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朝が来た。
今日も日記を読むことにする。
昨晩は深夜まで日記を読んでいて辛い気持ちになってしまった。
しかし、ロキシーと、シルフィと、エリスと寝たら回復した。
ダブルベッドに、みんなでギュウギュウに集まって眠った。
みんな、俺の近くに居たいと集まってくれた。
俺の名前を寝言で唱えてくれるお嫁さん…
俺には勿体ないお嫁さん。
俺は、そんなお嫁さんを守るため、日記を読むことにする。
シルフィが死んでからの出来事、地獄の続きを読むことにする。
家族を守るために、意を決して…
俺は、日記のページに手を掛けた。
─────────────────────────
▫️
クーデターを企てた仲間として、俺とエリスとギレーヌがアスラ王国から指名手配された。
今も追われている。逃げるしかない。
▫️
ギレーヌが戦ってくれている間、右足が欠損しているエリスに王級治癒魔術をかけた。
すごく、すごく長い詠唱で治した。
治癒魔術、治癒魔術。
シルフィが居たら、無詠唱で、もっと早く治せたのかな…
▫️
追手を撒いた。
水神流は逃げる相手に弱い。
水神 レイダ・リィアも深くは追ってこなかった。
▫️
家に帰ってきた。
皆に、ゆっくり休んでと言われ、ベッドに寝転がった。
皆の言う通り、今日は身体を休めることにする。
▫️
エリナリーゼと喧嘩をした。
シルフィが死んだと言ったら、涙を流していた。
シルフィ…孫が死んで悲しんでいた。
「ルーデウス、気持ちは分かりますわよ」
そう言われた。
その言葉に、俺は噛み付いた。
何が分かんだよって噛み付いた。
喧嘩……じゃないな。
俺が一方的に怒鳴った。
エリナリーゼに怒鳴ってしまった。
可笑しいよな。辛いなら助け合えば良いのに。
手を取り合って涙を拭い合えば良いのに。
なんで怒鳴っちまったんだろうな。
本当に、俺って嫌な奴だな……
エリナリーゼに怒鳴った後、俺も泣いた。
シルフィが居ないって泣いた。
また、サラサラとした白い髪に触れたいって泣いた。
泣いて、泣き続けた。
もう泣き疲れた。
今日は早めに寝ることにする。
一人きりで寝ることにする。
▫️
俺に足りない物が分かった。
それは『強さ』だ。
水神を殺す強さが無いからシルフィは死んだ。
そうだ、俺には強さが必要だ。
強さを追い求めるため、防御能力を上げることにする。
名前は『魔導鎧』
ザリフの義手を全身に纏わせるイメージで制作することにする。
▫️
魔導鎧、この計画はクリフとザノバと共に進めようと思う。
魔導鎧。これが完成すれば、とんでもない強さが手に入る。
皆を守ることが出来る。
シルフィの敵、水神。
待ってろよ、レイダ・リィア。
お前を殺すのは、シルフィの敵を取るのは…
…俺だ。
▫️
クリフとザノバに魔導鎧の制作を依頼した。
簡単に了承されると思った。しかし、それは違った。問題が起きた。
クリフが俺に怒鳴ってきたのだ。
俺のエリナリーゼへの態度について怒っていたのだ。
どうしよう、このままではクリフに手伝ってもらえない。
ザノバと俺だけでは…クリフの力を借りなければ作ることが出来ない。
▫️
クリフと約束した。
魔導鎧が完成したらエリナリーゼに謝ると。
そう、約束した。
良い機会だと思った。
俺もエリナリーゼには申し訳なく思っていた。
というより、あの時は俺が一方的に悪かった。
断る理由がない。
クリフの約束、俺は了承した。
クリフは笑っていた。
それでこそ、僕以上の天才だと笑いながら言ってくれた。
許された気がした。
クリフ、俺の大切な友達。
そんな彼に許してもらえた気がした。
▫️
魔導鎧が完成に近づいている。
あと少しだ。もう少しで完成する。
▫️
一通の手紙が来た。
相手は『ミリス神聖国』
……何か、嫌な予感がする。
国が、俺に対して…いや、まさかな。そんなわけないよな。
▫️
最悪だ、最悪だった。
ミリスからの手紙…その内容は最悪だった。
『ルーデウス・グレイラット。お前の妹と父親は預かった。
お前が王級治癒魔術を使えることは知っている。妹と父親、家族が殺されたくなかったら我らの国に来い。一人で来い。話がある』
妹と父親、ノルンとパウロ。
二人がミリスに誘拐された。
二人が人質にされた。
最悪だ、最悪だ。
俺は、また家族を、大切な人を失うのか?
▫️
ミリスに赴くことに決めた。
行くのは明日。
俺は決心した。
クリフとザノバには反対された。
せめて魔導鎧が完成してから……そう、反対された。
そんな提案。俺は断った。
そんな物は知らない、パウロとノルンが苦しんでいるんだ。
完成まで待つなんてことは出来ない。
一秒でも早く大切な人を助ける。それが一番大切なんだ。
俺はロキシーとシルフィを失った。
もう失うわけにはいかない。
大切なものを失うわけにはいかない。
俺は、もう家族を失うわけにはいかないんだ。
▫️
今日はミリスに一人で行く日だ。
ザノバとクリフに見守れながら俺は出発した。
エリスは最後まで駄々をこねていた。
私もルーデウスと行くと。
私がルーデウスを守ると。
お腹に抱きつかれて何度も言われた。
うざいとは思わなかった。寧ろ、可愛いと思った。
睡眠薬を口に含んで、いっぱいキスしてあげた。
久しぶりにエリスとキスした気がする。
そのせいだろうか?彼女がフニャフニャとした笑みを浮かべて、すごく幸せそうに俺を見つめてた。
もっと舌出しなさいよ!という彼女が、すごく可愛かった。
俺のキスにがっつく彼女。俺の睡眠薬にがっつく彼女。
そんな彼女は、スヤスヤと寝息を立てて俺の目の前で眠ってしまった。
可愛いエリス。帰ってきたらパウロにも見せてやろう。
あぁ、楽しみだ。きっと、アイツも喜んでくれるだろう。
▫️
馬を乗り継ぎ、転移魔法陣を使いながらミリスに向かうことにする。
急げ、急げ。手遅れになる前に。
▫️
ミリスへの道中、驚くほど静かだった。
敵に襲われる覚悟を決めていたが来なかった。
▫️
木々が揺れる音がする。川の水が優雅に流れる音がする。
それぐらい平和だ。良かった。どうやらミリス神聖国は本気で話し合いを望んでいるらしい。やった。良かった。
▫️
ミリスに入った。
兵士に奥に来いと引っ張られた。
少し乱暴な手付きで、教会の一室に引っ張られた。
引っ張られて、少し痛かった。しかし、気にすることはない。
ノルンとパウロが助かるんだ。気にすることなんてない。
▫️
パウロが死んだ。
……もう嫌だ。もう、嫌だ。
何も書きたくない。
せめて、魔導鎧があったら。
そんな後悔が止まらない。
なんで、俺は友人の提案を断ってしまったのだろう。
▫️
昨日のことを整理しようと思う。
ミリス神聖国に来た俺。そんな俺は教会の一室に連れ込まれた。そして、ミリス教団に囲まれた。
武装したミリス教団と神聖騎士団に囲まれた。
奴らは話し合いなんてするつもりは無かったんだ。
道中襲わなかったのは、ただ戦力を分散させたくなかっただけ。奴らは俺以上のクズだった。
「ルーデウス・グレイラット。あなたはミリス様の敵だ。ここで殺す」
そう言いながら襲いかかってきた。
最初は順調だった。
泥沼とストーンキャノンを駆使して、何十人、何百人とぶっ殺した。ぶっ殺してやった。
教徒の返り血が俺に掛かった。
ざまぁみろと、そう思った。
俺は強くなった。必ず勝てる、そう思ってた。
でも、その時流れが変わったんだ。
奥から一つの人影が見えた。
ボロボロの、一人の男の影だった。
「父、さん…?」
一人の男、それはパウロだった。
虚ろな瞳で、両の足と手の爪を剥がされていたパウロ。
膝に何本もナイフが刺さっていたパウロ。
そう、パウロは…
…拷問されていたんだ。
▫️
今、俺はノルンを抱えて走っている。
家まで全速力で走っている。
衰弱していたパウロ、拷問を受けていたパウロ。
彼は、最後の力を振り絞って自分の隣に居たノルンを助けたんだ。
ノルンを、大事な娘を抱えて、俺の元に来て……俺に娘を預けたんだ。
そして、何度も、何度も「ルディ、こんなダメな親父でごめんなぁ…」そんなふうに謝りながら…
…敵に首を落とされたんだ。
俺の目の前で、俺の手が届きそうな距離で生首になった。
ゴトンと、静かに音を立てて生首が床に転がった。
生首になったパウロ。彼の苦悶の表情が忘れられない。
親父として、最後までルディを助けられなかった。そう言っていたパウロの懺悔の顔が忘れられない。
ノルン、俺の大切な妹。
俺は守らなければならない。
絶対に守らなければならない。
パウロは拷問されても俺の居場所と情報を吐かなかったらしい。
苦しかったはずなのに、言えば助かったかもしれないのに。
彼は何も言わなかったらしい。
そうか、そうだったのか。
俺は、息子じゃなかったのに。俺は、パウロのことを親父と思っていなかったのに。
パウロは、俺の…
…父親だったんだ。
▫️
逃げ始めて二日。ノルンの身体の色がおかしい。
これは、傷じゃない。恐らく毒だ。
俺は王級治癒魔術を掛けた。
しかし、治らない。どうしよう、治らない。
ノルンがどんどん衰弱していく。
「兄さん、ビンタしてすみませんでした」
苦しそうに息をして、こんな言葉を放っていた。
震えた声で、まるで遺言のように言葉を放つノルン。
許すから、何も気にしていないから……お願いだから、死なないでくれ。
また、怒ってくれ。妻を三人も娶った俺を元気に叱ってくれ。
▫️
ミリスから逃げ始めて三日。
順調だ、すごく順調だ。
死ぬ前にパウロが敵の気を引いてくれたこと。
俺の術。特にライトニングを敵が知らないことで簡単に逃げることが出来ている。
待ち伏せして、ライトニングを放つ。これだけで簡単に逃げられる。
大丈夫、大丈夫。パウロの死は無駄なんかじゃない。
まだ、俺の心は折れていない。
ノルン、ノルン。大丈夫だからな?
お前は、俺が絶対に守ってやるからな?
▫️
俺の背中に乗っていたノルンが苦しそうに吐血した。
それも一度じゃない。何度も何度も吐血した。
「兄さん、兄さん…下ろしてください。兄さんだけでも、逃げてください」
そう言うノルンに俺は喋るなと言った。
病気が悪化するから……いや、違うな。
もう、ノルンの声を聞くのが、大切な妹を見るのがすごく、すごく辛かった。
だから、喋るなと言った。
俺は本当に自己中だ。俺が『悲しい』から。利己的な感情から、そう言ってしまったんだ。
▫️
ノルンが死んだ。
俺の背中で、ぐったりとしていた。
ゼニスと同じ、薄い金色の綺麗な髪が動かなくなった。
頭では分かっていた。でも、それでも俺は大切な妹に何度も何度も語りかけた。
ノルン、ノルンって…
俺の視界がどんどん濡れていって。そのままポロポロと涙が溢れ出した。とめどなく溢れ出してきた。
また、大切な人が死んだ。
俺の目の前で、俺のせいで死んだ。
俺は、パウロとの約束も、大切な妹も何も守れなかったんだ。
ノルンを死に際で託してくれたパウロ。
俺を大切に想ってくれていたパウロ。
彼は何のために死んだのだろう。
……いや、違うな。俺が無意味にしたんだ。
彼の死を、彼の生き様を、俺が無意味にしてしまったんだ。
▫️
ミリス、ミリス。俺はミリス教徒が嫌いになった。
そういえば、クリフもミリス教徒だったな。
俺はクリフが嫌いだ。
ゼニスも、そうか。ミリス教徒か。
そうしたらゼニスも嫌いだ。
ミリス教徒は、みんな、みんな嫌いだ。
▫️
家に着いた。
今日は、ゆっくりしたい、そう思った。
怪我こそしていないが、辛い。少し休みたいと、そう思っていた。
でも出来なかった。
何故なら、エリスが泣いていたから。
そう、俺の愛しの人が床に膝を付いて、大きく泣いていたから。
▫️
俺の頭に衝撃が走った。
有り得ないことが起こった。
衰弱していたリーリャ、彼女から話を聞いた。
その内容はアイシャとアルスの駆け落ち。
アイシャがアルスを抱えて家を出ていったらしい。
どういうことか分からない。
は?なんで、なんでアイシャがアルスを?
分からない、分からない。
そんな唐突な事象。
俺の頭は理解することが出来なかった。
▫️
昨日より少し落ち着いた。
大丈夫だ。内容を纏めようと思う。
アイシャとアルスが駆け落ちした。
エリスがルーデウスとの子供を連れ去られたと泣いていた。
……整理するとこうなる。
詳しい理由は分からない。でも、推測は簡単だった。
きっと、アイシャは俺を恨んでいたんだ。
パウロを殺した俺を。
いや、アイシャはパウロが死んだことを知らないよな。
俺が帰ってきた時には駆け落ちしてたんだから。
そうしたら、もっと前から?
あの優しいアイシャが俺を恨んでいたのか?
いや、有り得るよな。俺は、クズなんだから。俺は、カス人間なんだから。
俺の馬鹿な頭では推測は難しい。
こんな時、ロキシーが居たら……そう思ってしまう。
俺には出来ない、そう思ってしまう。
だから、事実だけを並べることにする。
……俺は、一気に四人の家族を失った。
パウロ、ノルン、アイシャ、アルス。
大好きな人は、大切な人は、みんな居なくなっていく。
俺から離れていく。それだけが事実だった。
▫️
エリスが三日三晩泣いていた。
俺は彼女にごめんなさいと言われた。
何度も何度も言われた。
赤い髪が辛そうに靡く。
俺の最後のお嫁さん、エリス。
彼女が辛そうだと俺も辛い。
▫️
クリフと喧嘩をした。
俺はミリス教徒のお前が嫌いだと言うと喧嘩になった。
久々に殴り合いの喧嘩をした。
ボッコボコにしてやった。
クリフが魔術を使おうとしてきたから、乱魔で無効化して何度も殴りつけてやった。
クリフの顔がぐちゃぐちゃになって、歯が全て抜け落ちるまで永遠にぶん殴った。
お前がミリス教徒なのが悪いと言いながら、何度も何度もぶん殴ってやった。
彼に腫れた顔で「エリナリーゼに謝れ」と弱々しい声で言われた。
無視してやった。知らない、聞きたくない。
クリフの、ミリス教徒の言うことなんて、聞くわけがない。
クリフなんてどうでもいい。俺は血塗れの拳で、何度も何度も、そう唱えた。
▫️
クリフとエリナリーゼが街を出ていった。
知らない。寧ろ、せいせいした。
ミリス教徒が出ていった。俺の脅威が一つ減った。
▫️
クリフとのことをザノバに話した。
嬉々として話した。
ザノバの反応。それは喜びじゃなかった。嬉しさじゃなかった。
彼は悲しんでいた。
師匠。明日見せたい物がありますと言われた。
ザノバの声色は、優しくて弱々しかった。
俺の思っていた物と違う。
何か嫌な予感がした。
▫️
ザノバに一つの大きな物を見せられた。
それは『魔導鎧』
見事に完成していた。
二メートルは超えるであろう超大作。
最高傑作だと、予想以上だと。ザノバに感謝の旨を伝えた。
ザノバは褒められて喜ぶと思ってた。
でも、違った。そう、彼の表情は暗いままだった。
▫️
魔導鎧制作はクリフの力が大きかったらしい。
クリフは、俺のためにと寝る間も惜しんで作ってくれたらしい。
もう、俺が悲しまないようにと。
友人として、先輩として。
俺を大切に想っていたらしい。
ザノバから聞いて俺は確信した。
最悪の事実を。確信してしまった。
……失敗したと。俺は、また失敗してしまったんだと。
そう確信してしまった。
もう、嫌だった。俺という人間が嫌いだった。
パタンっ
「ふぅー」
俺は再度日記を閉じて深呼吸していた。
日記は残り少ない。しかし、閉じざるを得なかった。
「どんどん、人が居なくなる」
苦しいとか、苦しくないとか。そんな生優しい物じゃない。
この日記はドロドロとした魂が篭っている。
老人の軌跡が淡々と語られている。
だから頭がおかしくなるぐらい辛いんだ。
「でも、あと少しだ」
日記を見ると半分は雄に超えている。
後半戦、あと少し。
俺は意を決して、日記を読み始めた。