《少し力になれたらなと思い、歌わせていただきました》
イヤホンを外し、曲の余韻に浸る。
こめしょーの力強い声の中にある優しさがよく伝わる歌声に、思わずほうと息をついた。
『みんなのヒーロー……ね』
その元気と明るさに救われてきた人はきっと数え切れないくらいいるだろう。
私も例外じゃない。
何も考えていないようで、その実誰よりも周りを気遣い、恋人の私にすら甘えてくれないヒーロー。
「お疲れ〜い」
今日もほら、濃い隈をメイクで隠して口角を上げる。
でもねこめしょー、他の人は騙せても私は騙せないよ。
『こめしょー、おいで』
ピタリと動きを止め、こちらをぱちぱちと瞬きしながら見つめる彼に、もう一度同じトーンでおいで、と告げる。
普段なら訝しげな眼差しでこちらを見て、悪戯を疑うだろう行動にも素直に従い、ちょこんと私の膝に腰かける。
無意識に私の脚を潰さないよう自分の脚に力を入れているのか、体重はあまり感じない。
するりと私の首に腕が回ったかと思えば、肩に金髪が降りてくる。
『お疲れ様、皆のヒーロー』
すりすりと擦り寄る体温に、僅かに燻りがチラつく気がしたが、気の所為ということにしてその柔らかい髪を撫でる。
『おかえり、私の愛しい人』
今だけは。せめて私といる時だけは。
ヒーローであることを忘れ、一人の人間として安らかに過ごして欲しい。
「……ただいま」
蕩けるような声色が聞こえたあと、暖かな重みと落ち着いた寝息が聞こえる。
傍にあったソファに優しく降ろし、ブランケットを掛ける。
本当はベッドに運びたいけれど、外から帰ってきたままの服で寝るのは嫌だろうから。
「……おやすみ、どうか幸せな夢を」
優しい貴方が苦しまないように。
力強く空を飛ぶ貴方の止まり木になれたらいいと願い、額にキスを落とす。
あと数時間後に起きてくるであろうヒーローのために、さて何から始めようか。
親愛なるヒーローへ
甘えてくれる事が、私にとっては一番の愛。
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