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次の日。
私は教室に入るなり、冬月さん(澪)を探していた。
(あ、いた……!)
相変わらず窓際のいちばん後ろ、
静かに座って本を読んでいる。
でも昨日より、
なんとなく近づきやすい気がした。
「おはよ、冬月さん!」
声をかけると、
澪は本を閉じてこちらを見た。
「……おはよう。りな」
(名前呼んだ……!
昨日より距離縮まってる……!!)
テンション上がりすぎて、
私は勝手に隣の席に座り込んだ。
「ねぇねぇ、何読んでたの?」
「……ミステリー。好きなの」
「へぇー! りな読んだことないけど、冬月さんらしいかも」
「“らしい”って?」
「だって冷静で頭いい感じするし!」
澪は少しだけ視線をそらした。
「……褒めても何も出ないよ」
「褒めてないよ〜? 本心だもん」
「……ふっ」
微妙に笑った。
ほんの数ミリだけど、口角が上がった。
(あっ、また笑った……!
澪ちゃん、笑うとめちゃめちゃ可愛い……)
放課後。
昨日と同じように一緒に帰ることになった。
歩いていると、
澪がポツリと話をふってきた。
「……りなって、なんでそんなに話すの好きなの?」
質問してくるの珍しい。
「えっ? うち?
んー……なんか、人と話してると楽しいから?」
「……そう」
「冬月さんは? 無口なのってなんで?」
澪は少し思案したのち、答えた。
「人の顔色読むの、得意じゃない。
だから黙ってたほうが楽なの」
(あ……そうなんだ)
その言葉、なんか胸に来た。
「ねぇ冬月さん。
うちの前だと、別に気を遣わなくていいよ?」
「なんで?」
「うちが勝手に喋るから!
冬月さんは聞いててもいいし、喋りたかったら喋っていいし!」
澪はじっと私を見て、
すごくゆっくりした声で言った。
「……あなた、変わってる」
「そう? いい意味?」
「……たぶん」
その“たぶん”に、
私は勝手に満足していた。
公園の横を通りかかった時、
突然ぱらぱらと雨が降り出した。
「わ、やば! 濡れる!」
「傘……ない」
「うちも!」
走って屋根の下に避難すると、
ふたりで肩を寄せ合った形になった。
(……近っ)
見たら澪も少しだけ顔が赤い。
「……雨、嫌い」
「せまいから?」
「違う。
こういう時、どうすればいいかわからない」
そう言って視線を落とす澪。
なんか……ほんとに不器用で、
でも悪くなくて、むしろ可愛い。
「じゃあさ」
私は小さく手を差し出した。
「怖かったら、手つないでれば?」
「……っ」
澪は一瞬驚いた顔をしたあと、
ためらいながらもそっと手を伸ばしてきた。
指が触れて、重なる。
(わ……あったかい)
澪は俯いたまま、
聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「……こういうの、初めて」
「うちもだよ」
それだけで、
雨の音が少し遠く感じた。