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デート当日は早起きをして、ネットのレシピとにらめっこをしながら、お弁当を手作りした。
「うん、これぐらいでいいかなっと」
中身を詰め終えて、冷めるまでの間に身支度をする。
「喜んでくれるかな、貴仁さん」
ふふっと無意識の笑みがこぼれる。
服を着替えメイクをして、お弁当をバスケットに入れると、彼が来るのをうきうきと待ちわびた。
やがて電話がワンコールで切れて、彼がマンションの下に着いたことを知らせる。
今日は、郊外にある広大な公園まで、車で行くことになっていた──。
車に乗ろうとすると、彼が運転席から降りてきて、
「それはトランクへ入れようか?」
と、私の手から荷物を持ち上げた。
実は、公園デートはしたことがないと言う彼に、自分が準備万端じゃなければと思うあまり、レジャーシートに紙皿に水筒にと、あれもこれもと揃えている内にいつの間にか大した量にもなってしまっていた。
「ありがとうございます、なんだかいっぱいになっちゃいまして。もし車じゃなかったら大変だったし、我ながらちょっと考えなしだったかもって、今になって思ってます」
トランクに詰める彼を手伝いながら、苦笑いで話す。
「いや、私のためにここまでしてくれたのだろう? だったら感謝しかないからな」
優しい気づかいで、ソフトな笑みを浮かべる彼に、のっけからキュンとさせられてしまったのは言うまでもなかった……。
「そのバスケットも、トランクへ?」
「いえ、これはお弁当なので、崩れちゃわないよう、私が座席で抱えてます」
にっこりと笑って言うと、
「楽しみだな」
彼が口角を緩やかに上げて、嬉しい一言を返してくれた。
「はい、期待しちゃってくださいね」
その極上なスマイルにつられ、私もほんの少しだけうぬぼれてみる。
今日の貴仁さんは、インディゴブルーのポロシャツに、前に二人で買ったライトグレーのチノパンを合わせていた。
初めて会った時には、お休みの日にしてはちょっと堅苦しい感じのスーツ姿だったのだけれど、この頃はだいぶカジュアルな服装にもなっていた。
それに色の組み合わせも決まっていて、もともとセンスも良かったんだろうなと感じる。
「……どうかしたか? じっと見つめて」
いつの間にかこちらを向いていた運転席の彼と、ぴたりと目が合う。
「あっ、いえ……その、」
涼やかな眼差しで見つめられて、
「……かっこいいなって」
目を泳がせつつ、小さく本音を伝えた。
「……ありがとう」
恥じらいにうつむいた頭に、ぽんと片手が乗せられる。
信号が青になり、車が走り出すと、
「君も、とてもかわいい」
低く呟くのが聞こえて、顔を上げ助手席からちらりと横目に窺うと、彼の耳の縁が微かに赤く染まっているのが目に入って、(貴仁さんも、可愛くて……)と、心の奥でこっそりと思った。