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数日後、大学の帰りに太齋さんの店に寄ってみた気まずさはあった。


『俺さ、ひろくんのこと好きなんだよね』


告白をされたのに、拒否も返事もしていない。


太齋さんの方からも、何も言ってこないので、多分僕が言うのを待ってくれているのか。


太齋さんのあの言葉をハッキリさせたくもあり、今日は気合いが入っていた。


「あっひろくん、いらっしゃい。いつもの席でいい?」


「あっ、はい…!」


よかった、いつも通りだ。この調子ならこの前のこと普通に話せそうかな…


注文を取りに来た太齋さんにいつも通り注文の品を言うと、厨房に戻っていこうと背中を向けた太齋さんを呼び止める。


「あっ、あの!太齋さん、この間のことで後でちょっと話したいことが…」


しかし僕が言い終わるよりも先に、太齋さんの言葉によって遮られた。


「んーごめん、この後予定があるんだよね…あと、この前のことは忘れていいから」


「え……っ」


それからは、いつも通り注文の品が運ばれてきて、ありがとうございますっと受け取ろうとした瞬間、机にトンっと食器を置かれてすぐに手を離した。


まるで僕に触れたくないみたいに素早くだ。


間もなく女性客に呼ばれた太齋さんがいつものチャラ加減でお客さんのところに対応しに行く。


いつも通り連絡先聞く人もいたりして、それに笑顔で反応する。


さすが女性客の間で笑顔が国宝級と言われるほどのイケメンだ。


『ねえねぇ、連絡先交換しない?』


「可愛い女の子からのお誘いだし、したいのは山々だけど大切なお客様だからねー、ごめんね?」


『え〜!じゃあ写真は?SNSとか上げないから~!』


「だーめ、それにそういうのはイベントのときとかにしてくれると嬉しいな〜?今度またこの前みたいなイベントやるから….ね?」


『えーほんと!なら絶対行くね♡ん~…じゃ今日これにしようかしら〜』


そんな会話を聞いていたら、もう一度声をかけようとは思えなかった。


その日は、新作のチョコレートタルトを注文したが、味はよく分からなかった。



それから3日後のこと…


「あ────くそっ!!」


頭を抱えながらついそんな大声を上げてしまった。


「うわなんだよ、いきなり大声上げやがって….なんか悩みか?」


しかも大学の食堂で、一緒にカレーを食べていた男友達の横でだ。


「あ….ごめんごめん….まあ、色々あって…」


「まぁた太齋さんとなんかあったんだろ」


そんな疑惑を掛けてくるのは沼田 瑛太、大学1年の頃に同じ講義を取っていたのだが、そこから好きなアニメが一緒という共通点を見つけたおかげで今では親友のような仲だ。


こいつには太齋さんが幼馴染であること、ショコラトリーを経営していて兎に角そこのチョコレートが好きなこと。


よく太さんにからかわれてムカついたことなど愚痴をこぼしていたことから、こんなことを言われるのだが……。


「なんかあったどころじゃないよ!!だって僕…」


数日前に起きたことを瑛太に事細かに説明してみせた


そしてそれを無いことにされたということも。


ご飯を食べ進めながら僕の話に耳を傾け相槌を打っていた瑛太は驚くわけでもなく


飲み込み顔でこちらを向くと一言。


「別にいいんじゃねーか?それで」


僕が、なんでそうなると訊く前に、続けて言われた。


「幼馴染だと思っていた男に告白?されたわけだろ?しかしそれを無いことにされた。なら問題はなにもないだろ」


「まあ…お前が太齋さんのこと好きじゃないなら、の話だがな」


付け足してきた言葉に思わず反論した。


「いやいや別にあんな…太齋さんのことなんか…っ」


「そう、なら良いけど、太齋さんってTheモテ男って感じで女子人気半端無いからなー」


「…な、何が言いたいの…?」


「後悔だけはするなよってだけだ、って話してたらもう昼終わんじゃねえか!」


「えっ?!うそ!やばい早く片付けて行かないと…!!」


慌てて食器を片付けにいきながら、瑛太にお礼を言って「一応、気になることはこれからのためにも聞いてみるよ….」と結論づけた。


そんな僕に瑛太「おう、がんばれ」とGoodポーズをしてきた。


片付け終えダシュで教室に着くと、急いで空いている席座に着いた。


すると教授が入ってきたので、周りでわちゃわちゃしていた人達も察したのか話を止めて前を向いた。


講義終わりの夕方頃、できるだけいつも通りを装って太齋さんの店に寄った。


カウンター席が埋まっており、真ん中のテーブルに案内され、今日は何にしようかとメニューと睨めっこしながら悩んでいたそのときだった。


「宏…お前|宏《ヒロ》だろ?」


背後からいきなり声が掛かった。


思わず肩をビクッとさせて恐る恐る振り返ると、そこにいたのは高校生時代に同級生だった浜崎裕二


元カレだ。


男女問わず人気のある人だったが僕が男なのに甘いもの好きだったり、浜崎くんの乱暴さが嫌になって別れたいと言ってからDVがはじまったこと。


ほんの1ヶ月だったし、親には付き合っていたことは話さなかったが、それが嫌になって僕は転校を決め、連絡先をブロックしてそれから会うこともなかった。


(それが今どうして…….)


僕がつい黙り込んでしまうと、それがまた癇に障ったのか、嘲笑うように酷い言葉をぶつけてきた。


「にしてもまだこんな女子みたいな…?俺から逃げた癖に幸せそうにしやがって」


「おい、無視すんなよ」


低い声、尖った言葉。


その声を聞けばまた殴られるのではないかと怖感に押しつぶされそうになる。


まるで今まで何の教育も受けずに言語獲得のできなかった子供みたいに『あっ』『えっ」とか、上手く言葉を紡げずに吃る。


そんな僕を見て、連れを切らしたのか強い力で腕を掴まれた。


「いっ、痛…」


「あんだけ殴ってやったのに生意気だなあ?」


どうしようかとたじろいでいると、横目に太齋さんが視界に映る。


周りのお客さんの「なに?喧嘩…?」と言う声もチラホラ聞こえて、店にこれ以上迷惑をかけないためにも浜崎くんと日線を合わせて、勇気を出して口を開いた。


「ご、ごめん、なさい。お店の迷惑になるから…っ、とりあえず、座って…」


昔の苦い思い出が蘇る


それでも、過呼吸にならないように


どうにか冷静さを保ちながら


言葉を紡ぐ。


浜崎くんは不満げに僕と向かい合って座ってくれた。


恐る恐る浜崎くんの顔を見上げると、語気の強い言葉が真正面から飛び込んできた。


「お前は俺の所有物だろ、お前みたいにどうしようもないクソを愛してやれるのも俺だけだし、俺から逃げるお前ぇが悪ぃんだよ」


あまりの剣幕に身体がビクッと震え、恐怖で顔を引き攣らせていると、その言葉を聞いた周りのお客さんがヒソヒソと話し出す。


もう出た方が良いかもしれないと思い、席を立とうとしたとき


浜崎くんが「また逃げんだろどうせ」と言ってテーブルに置いていた僕の皿をひっくり返す。


そのせいで、テーブルの上で転がった後に逆さまになり、その拍子にとろとろのチョコソースが掛かったガトーショコラが真っ逆さまに床に落ちた


すぐに周りのお客さんに謝りながら落ちたガトーショコラを拾う。


その間も、乞食かー?と頭上で愚弄してくる浜崎くん。


ただでさえ浜崎くんには、殴られた挙句襲われた記憶で恐怖感が増しているのに。


何度も何度も酷いことを言われるならまだしも


太齋さんのチョコレートをバカにするような行為と言動に我慢ならず、反発してしまう。


「この店を、ここのチョコレートを馬鹿にするようなことはやめてほしい……他のお客さんにも迷惑が…!」


身体を奮い立たせて浜崎くんの顔をしっかりと見つめながらそう言うと、舌打ちをされたのと同時に胸倉を掴まれた。


息苦しくなったそのとき、颯爽と太齋さんが僕と浜崎くんの間に入って引き離してくれた。


「お客様、ここでこれ以上暴行や迷惑行為を行うようでしたら直ちにお引き取り願います、他のお客様のご迷惑になりますので」


『あぁ?』


「それとも、通報されたいなら話は別ですが」


浜崎くんがまた舌打ちをしてズカズカと店を出ていった。


宏、覚えとけよっと捨て台詞を吐いて。


「お騒がせしてしまい申し訳ありません、どうぞお食事の続きを楽しんでくださいね」


と綻んだような笑顔でお客さんを安心させる太齋さんに、謝罪と感謝を伝えペコペコと頭を下げた。


するといつも通りの口調で「なんか訳ありって感じだったし、ひろくんこそ大丈夫?すげえ震えてるよ」と心配の声を掛けてくれて、さっきまでの恐怖心が解かれていくようだった。


「ほんと、ごめん……それと、助けてくれてありがとうございました」


「んーん、それはいいんだけど…時間あるなら閉店後に話がしたいな」


わかりましたと返事をして椅子に再び腰を掛けると太齋さんは


「ココア入れてあげるから、あと新しいガトーショコラもね、待ってて」と僕に耳打ちすると、厨房に戻っていく。


その姿を見ていると何から何まで、有能すぎる人だと感じる。


なにより、安心したらなんだか眠くなってきた。



それから数十分後….


あれから眠ってしまっていたようで、机の上で腕に顔を埋めていたことに気付く。


すぐに顔を起こすと、目の前には太齋さんの顔があって「あ、起きたー?」と聞いてきて


「あっ、すみません!僕寝て….?」


周囲を見渡すとテーブルには紙コップに入ったココアとラップの掛けられたガトーショコラも置いてあったが、すっかり冷めしまっていた。


僕の肩にはブランケットまでかけられてあって、太齋さんが掛けてくれたのだと察する。


「太齋さん、今日はほんとすみません」


開口一番そういうと、太齋さんは頬を緩ませて口を開いた。


「ひろくんが悪いわけじゃないんだから、そんな顔しないの~」


「それより、話したいことってのはね…さっきの男とどういう関係かってこと」


「浜崎くん、のことですか…あの人は、その…」


「無理に話してとは言わないよ、凄い怖がってたみたいだし」


太齋さんは気を遣ってそう言ってくれたが、迷惑をかけてしまった以上は訳を聞いて欲しくて、気付くと口を開いていた。


「浜崎、あの人は僕の高校生時代の元彼なんです…」


「元カレ……?」


「詳しく話すと長くなるから手短に話しますけど

…」


あれは高校1年生のころのこと


同じクラスだった浜崎くんに一目惚れだと言われて、ビックリしたけど、浜崎くんは周りからの評判も良くて


そのときはかっこいいと思っていたから


断る理由も無かったから付き合うことにした。


でもそれが間違いだったのかもしれない。


あるとき、浜崎くんが女の子と恋人繋ぎをしてデートしているところを見てしまい、それを問い詰めると


「だから?俺が誰といようが良くね?安心しろよ、俺はお前を1番に愛してるんだからさ」


と言ってきて、最初の優しかった浜崎くんじゃないみたいに豹変して行った。


「それで…次第に一緒にいる意味も分からくなって、別れ話をしたら、急に殴ったり蹴ったりしてきて…暴力で支配しようとする人だったんです…」


僕にも非があると言えばあるのかもしれないけど….


それでも怖いが勝ってしまってDVをする彼氏とは別れようと決意し


親には「転校したい」ということだけ相談し


浜崎くんから逃げるように違う高校に転校した。


母は僕の尋常じゃない様子を見兼ねて、転校させてくれたのだと思う。


「そのおかげで高校卒業まで、浜崎くんに出会うことはなかったんですけど、それが仇となったのか大学を特定されてしまうほどに彼を怒らせてしまったらしくて…」


『そんな話は初めて聞いたな…」


僕が何も言えず沈黙が続きそうになったとき、太齋さんが重そうに口を開いた。


「なんでそれをもっと早く周りに言わなかったの、って言いたいところだけど…真面目なひろくんなら1人で抱え込みそうだしね」


下唇を噛み、顔を伏せながら黙って頷いた、太齋さんは僕の顔を見ると目を細めて微笑んだ。


「辛かったよね、ただでさえひろくんは自分のせいだって考え込んじゃう子だし」


それは僕のことを理解してくれている幼馴染であるからこそ言える言葉で


その一言に自然と視界が震んで瞬きをしたら頬を涙がつたっていくのがわかった。


慌てて袖で拭うと太齋さんは頭を優しく撫でてくれた。


「でも、さっきのは何より嬉しかったよ」


「え……?」


そう言って照れくさそうに笑う太齋さんは僕の手を握って、真剣な表情でまた口を開いた。


「俺がショコラティエ目指そうと思ったのもひろくんのお陰だから、だからこそ、今日ひろくんが“この店を、ここのチョコレートを馬鹿にするようなことはやめてほしい“って言ってくれたの、すっげえ嬉しかったんだよ。』


『だから今度からは、何かあったら抱え込まずに俺に真っ先に相談して欲しい」


「えっ…わ、わかりました」


太齋さんの真っ直ぐな瞳に見つめられながら、話をされるとなんだかむず痒くなって


『でも僕のおかげなんて大袈裟な…』と照れながら言うと太齋さんは「いやいや大袈裟じゃないって!』と少し怒り気味に言うからそれがまたおかしくて笑ってしまった。


太齋さんもつられて笑ってくれて、なんだか幸せだなと感じた。



しばらくして2人して落ち着いた頃、僕はふと太齋さんに”この前のことは忘れていいから、と言われたことを思い出した。


同時に、瑛太に言われた『後悔だけはするなよってだけだ』という言葉を思い出した。


答えを出す必要があるのか無いのかは別として今答えを出すとしたら、僕は太齋さんといるとなんだか落ち着く。


それは幼馴染だからというだけかもしれないけど


気を利かせてココアを入れてくれたり、ブランケットをかけてくれたり時間を割いて話を聞いてくれたこと、そんな些細なことでも心がポカポカして仕方ない。


「太齋さん、僕も話があるんです」


太齋さんは「なあに?」と言って首を傾げた。


「バレンタインのイベント最終日のこと…」


「もー、そのことは忘れていいって言ったでしょー?大体あれは…」


思わず太齋さんの言葉を遮ってポツリと呟いた。


「忘れろって言われてあんなキスまでしてきて、忘れられるわけないじゃないですか…っ」


その言葉に反応するように驚いた様子で僕のことをずっと見つめてくる太齋さんだったが、すぐに唇を動かした。


「…それってつまり、俺のことまんまと意識してくれちゃってる感じ…?」



焦がれるカカオ~敦くんは僕に甘すぎる~【スパダリ執着年上攻めによるリハビリ調教】

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