テラーノベル
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先生が校舎裏に来た。
その事実は、思ったより早く広まった。
廊下を通るだけで、
視線が、ひとつ、ふたつ、刺さる。
ひそひそ声。
笑いをこらえきれない呼吸。
翠は何も聞こえないふりをして、
教室に入った。
机の上に、
昨日はなかった落書き。
消そうとして、
指が止まる。
——あ、これ、
“赫ちゃんの代わり”って分かってやってる。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
後ろから、
小さな紙が投げられる。
開かない。
開けたら、負けな気がした。
でも、
机の下で靴を踏まれた瞬間、
息が一瞬詰まる。
先生は前を向いたまま。
気づかない。
あるいは、気づかないふり。
休み時間。
「なんで昨日、先生なんかが来たんだよ」
「あいつが、ビビって呼んだんじゃね?笑」
笑い声が、
翠の周りだけ、少し近い。
逃げようとして、
立ち上がったとき、肩がぶつかる。
謝らない。
誰も。
昼。
食べ物に手を伸ばす前に、
胃がきゅっと縮む。
一口も入らない。
“証拠”。
その言葉だけが、
頭の中で光る。
——撮らなきゃ。
——残さなきゃ。
午後。
視線で追い詰められる。
放課後。
「来いよ」
短い言葉。
断る選択肢は、もう残ってなかった。
校舎裏。
昨日より、人が多い。
でも、
先生はいない。
“今日は来ない”
“様子見は昨日だけ”
それを、
分かってやってる。
翠は、
ポケットの中のスマホの録画ボタンを押した。
手が、
震えて、
何度か失敗する。
「ほら、しっかり痛がれよ」
その一言で、
胸の奥がひゅっと冷える。
バレてるのか、バレてないのかも分からない。
それでも、
やめなかった。
録画は、続いてる。
時間の感覚が、
どんどん曖昧になる。
終わったあと、
地面に座り込んで、
しばらく動けなかった。
痛みはある。
でも、それより先に、
「……何、撮ったっけ」
その疑問が浮かんだ。
スマホを見る。
動画は、増えている。
でも、
どれが今日で、
どれが昨日か、
もう、分からない。
立ち上がろうとして、
足に力が入らない。
壁に手をついて、
なんとか立つ。
視界の端が、
じわじわ暗くなる。
——やばい。
でも、
それでも思う。
これで、赫ちゃんは守られる。
その考えだけが、
翠を前に進ませていた。
教室に戻る途中、
廊下で、保健室の前を通る。
扉の向こうから、
瑞と話す赫の声が聞こえた。
それだけで、
胸の奥が、少しだけ、軽くなる。
その代わりに、
体の力が、抜けていく。
翠は、
気づかれないように、
壁伝いに歩いた。
限界は、
もう、すぐそこだった。
コメント
1件

うあああああうあうあ 普通にね続きが今すぐにも見たぁぁぁい(( 翠っちゃんが救われることを願ってまする