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「あ、またカルピス飲んでる〜!」
朝、いつもの場所で小春と待ち合わせて登校していた。
小春は私が持っていた飲み物に指をさす。
「え?うん、美味しいよ?」
「いやそれは知ってるけど〜!毎日おなじで飽きたりしないの?」
小春は首を傾げながら不思議そうな顔をする。
「うーん、確かにそろそろ飽きてきたかも。」
「ええー?」
私が苦笑いしながらペットボトルを軽く振ると、小春は目を真ん丸にしてより不思議そうな顔をした。
「けど、カルピスのパッケージってたまに変わるじゃん?今のこのイラストの雰囲気、好きなんだ。」
「あ、知ってる!飲む前と後で絵が変わるんだよね!」
小春はなるほどと手のひらに拳をぽんっとのせ納得したようにニコニコした。
今日も変わらない笑顔で話す小春に、悪いと思いながらも、安心してしまう私がいた。
教室の前で小春と別れ、私は中に入ろうした。
「あ、○○!」
教室の前で足を止めた。
声のする方に顔を向けると私の前には夜久先輩の姿があった。
「夜久先輩?」
「よ!今日は元気か?」
先輩は笑顔で片手を上げて首をこてっと曲げる。
「はい、?あ、元気ですよ。」
最初どうしてそんなことを聞くのか分からなかったけれど、この間夜久先輩に変な態度をとってしまったことを思い出して、私は笑顔で返事をした。
「なら良かった!」
夜久先輩のさり気ない気遣いを感じ、改めてとても素敵な人だと思った。
「ところで、なにか御用でしたか?」
3年生のフロアは1つ上の階なので、3年の先輩がここにいることに疑問をもった。
「あーそうそう。本当に申し訳ねぇんだけど。俺今日美化委員担当でさ、珍しくオフだからちゃんと仕事しようと思って。だけどしばらく休んでたからわかんねぇこと多くて。」
夜久先輩は部活のために委員会を休んでいることを私は知っている。
きっと、2ヶ月ぶりとか、なんじゃないかな。
「だから、頼む!手伝って欲しい!」
先輩は私に深く頭を下げた。
周りの人も「なんだ?」と私たちに視線を集めた。
「え、いやいやちょっと先輩!?頭あげてください!?」
私は急な出来事に動揺し、周りの目もあることから、とにかく今はこの言葉しか出てこなかった。
私の中では、正直夜久先輩には美化委員の仕事より休息を取って欲しいのが本音だ。
夜久先輩は、ただのサボりじゃない。
きっと久々のオフだろうし、疲れは相当溜まっていると思う。
だけど、先輩はすごく真面目な人だから、ここで私が「せっかくのオフなら休んでください。」と言ってもきっと聞かないこと、それも何となく分かる。
それがわかってて、私の答えはもうひとつしか無かった。
「もちろんです。手伝いますよ。」
私がそう言うと、先輩は嬉しそうに顔を上げた。
少し小動物みたいで、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「まじありがとう!すっげー助かる!」
「じゃあまた放課後迎えいくわ!」と笑顔で答えた先輩は、小走りで階段をのぼって行った。
私は、少しでも先輩の負荷を無くせるように頑張ろう、そんな思いだった。
「それじゃ今日はここまで。質問がある人は遠慮なく聞いてね。」
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
先生が教室を出ていくと、私は机にジャージをだす。
3限目の体育、いよいよこの時間が来た。
着替えながら、自分に若干のブレーキがかかっていることに気づく。
また気持ちが揺れる。
だけど、もうこの気持ちは捨てると決めたんだ。
そもそも、合同体育と言ってもクラスの倍の人数がいる訳だし、あんまり孤爪くんと関わることは無いだろうと自分に納得させた。
着替えを済ませ、気が進まなかったけれど何とか足を動かして体育館に向かった。
中に入ると、当たり前だがいつもの倍人がいる。
顔は知っているけれど、話したことない人達がたくさんいた。
正直、同じクラスでも特別仲がいい人はいない。
昼休みとかは、いつも小春が来てくれるから。
小春がいるから、別に他に友達が欲しいとは思わなかった。
だけど、なんだか今は、とても居心地が悪かった。
小春の居ない大勢の空間で、孤独を感じた。
それでも自分は、無意識に体育館中に視線を走らせている。
また孤爪くんに会いたいと彼を探してしまっている。
自分の決心の弱さに、呆れた。
彼の派手な金髪は、見当たらなかった。
「あ、××。」
その事にほっとしたのも束の間、誰かが後ろから私の名前を呼んだ。
反射的に後ろを向くと、孤爪くんが扉の前で立っていた。
「休んでなくて…良かった。」
孤爪くんの声が遠く感じる。
自然と心臓の鼓動が早くなる。
もう、いやだ、こんな身体。
何も私の言うことを聞いてくれない。
このまま黙っておく訳にはいかないと思い、孤爪くんの言葉を何とか聞き取ったが、私は頷くことしか出来なかった。
本当に自分に嫌気がさす。
関わらないようにしていたはずなのに、こうやってまた孤爪くんと話してる。
私の中から孤爪くんを消さなきゃいけないのに、私の頭ではどんどん孤爪くんが積み重なっていく。
先生の説明する中、私の隣にいる君は、猫背で暇そうにジャージの裾をいじっていた。
孤爪くんの横顔は、とても綺麗だった。
サラサラの髪に、高い鼻。
目が大きくてまつ毛も綺麗。
吸い込まれそうなその瞳に私の心はまた奪われた。
「ん、?」
思わず見すぎていた。
視線を感じたであろう孤爪くんは一瞬横目でこちらを見て目を逸らしながら言う。
一瞬目があった時、また心臓が跳ねた。
「ご、ごめん。」
私も慌てて目をそらす。
先生の話す声が、やけに遠く感じる。
私の中で、今この瞬間が、孤爪くんと2人だけの空間にいるみたいだった。
「それじゃ、ペアになって最初は対人パスなー。」
その空間にいたのはほんの一瞬だった。
すぐ私の耳には先生の聞き捨てならない言葉が入ってきた。
対人パス…?
終始先生の話をほとんど聞いていなかったが、確か今日の合同体育はバレーボールをするんだった。
周りでは次々とペアができていた。
ペアができた人達は、ボールを取って早速ボールをパスしていた。
どうしよう。
私はその場で固まってしまった。
周りからどんどん人が減っていく。
気がついたら、隣にいた孤爪くんも、いなくなっていた。
何を求めていたのか、孤独感からなのか、目頭がジリジリと熱くなる。
誰でもいいから、話しかけて欲しかった。
「あの。」
俯き、唇を固く噛み締めて涙をこらえていた矢先、目の前から声がした。
勢いよく顔を上げると、そこには私があげた目線では顔が見えなかった。
(あれ、?)
もう一度、顔が見えるまで視線をあげると、メガネをかけた、優しいけど少し硬い表情の広瀬くんが見えた。
「○○さん、僕と組みませんか。」