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悪戯な表情で聞いてくる太齋さんに、僕は口をぎゅっと結ぶ。
(あぁもう、何でこう恥ずかしいんだ)
別にそんなことは言ってないですとどストレートに告げると、太齋さんを睨み付けながら言葉を紡いだ。
「勘違いしないでください、僕は太齋さんにあんなことされて一晩中動揺してたんです…そのくせ当の本人様はけろっとした顔で︎︎"︎︎忘れていいから︎︎"︎︎って言ってくるのも意味わかんないし…」
「え、怒ってるひろくんかわいいんだけど」とまた茶化される。
あーそうだこういう人だったこの人。
僕ってば太齋さんに何言ってんだか…っと呆れるも、どうしてなのか、僕の口は止まることを知らなかった。
「女性客にも人気なんだし、この前だって連絡先聞かれて楽しそうにしてましたし、それがなんだかモヤモヤするし…」
しかしそんな僕の態度に反して、目の前の彼はくつくつと笑った後に言った。
「ひろくん、それってさ…もしかして、ヤキモ
チ?」
その言葉に僕はカッと顔を赤くさせて、すぐさま否定の言葉を口にしようとした。
「ちっ、違っ…」
が、なぜだか言葉がつっかえて出てこない。
そこで僕は自分が口ごもってしまっていることに気が付くと、急いで言葉を繋げた。
「違いますから、ただ幼馴染とか親友には独占欲抱くときとかあるじゃないですか、それですよ」
「へぇ…?まあ、今はそう思ってくれるだけでも嬉しいかな」
悪戯に笑ったかと思えば、真剣な眼差しで僕の手を握って言った。
僕ってば…どうしてこんな、チャラい幼馴染に翻弄されなくちゃならないんだ…っ
「ひろくん、やっぱ覚えておいて、俺がひろくんのこと好きだってこと」
でもその声はどこか儚げで寂しげな感じもしていた。
──それから数週間後のこと
《え?!それじゃあ太齋さんが明日僕の大学に来るってことですか…!?》
《そ、実はひろくんの大学の教授と知り合いでさ、明日助手として来てくれないかって頼まれてね》
夕方頃にかかってきた一本の電話、それは太齋さんからだった。
なんでも、明日大学で僕が所属するゼミの教授が急遽学会へ行かなくてはならなくなり、その都合で臨時で助手が必要になったらしい。
そこで白羽の矢が立ったのが、たまたま知り合いだった太齋さんというわけなのだが、もう想像は着いている。
女子がキャーキャー悲鳴をあげる光景が目に見える。
それを本人も理解してなのかバカみたいなことを言い出す。
《あ〜でも俺が行ったら女の子たちにチヤホヤされ
すぎてまた嫉妬されちゃうかもねー》
数週間前を境に、僕をからかってくる頻度がさらに増えた気がする、というか絶対そうだ。
《あーはいはいそうですね、んじゃもう遅いし寝るので》
《ちょっ、ひろく───》
めんどくさくなって適当に棒読みで相槌を打つと、太齋さんを無視してブチッと通話を切った。
しかし翌日、いつも通り大学に行くため家を出ると何故か目の前にタクシーが止まっていた。
たまたまかと思ったら、急に扉が開いて察する。
「ひろくんやほ〜、お迎え来ちゃった」
ひょこっとタクシーの窓から顔を出したのは他でもない太齋さんだった。
そしてそれに反応するように僕の口角がひくつく。
すると彼は手馴れたように僕の荷物を取って、そのまま流れるように僕もタクシーへと乗せられた。
xx大学までお願いしますっと運転手さんに伝える彼に気に取られていた。
(え、いや待って?僕なにも言ってないんだけど……)
「太齋さんどうして…しかもここから大学とか、高くつきません?!」
「だいじょーぶ、俺払うし、二人乗っても値段は変わらないんだからこの方が得でしょ?」
「それは太齋さんが….ってまあ、この際乗せてもらいますけど…やっぱ今日はスーツなんですね」
スーツを着こなす太齋さんは、傍から見ればシルエットがしっかりした紳士な男そのものだろう。
髪もセットしていて、腕時計もいいものを付けており、いつもとはまた違う雰囲気の彼に、少しどきっとする。
すると彼はそんな僕に気が付いたのかニヤリと笑みを溢し、いきなりぐいっと僕の腕を引っ張ると耳元でで囁く。
「もしかして、見惚れちゃった?」
その吐息混じりの声に背筋がゾクッと震え上がり、一気に体温が上昇する。
僕はそれに気付かないフリをして適当に太齋さんをあしらうも、頬は赤く染っていたと思う。
そんなやりとりをしてる間にもう大学前に到着した。
僕らが降りるとすぐにタクシーはまた走って行ってしまった。
大学の中に入っていくと、知らぬ間に後ろや前で女子たちがヒソヒソと黄色い悲鳴をあげている。
「ねえあのイケメン連れてきたのだれ?!」
「誰かのお父さんとか?」
「やば!芸能人レベルでしょ…!!」
などと言う声があちらこちらで飛び交う。
隣にいる太齋さんはやっぱり女性たちの注目の的になっている…
ほんとすごいや…
そんなことをまじまじと考えていると
「じゃ、ひろくん一旦ここで。教授に挨拶して資料とか貰いに行かなきゃだからさ」
そんな太齋さんを素直に見送ると
僕も教室に行くか、と思って歩き出す。
すると急に後ろから声をかけられた
振り返るとそこにいたのは興奮気味の瑛太だった。
僕の肩に手を回して、開口一言。
「おいおい今通ってったのって太齋さんだよな?」
頷いて「今日うちのゼミの教授が出れないから臨時で来ることになったらしいよ」と言うと
瑛太はさらに続けた。
「知り合いなのにも驚きだけど、お前太齋さんと一緒に歩いてたからそこらじゅうの女子に嫉妬されてるぞ」
いや、なんで僕が…!
確かに周りにいた女子は太齋さんに釘付けだったけど。
そんなこんなであっという間に二限目の授業の時間が訪れ、太齋さんが僕らの前に顔を見せた。
女子たちはさらに興奮して、授業どころじゃなくなったのか
口を揃えて「かっこよすぎない?!」と騒ぎ始め
「この人が毎日来てくれたら毎日行けるんだけどー!紳士オーラやばいって!」
「ほんと目の保養だよね~彼女羨ましすぎる」
などと褒め称えている。
もちろん太齋さんに注意されると、謝るのと同時に更に黄色い悲鳴をあげていた。
授業が終わると、廊下に出た太齋さんを囲むように何人も女子が群がる。
「彼女とかいるんですかー?」
「代理って聞いたけど先生って普段なにしてる人なの?」
「好きなタイプとかいますか?!」
などとどんどん質問攻めを受けているようで
適当にあしらうのかなと思って、その光景を遠くから瑛太と一緒に眺めていた。
「そうだなぁ…好きな人はいるよ、俺ショコラティエが本業なんだけどね、そこの常連客で幼馴染の子がいんだけど仕草ひとつひとつがたまらなく可愛くてついからかいたくなってねぇ」
それに対し、模範解答とでも言うべきか、スムーズな返答をする。
こういうとき、すんなり言葉が出てくるコミュ力の高い太齋さんを見ていると、陰と陽の差を嫌でも感じてしまう。
その上、僕の方に視線を向けながら自慢げに話すものだから、バレないかと焦る。
『あれ絶対お前のことだろ』
「思っても言わないで、僕が一番恥ずかしいんだから…っ!」
『そうか?ちょっと嬉しそうだけどな』
「なわけ!」
そんな会話をコソコソと瑛太と交わし。
また太齋さんの方に目を向けると鋭い日付きでこちらを見ているようだった。
なんなら今バッチリ目が合ったような気もする。
そうして時間は流れ、昼休みになり、太齋さんは僕のところへ来たかと思うと、隣にいた瑛太に
「ちょっとひろくん借りてくねー」と告げる。
同時に僕の腕をぐいっと引っ張って、僕になにかを言わせる間も与えないで呟く。
「ひろくん、きて」
小声で呟いてきた彼は、そのまま教室を出ると大学の中庭にあるベンチに僕を連れ出した。
なんとなくベンチに座ると、隣に同様に腰を下ろした彼は、頭をぽりぽりとかきながら口を開いた。
「ひろくんて、瑛太くんといつもあんな感じ?ちょっと近すぎると思うんだけど…?」
何処か、ムスッとした顔でそう言ってくる太齋さん。
どうしてそんなことを聞いてくるのか
そんなことだけを聞くためにここまで連れてきたのかは分からなかったけど、ただありのままに答えた。
「え、はい…瑛太とは大学内で一番の親友で…!あっもしかして太齋さん僕のことボッチだとでも思ってました?!こう見えてちゃんと友達いるんで!」
そう、自慢げに答えると、太齋さんは僕に向かって聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
「ふーん、親友ねえ?」
「…なんですか、僕と瑛太が仲良くしてたら焼きもちでも焼くんですか?…なんて」
冗談のつもりで言い返すと、太齋さんは何処か儚げな笑顔で
「言ったじゃん?俺はひろくんのことが好きで仕方ないって。独占したくもなるでしょ」
言いながら少しだけ頬が赤くなってるのが珍しくて、不覚にも可愛いと思ってしまった。