミューゼオラ」
「出かける前に、少し予習だって。ほらほら、アリエッタちゃんもおいでー」
「はいっ」
建設途中の転移の塔の近くで、いきなり勉強会が行われる事になった。ネフテリアに促されたミューゼが、魔法でテーブルとイスとなる木を生やした。
「……な、なんかカクカクな家具が出来た」
「ん? オマエのマホウって、リージョンにあわせてかわるのか?」
「意識せずに地面から生やすと、現地の植物になったりしますね」
生えてきたのは大きな四角テーブルと、ブロックで出来たようなベンチが数個。使いやすそうだが、魔法とはいえ地面から生やした木には見えない。
クォンだけは、形ではなく魔法の方に驚いている。サイロバクラムには魔法自体がないので当然というのもあるが、サイロバクラムの植物を操作した事に驚いていた。エーテルラインもしっかり付いているので、現地の木で間違いない。
ミューゼは「意識せずに」と言った。つまり意識すれば、自分の望む木をそのまま生やす事が出来るという事である。以前にクリエルテスでも魔法を使った時、植物が存在しないリージョンであるにも関わらず、望みの植物を生やしていた、その分魔力の消耗は大きくなるが、かなり自由な魔法である。
「まぁとりあえず、すわれ。パフィ、のみものをたのむ」
「はいなのよ」
全員席に着いた。アリエッタはもちろんピアーニャの隣で、甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている。ピアーニャは逃げられない。
頑張ってアリエッタをスルーし、シーカー達に対してピアーニャとネフテリアによる説明が始まった。
「さて、『マリョク』と『エーテル』はおなじモノだから、いったん『マリョク』でトウイツするぞ」
「はーい」
「じゃあまずはファナリアの魔力の使い方からね」
ファナリアでは、体内外の魔力を人の精神で操り、変化させて、魔法として使用する。そのため、魔力をその身で敏感に感じる事も出来るのだ。
エテナ=ネプトも似たようなものだが、体内の魔力しか使えない。
ラスィーテ、ハウドラント、アイゼレイル、シャダルデルクといった、自分以外の特定の物を自由に操作するリージョンの能力は、魔力を使っている自覚は無い。認識や接触によって動きを指定しているだけで、まさかその操作が魔力によって行われているとは、ピアーニャすらも思わなかったのである。
そしてクリエルテスは、人の身体自体が魔力と石によって形成されている。身体の増減、変形、分裂などが可能になっているのはその為である。
「知り合いだけでも面白生物だらけなのよ」
「……まぁヒテイはできんな」(いちばんワケがわからんのが、ここにいるメガミだがな)
「その中でも、ワグナージュとサイロバクラムは似てるのよね」
ワグナージュは人そのものに特筆出来るような特殊能力は無いが、木や石や金属で作った道具に魔力がこもった石を組み込み、念じる事で起動させる事が出来るという技術を持っている。
念じるというのは、もちろん魔力を通すという事。ファナリアと交流をした事で、念じる事が魔力を込めるという事と同じという事が判明し、開発と研究が飛躍的に発展したという経歴がある。
さらに、魔力がこもった石を燃焼させると、爆発的にその力が向上し、短い間に限り少ない石でより大きな物を動かしたりする事を可能としている。
「なるほど、確かに似てますね。ここでは燃焼とかはしないですけど、このエーテルをバッテリーに組み込んで、安定した動力にしていますから」
クォンがワグナージュの技術に興味を持ったようだ。用途は似ているが、利用方法や運用方法が全く違うらしい。アリエッタが言葉をしっかり理解していれば、蒸気機関と電気の違いかなと思った事だろう。
こうして人種と魔力に関する簡単な勉強会が終わった。
「Zzz……」
「すぅ、すぅ……」
「おきんかああ!!」
なんとパフィとムームーが、安らかな顔で潰れていた。当然ピアーニャに叩かれる。
「ふえっ!? ごめんなさいごめんなさいおきてますっ!」
「ミューゼ、よだれよだれ。舐めていい?」
ミューゼはギリギリ寝かけていただけである。長い話だったが結構頑張ったようだ。ちなみに、しれっと変態発言したネフテリアは、全員にスルーされて軽く落ち込んだ。
「はぁ、とりあえずリカイできたか?」
「はい多分!」
「途中までは!」
「理解よりもお菓子が出来たのよ」
「ありがとなの!」
「やっぱりまとめて教えるもんじゃないね」
「……うむ、わちらがわるかった」
詰め込み授業はあまり身につかないと実感したピアーニャであった。
この後、塔の傍になんとなく作ったミューゼの家具は、今後も使えそうだと判断され、そのまま放置……どころか、いくつか作ってくれとピアーニャに頼まれた為、塔内外にテーブルと椅子をいくつか作っていった。
所々に木のブロックが生え、アリエッタはなんだかアスレチックみたいで楽しそうだと思っている。
「すまんな、こんどオゴるから」
「いえいえ、それよりもアリエッタと遊んであげてくださいな」
「え゛っ。いやいや、ヒツヨウケイヒというやつだから……」
「お金よりもアリエッタの教育の方が大事ですよ」
ピアーニャは激しく後悔した。直後、アリエッタに捕まり、椅子として生やした木のブロックが多い所で、猛獣の真似をしたアリエッタに追いかけられる羽目になったのだった。
「追いかけっこなのよ?」
「良かったわねーピアーニャちゃん。お姉ちゃんに遊んでもらえて」
(おまえら、あとでおぼえてろおおおお!!)
「ぴあーにゃ、まてー!」
アリエッタとピアーニャの戯れの横で、大人達はのんびりとしたティータイムを満喫するのだった。
「はぁ、はぁ、ふぅ……」
「あ、お疲れなのよー。お茶でも飲むのよ。アリエッタもおいでなのよー」
「はいっ」(んふふ、ぴあーにゃはずっと喋ってたから、ご褒美になったかな? みゅーぜですら眠そうだったのに、頑張ってたからなー)
子供は遊んであげるのが、何よりのご褒美。そう思っているアリエッタの顔はとても満足気である。お陰でピアーニャの顔は、疲れと不満でいっぱいである。
「えーっと、総長さん大丈夫?」
「そうおもうなら、はやくたすけろよ……」
「えっ、えーっと……なんか楽しそうだったから」
クォンは慰めようとしたのだが、うっかり言葉選びを間違えて追撃。ピアーニャはしばらく不貞腐れながら、休憩を取っていた。
呑気に過ごしていると、突然大きなものが、塔の近くに転がり込んできた。
「うん?」
「ちっくしょぉっ!」
転がってきたのは大柄な男性。灰色の肌で、ピッチリとした全身スーツを着込み、手足にゴツゴツしたパーツを付けている。見た目からしてサイロバクラム人である。
男はある方向を睨み、腕を交差させて守りの姿勢になった。すると、男の少し前に、光の壁が発生した。
直後、茂みの奥から飛び出す大きな生き物。猛スピードで光の壁に衝突し、動きを止めるが、そのまま男を光の壁ごと押し続ける。それは、高速回転させたクチバシで貫こうとする、強靭な足を持った鳥の様な生き物。光の壁と接触しているクチバシの先からは、火花が散っている。
「あ、紹介しますね。こちらの男性はクォンの先輩で、ジェクト先輩。で、そっちのが、この近辺に生息する害獣という生き物で、『ドルティパス』と言う個体名で呼ばれています。クチバシを回転させて獲物を仕留めるちょっと危ない生き物なんですけど、そのクチバシ攻撃をジェクト先輩が障壁で防いでいる所ですね」
「お、おう?」
いきなり紹介と解説を始めるクォン。その間にも、ジェクト先輩と呼ばれた人物は、必死に『ドルティパス』の攻撃を防ぎ続けている。
目の前で起きている事とクォンの温度差に、ピアーニャ達は出そうとした手を止め、茫然とした顔で紹介を聞いてしまっていた。
「呑気に解説してんじゃねーっ! 早く助けろよおおおお!」
けたたましい音の中で、男は後輩に向かって全力で叫んだ。