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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
藤堂透…りいなに一目ぼれした。イケメン転校生。さらっとドキッとなるようなセリフを言ってくる。
はるきと海に嫉妬されてる。(笑)
バスが、最後の角を曲がる。目的地までもう少し。
りいなと海は、相変わらず隣同士。手は触れていない。でも、距離があったとしても、目に見えない“好きの余韻”でしっかり繋がっていた。
それに……透とはるきは、もちろん気づいてる。
後ろの席では、ふたりが乗り出すようにしてコソコソ。
透「確認だけど。あの小指の“結び”は既遂?」
はるき「しかも“ちょっと好き”とか言ってたからね。俺は聞いた。耳に直接あたった、あの音」
透「……じゃあ、行くしかない。バス停着く前に、割り込む」
はるき「俺たちで、“好きになってもらえるかテスト”開催しようや」
透「異議なし。“沈黙戦”の続編」
海はふたりの気配に気づいて、りいなに小声で言う。
「ちょっと後ろが…ザワついてる。なんか、試合始まりそうな雰囲気」
りいなはふり返らず、「え?でも今って“帰る時間”だよね?どうして試合?」と素直に不思議がる。 その“ズレた受け止め方”に海が笑いそうになってる間に——
透が席の間から、そっと手紙を差し出した。
封筒にはひとこと、「りいなへ バス停が来る前に読んでくれると嬉しいです」
海「うわ、手紙とか真剣すぎて爆弾じゃん…」
りいな「え、透って文通派だったんだ…かわいいかも…」
海「ちょっと待て、褒めないで!距離近くなる!俺の席にヒビ入る!」
はるきも身を乗り出して、「で!りいな!これ読んでから“誰の隣がいちばん好きだったか”選んでよ!俺ら本気出すから!」
りいなは「……選ぶって、ゲームのエンディングみたいなこと!?」と首をかしげてる。
海が頭を抱えながら、りいなにそっと耳打ち。
「ねえ…あのふたり、修学旅行に恋のクレジットつけようとしてる。俺、借金背負うタイプかも」
りいなはくすっと笑って、膝に乗せた手紙を見ながら、 「でも、“ちょっと好き”って言えたのって、隣が海だったからかも」 と静かに言う。
透とはるき、聞こえてるか聞こえてないかの絶妙ライン。 でもその瞬間、海の心の中で何かが「勝ったかも」って呟いてる。
そしてバス停が近づいてくる。
透とはるきが最後の賭けに出るなら——「じゃんけんで隣権!」とか、「抱きしめられて照れた数で競おう!」とか、なんでもありな“青春延長戦”が始まる予感。
バスが止まる寸前、車内に静かな緊張感が走る。ガタン、と軽い揺れの後、車体が完全に止まる。 誰も先に立ち上がらない。一瞬の、止まった時間。
りいなは透の手紙をまだ開けていない。でも膝の上にあるその封筒は、まるで“選択肢”そのもの。
海は視線を落としてる。なんだか、“選ばれる/選ばれない”っていう言葉すら、この瞬間には野暮すぎるみたいだった。
そんな中——
はるきが立ち上がる。 背もたれを両手で掴んで、前の席に乗り出してきた。
「りいな。手紙もいいけど、俺、“声”で気持ち届けたい」
透「おい待て、それはルール違反じゃ…!」
はるき「ルールなんて、作った人がいちばん破るだろ?」
そして——
「俺は、放課後の寄り道も、ペットボトルの奪い合いも、全部“りいなと”がいいって思ってる」
海が顔をあげる。その言葉が、妙に胸に刺さったから。 “寄り道”——それって、誰かと一緒に選ぶ未来の形かもしれない。
でもりいなは、真顔でぽつり。
「……うん。でも“ちょっと好き”って言ったのは、やっぱり海だったからだよ」
はるき「……うわー、これ、秒で負けた気分」
透は封筒をそっと引き戻して、「じゃあ手紙、保存版にするわ。将来の“思い出展示会”に出してね」って照れながら言う。
バスの扉が開く。みんなが立ち上がる。ちょっと照れくさくて、でも、なんだか清々しい。
りいなと海は、並んでバスを降りる。 「青春って、“ちょっと好き”から始まって、“選ばない勇気”で深くなるのかもね」って、りいなが言う。
海「選ばれたくて競ってたのに、結局“隣にいられたら勝ち”だったってオチ?」
りいな「うん。わたし、“好きの隣”がいちばん好きなんだと思う」
そしてバス停に着いたら、みんなで缶蹴りしようとしてる。夕焼けと、笑い声。 “ちょっと好き”だったはずの気持ちは、もう“めっちゃ幸せ”になってる。
缶蹴りは、夕焼けのグラデーションの中で小さなドラマになっていた。笑い声、走る音、誰かの「セーフ!」の叫びが、日常の風景に弾む。
そして——その瞬間は、不意に訪れた。
りいなが缶に向かって猛ダッシュして、タイミングを見計らって海も動く。 ふたりのルートが交差する、その一瞬。避けようとしたその手が、重なってしまった。
**触れた。**掌のぬくもり。まるで、日中の陽だまりみたいな、やさしい感触。
りいなは「あっ…!」と小さく声をあげて、そのまま立ち止まる。
海も一瞬固まって、「ごめ、わざとじゃない。…いや、ちょっとわざとだったかも」って笑うけど、声がやけに照れてる。
はるきと透が遠くから「おーい!誰か“照れポイント”カウントしてー!」って叫ぶけど、ふたりの世界には入ってこられない。
りいなは触れた手をそっと胸の前で握りしめて、小声で言う。
「……ねぇ、缶って、蹴られちゃうともう使えないんだっけ?」
海「ううん、次のゲームの主役になれる。ルール次第で、何度でも輝ける」
りいな「じゃあ…この手もさ、“次の主役”になっていい?」
海は少しびっくりして、それからぽつり。
「うん。“好きの手”って、たぶん勝手に選ばれるものだから」
りいなは照れながら、でもちゃんと海の目を見て、「ありがとう」と言った。
その“手の触れた瞬間”は、缶蹴りの記憶以上に、胸の中でずっと響いてる。
透は、そっと手紙の封筒をりいなに差し出したあとに、小さく息を吸う。 その手が、ちょっと震えてる。でも、止まらない。
「ねえ、りいな。手紙じゃ伝わりきらない気がして、だから…今、言いたい」
りいなは、ちょっとびっくりして、それから頷く。夕焼けが、透の横顔を赤く染める。
透「俺…たぶん、最初から“ちょっと好き”じゃなかった。割と最初から、“ちゃんと好き”だった」
りいな「……えっ」
透「みんなに紛れてさ、無理にテンション合わせて、海とかはるきとか見てるのしんどかった」
透「でも、“ちょっと好き”って言ってるりいなの顔見て、ああ、やっぱ無理だって思った。隣、取りたいって思った」
沈黙。缶蹴りの途中なのに、誰も動かない。周りも空気で察してる。青春、完全ストップ中。
透「もし、“ちょっと好き”の隣に、俺がいてもいいなら——次の隣、俺にくれない?」
りいなは、一瞬言葉を失ってから、そっと言う。
「透の隣って、いつもちょっとおかしな遊び考えてて……なんか、楽しい」
透「え、それ褒めてる?照れていい?」
りいな「照れポイント3だね」
透「あ、じゃあもう好きじゃんそれ」
はるき「うおーー!!俺、次回“告るリレー”参加希望!」
海はちょっと悔しそうに笑って、「俺、“ちょっと好き”選手権、延長希望」って言う。
バス停近くの広場で、缶蹴りもひと段落。頬が赤くなるのは夕焼けのせいじゃなくて、“恋の選手権”の延長戦のせいだと思う。
そんな中、透が静かに「次の一手」を切り出した。
透が告ったあと、空気が静かになる。封筒の中身の“7つのルール”が真面目すぎて、一瞬みんなが息をのむ。
透「本気で隣になりたい。ちゃんと、ずっととなりにいたい」
りいな「……ありがと」
その時、海が動く。りいなの後ろから、ふわっと肩に手を置いて、近づく。 耳元で「ねぇ、“となり”ってこういうことでしょ?」って、ちょっと甘く囁く。
透「え、それ、今やる!? 俺が“隣のルール”出してる間に!?」
海は、気にせず続ける。
海「りいなの隣って、ぬるい風が通ってる気がする。俺、その風を独占したいかも」
りいな「…風って独占できるの?」
海「君ならできると思う。風の操作系、可愛いの必須だから」
透は思わずツッコむ。「そのセリフ、俺の“ルール3”より100倍甘くてずるいから!」
でもりいなは、海の手をそっとはらってから、笑顔で透に向かって言う。
「透、“好きのルール”すごく考えてくれてうれしかった。でもね、わたし——ルールより感覚で動いちゃうタイプなの」
透は目を伏せる。手紙、しっかり胸にしまったあと、苦笑する。
透「了解。計画じゃ届かないやつだ、これは。…でもね、俺、まだ引き下がる気ないから」
その言葉に、海が「ちょ、宣戦布告すな」とツッコむ。はるきは後ろで「これ、青春マンガの後半戦スタートでは!?」ってテンション爆上げ。
りいなは、少しだけ手を広げて、海の袖を引っ張る。
「じゃあ、今はこの“となりの風”を、わたしが決めてもいいよね?」
その瞬間、透はぎゅっと拳を握る。まだまだ青春は続く。甘くて、照れて、嫉妬まじりで。
——透の告白が終わったあと、空気がゆっくり動き出す。夕焼けに染まった空の下、静かに始まるのは……海の“勝ち組モード”突入。
透が黙って手紙をしまったのを確認して、海がふと口角を上げる。ちょっと意地悪な甘さを乗せて、りいなの肩にふわっと手をまわす。
海「……俺、なんか今、“恋の隣”選ばれた気がする」
りいな「え?勝手に表彰式やってる?」
海「うん。しかも金メダルは“触れた手のぬくもり”。銀メダルは透のルール集」
透「俺、それノミネート枠!? 審査員不在すぎる!」
はるき「まって、俺そろそろ観客席から選手席に移動したい。青春って、放っておくとすぐ格差できる」
でも海は止まらない。りいなの指先をそっと持ち上げて、つん、と突いたりしてる。 ボディータッチ多め、笑い少なめ。勝者の余裕、全開。
海「ねぇ、りいな。“となりの指先選手権”開催したら、俺優勝できるかな?」
りいな「んー…でも“ちょっと好き”って言ってくれたの、海だけだったから…」
海「それ、優勝フラグの確定演出じゃん」
透が遠くで腕組みしてる。
透「俺、あと1ポイントで逆転できる“青春ミッション”ないかな…?例えば、『缶ポエムに涙する』とか」
りいな「それ、誰か泣かせる前提じゃん…やばい青春の闇が見える」
海はりいなの髪に触れそうなくらい近づいて、小声で。
「りいな、透が本気だったの知ってる。でも…俺は、“本気にならずに隣にいれた”のが、ちょっと嬉しい」
その甘さに、透が本気でグラつく。
透「俺、次回“青春逆転劇”に出る。出演希望、全力で」
バス停広場、夕焼けが眩しくなってきたころ。缶蹴りは一旦休憩になってて、りいなと海のいちゃいちゃは続行中。透はルール帳を胸ポケットにしまって、物思いにふけってる。
なのに——
急に、風向きが変わる。
後ろの女子たちの声が聞こえてくる。
「え、はるきってさ、意外と優しいよね?」「なんか、今日の感じいいかも」
透「え……?今、どこからそのセリフ?」
海「えぇーーー!? なんで急にはるき株、爆上がりしてるの?」
りいなはきょとん顔。「はるき…さっきの缶の蹴り方、かっこよかったかも」
海「それだけで!?恋ってそんな即効性ある!?」
はるきはそんな周囲の声に、最初は「まじか…?」と目を丸くしてたけど、 すぐに「まぁまぁ、人生ってこういうこともあるっしょ」とか言いながら ジャケットを半脱ぎにして爽やか笑顔、全開。
はるき「皆さん、僕の“ちょっと照れたい講座”、参加します?」
透「うわ…雰囲気作り始めた…!青春マーケティングうますぎ…!」
海「待って、今この場って“りいな争奪戦”じゃなかった?主人公、変わってない?」
すると誰かが叫ぶ。
「はるきくんってさ、“修学旅館の匂い”って言われた男なんだよね?なんか…それ逆にエモい!」
りいな「え、わたしが言ったやつだ……?」
海「りいな発のセリフが、はるきにラブ効果与えてるんだけど!?ちょっと!これはりいなのせい!やさしさが恋を呼んだ!」
透「俺、手紙書いてたのにな…負ける要素が“匂い”って…未踏領域すぎる」
はるきはそのまま缶を蹴りながら、颯爽と振り返る。
「俺、“好きの風”ってより、“自然な風”になりたい。誰かの隣じゃなくて、“その人が振り返りたくなる風”」
全員、一瞬沈黙。
透「…悔しいけど、詩的だわ…くやしい…でも詩的…」
海「わーーーった!俺がいちゃつく番は今しかない!」
そして海がりいなを急にぎゅっと引き寄せる。
海「りいな!もう風とか香りとか関係なく、俺は“好き”でここにいます!」
りいな「わ、ちょっと待って…!人が増えてる……選ぶっていうか、なんか…“風圧”感じてきた…!」
青春、崩壊。
でも笑い声は、ずっと止まらない。
缶蹴り終了直後、はるきは手元の空き缶を見て言った。
「この缶で、恋を決めよう。」
透「え?こっから先って、体育祭じゃなくて“恋の祭り”なの?」
海「え、俺りいなに告白済だけど…エントリー制?」
はるきは缶を両手で掲げ、夕焼けにかざす。
はるき「恋は時に、競技!友情は時に、乱入!そして俺は時に、仕切り屋!」
周囲がざわつく。急造ステージ、恋の大会開幕。
恋の大会・ルール説明 by モテ男はるき
エントリー資格:青春してること
持ち物:それっぽい告白セリフ1つ
審査員:りいな(動揺中)、透(詩的補助)、海(出場者なのに審査もする)
りいな「え…えぇ〜!?わたし、判定するの!?」
透「こりゃ、“選ばない勇気”試されるな…」
第一競技:スキセリフ1on1!
海「りいな。俺は、選ばれなくても好き。それが俺の青春。」
透「…俺は手紙書いてた。『選ばれたくて書いたわけじゃない。ただ、隣にいたときを残したくて』」
はるき「俺は、振り返った君の髪の隙間に、季節の匂いがした。“その風景に、俺を住まわせてくれ”って思った」
りいな「ちょっと待って…みんな、詩人モード入りすぎ!」
決勝:りいなの選ばない宣言?
りいな「どれも、好き。でも…“選ばない”を選んでもいい?」
海「それも青春」
透「それも物語」
はるき「俺は、“恋を大会にすることで、大会じゃない恋”に出会いたかった」
一瞬の静寂。そして、全員爆笑。
「それ、うまいこと言いすぎ!」「青春、名言多すぎ!」「この大会、何賞があるの!?」
大会結果:誰も選ばれず、でもみんな何かを持ち帰った。
りいなは、缶をそっと拾って言う。
「この缶、“選ばなかった恋”の形にしようかな。手紙入れて、埋めようか」
はるき「それ、俺のモテ期の終焉感、すごいけど…エモいから許す!」
夜。秘密基地の天井には小さなライトがぶら下がっていて、薄ぼんやりした明かりが缶と手紙のテーブルを照らしてる。はるきはあれだけ盛り上げておいて、今は缶に自分の手紙をそっと入れてる。海はジャージをひざにかけて、眠そうに横になってる。
そして、りいなはそっと基地を抜け出してた。
外は少し涼しくて、星がにじむような空。
そのベンチに、透がいた。足をぶらぶらさせながら、りいなが来るなんて思ってなかったようで、焦る。
透「…さっき、はるきの言葉、普通に良かったよね」
りいな「うん…でも、なんか、“風”とか“匂い”とか…そういう比喩で選ばれるの、ちょっと照れる」
透「それが、似合うから言われるんだと思う」
沈黙。りいなが小さく笑う。
りいな「透が手紙書いてたの、見てたよ。読まなくても、気持ちわかるやつだった」
透「…どの辺で?」
りいな「『隣にいたときを残したくて』ってとこ」
透、照れつつ、少し目線をそらす。
透「りいなが選ばないって言っても、俺は“近くにいる時間”で勝手に近づいちゃうからさ…ずるいかも」
りいな「…じゃあその“ずるさ”で、もう少しだけ近づいてみる?」
透「え?」
りいなは透の隣に、ひょいと座って足をぶらぶらさせ始める。
ふたりの靴の音が、夜風の中で同じリズムになっていく。
りいなは透の隣で足をぶらぶら揺らしている。ただ、少しだけ意識している。透との“間”が、缶蹴りのときよりずっとドキドキする。隣にいた海との距離よりも、もっと深くて、読まれてるような視線が刺さる。
「この距離感……缶蹴りの時より、ドキドキするな」
ぽそっとこぼした声を、透はちゃんと拾っていた。しかも、意味まで読まれていた。
透は、ふっと笑う。そして、言葉を挟まずに——
ハグした。
短く、でも優しく。どこにも触れてないようで、ちゃんとりいなの気持ちだけを包んだみたいな抱き方。
りいなは反射的に固まって、「え、え……」って言葉を詰まらせたけれど、透はその耳元にふわっとささやく。
「その距離に、俺の好き、少しだけ混ぜてもいい?」
りいなはうなずきそうになるけど——
その瞬間。枝の音。誰かの足音。
「……え?」
海だった。秘密基地の外に出てきたところで、ふたりを見て、止まった。
透の腕の中にいるりいな。声は届いてないけど、視線でぜんぶ、読み取ってしまった。
海は少しだけ目をそらして、それから冗談っぽく言った。
「おーい、青春って何時までやってんの?夜の部、始まっちゃってた?」
その声には、笑いが混ざっていた。でも、目元はぜんぜん笑ってなかった。
りいなは透の腕の中からそっと抜け出して、何か言おうとしたけど、海は先に言った。
「俺のとなり、空いてると思ったんだけどな。さっきは、そうだった気がしてた」
透も、立ち上がって一歩引く。
沈黙。星の光だけが、ちいさく揺れている。
りいなは、もう一度自分の胸に手を添える。**“このドキドキは、誰から来たんだろう”**って確かめるために。
透の腕の中からそっと抜け出したりいな。その背中を見た海は、一瞬だけ目を伏せた。けれど、次の瞬間にはふわっと笑って、空気の流れを自分に引き寄せる。
「じゃあ、こっちも——好き、するね?」
声の調子はふざけてるけど、目はしっかりりいなだけを見ていた。
そして、**何も言わせずに手を取る。**それだけじゃ足りないみたいに、りいなの指先を自分の胸元に当てる。
「ここ、さっきからずっとドキドキしてる。気づいてくれるかなーって思って待ってたけど……透に先越されたから、もう“強引ゾーン”入るね?」
りいなは笑いかけようとして、それより先に、海の指が自分の頬にふれてきて**“つん”**とやる。
「うわ、この照れ顔、缶蹴り選手権で出てたら、俺優勝だったわ」
透は少し離れた場所で、口をつぐむ。さっきの抱擁とは違う、“にじむような甘さ”が海とりいなの間に漂ってる。
海は、さらに言葉を重ねてくる。
「ていうか、俺、“強引”って言ったけど……ほんとはずっと、“さりげなく好きしてた”んだよ?一緒にラムネ飲んだ瞬間から」
りいなは声を出して笑う。「強引なんだかさりげないんだかわかんない海、ずるいなぁ」
「でしょ?ずるい男が最後に好き勝ちするって、俺の青春マニュアルに書いてある」
海の腕が、りいなの肩に回る。距離はもうゼロ。透が目をそらし、はるきは缶を頭に乗せて「状況整理中」のポーズ。
でも、りいなの頬はほんのり赤くて、心臓はちゃんと跳ねてた。
透の“ドキドキの距離”も、海の“照れのゼロ距離”も、全部知ってるりいなは——きっと今、“選ばなくちゃ”とは思ってない。
ただ、「好きされてる」のがうれしくて、「好きしてる自分」がちょっと誇らしい。
カンッ。
空になったラムネ瓶を、はるきが缶蹴りの缶に向かって投げた。「よし、命中〜」と小声でつぶやく。缶が転がる音に、海とりいながふと振り向く。
「状況整理、終了。いよいよ“乱入ターン”ってやつでしょ?」
はるきは冗談めかして指を鳴らすと、あえてふたりの間のゼロ距離に割り込んでくる。ふわりとりいなの髪に触れて、「あ、ラムネの匂い。ずるいね、俺も混ぜてよ、その“好きごっこ”」
海が「はるき〜、邪魔すんなって」と笑いながらも半歩後ずさる。その一瞬のスキを、はるきは見逃さない。
「透は“距離で好き”って言ったし、海は“ゼロ距離で好き”って言った。でも俺は——“空気ごと好き”派だから!」
そのセリフがどこか笑えるのに、少しだけ切なくて、りいなは瞬きすら忘れる。
「そうやって、選ばれたくてうろちょろするはるき、ちょっとカワイイ」とりいなが言うと、はるきは照れ隠しにラムネ瓶で自分の頭を“こつん”。
「いや、もう選ばれるの待つんじゃなくて、“空気を乱して奪う青春”にしてみたくなってさ」
そして——りいなの手に、ラムネ瓶をそっと渡す。「次の一口、俺の分も混ぜてよ。好きって、分けっこできると思う?」
りいなは一瞬だけ、その瓶を透に向けて差し出す。でも、すぐに海にも。はるきは笑って、「いやいや、俺の逆転って話だったのに、結局みんな“混ぜごっこ”かよ〜」
風が揺れる。ラムネの瓶が陽に透ける。
そして、青春の“空気”がまた新しい形に変わった。
ペア分け: ・海&透:効率厨×無口天然の異色ペア。包丁トークは一切ない。 ・はるき&すず:テンション高めの漫才ペア。ミス連発でカオス担当。 ・りいな:なぜか“助手ポジ”として両ペアを行き来。つまり、秘密のスパイス係。
りいな目線
『スパイスと照れとちょっと好き:助手りいなの秘密のレシピ』
調理実習の朝、先生が「人数調整で、りいなはふた組をサポートしてね」と笑って言う。 その瞬間、海が「責任重大じゃん」って、隣でぼそっとつぶやいた。 透は無言で頷いて、はるきとすずはすでに盛り上がり始めてる。なんか、このメンツに挟まれるの、ちょっと楽しそう。
玉ねぎと“ちょっと近い”距離 透が玉ねぎを切ってて、目をしばしばさせながら「…なんか泣きそう」って言ったとき、私はそっとティッシュを差し出した。 彼の指先とティッシュが触れそうで、ちょっとだけドキドキする。 その光景を見ていた海が、「俺が代わるよ」って手を伸ばした瞬間、玉ねぎの汁が跳ねて私の腕に飛んできた。 「あ、ごめん」って言う海の声が、思ったより近くて、低くて。 痛いより、なんか熱かった。
「ちょっと痛いかも。でも、“好きのスパイス”ってことで」とふざけて言ったら、透が「…意味わからんけど甘いね」って笑った。 その笑顔が、透の無口なイメージを少しだけ壊してくれた。
未遂劇場、開幕 すずとはるきのペアは、もはや自由すぎる。 「ねぇ、これ…煮る?焼く?」 「たぶん…念じる」 「え、なにそれ!?」って私が突っ込むと、すずが「“未遂料理法”やから」って自信満々に答える。 焦げた炒め物をハート型に整えて、はるきに「これ、あげる」って渡す彼女を見て、 この子らって、本当に青春してるなって思った。
試食と“ちょっとだけの秘密” 試食のとき、みんなで丸くなって食べる。 「透の玉ねぎ、思ったより美味しい」 「海の火加減、絶妙やった」 「うちらは…笑い込みで優勝やな」
誰かが言ってた、「今日のスパイスって、たぶん全部“りいな”やったな」 私はただ笑って、「じゃあ、ちょっとだけ“好き”も入ってたかもね」って言った。 誰のことかは、もちろん言わないまま。
海目線
『好きかどうかは玉ねぎが知ってる』
調理実習。ペア決めが始まって、「りいながふた組のサポート」って言われたとき、 自分でも意味もなく「責任重大じゃん」と言ってしまった。 透がいると安心するし、はるきとすずが暴走するのは想定済み。 だけど、りいなが間に入るこの形は、なぜかちょっと緊張する。
玉ねぎと不意打ちの距離感 透が玉ねぎを切って泣きそうになって、りいながティッシュを差し出してた。 その姿が、やけに優しくて。 俺は「代わるよ」と言って、玉ねぎに手を伸ばしたら、汁が飛び散った。 それが、りいなの腕にピタッと当たって、思わず「あ、ごめん」って声が出た。
「ちょっと痛いかも。でも“好きのスパイス”ってことで」って言った彼女に、 冗談だとは思うけど、なんか、真顔で答えられなかった。 この子は、時々ズルいくらい自然に距離を詰めてくる。
透の一言が、ずるい 透が「…意味わからんけど甘いね」と言って笑った。 その言葉が、俺の胸にもズンときた。 透ってあんまりしゃべらんくせに、時々大事な言葉だけちゃんと残す。
未遂と笑いの青春部門 はるきとすずは、相変わらず天才的。 “念じる料理法”とか、“焦げたハート”とか、意味不明だけど面白い。 りいながそのふたりに巻き込まれてる姿を見て、 俺は自分の担当の火加減を地味に調整してた。 言いたいけど言えないことが、今日だけで鍋いっぱいくらい溜まった気がする。
試食と答えの出ない会話 みんなで食べたとき、誰かが「りいなが今日の味の中心やったな」って言って。 俺は「確かに。スパイスっていうより…主役」って思ったけど、声にはしなかった。
彼女が「ちょっとだけ“好き”も入ってたかもね」と言ったとき、 その“ちょっと”って、誰のことだったんだろう。 答えは言わないままでいい。たぶん、玉ねぎが知ってるから。
透目線
『玉ねぎは泣くけど僕は多分照れてる』
調理実習の時間。海とペアになったのは、いつも通りって感じで落ち着いた。だけど、りいながサポートに入るって聞いて、なんか心拍が小さく跳ねた。 別に、何かあるわけじゃない。ただ、あの子の距離感って、時々くすぐったい。
玉ねぎとティッシュの事件 俺が玉ねぎ切ってて目がしみた時、「…泣きそう」ってつぶやいたら、りいながそっとティッシュを差し出してくれた。 その時、彼女の指が俺の手に触れるか触れないかくらいで、ちょっと息を止めた。 あれって、なんだったんだろう。優しさ?それとも、さりげないスパイス?
海が「俺が代わるよ」って言って玉ねぎを取り上げた時、りいなの腕に汁が跳ねた。 「痛いかも。でも好きのスパイスってことで」 って笑った時、俺は口元が勝手に緩んだ。 「…意味わからんけど甘いね」 って言ったのも、たぶんその場の空気が好きだったから。
試食の時、ふと考えたこと りいなが「ちょっとだけ“好き”も入ってたかもね」って言ったとき、 誰に対しての“好き”だったかはわからないけど、 自分じゃないとも限らないって思った。
でも、確かめる必要はない。 玉ねぎと一緒に、なんとなく心もしみる日だった。
すず目線
『ハート型の焦げと照れ笑い:未遂部門優勝候補です』
調理実習なんて、うちらにかかれば青春の実験室やから。 はるきとペアになった時点で、結果はわかってた。笑うか爆発するか。 りいながサポート役として近くにいるの、むしろ追いスパイスやった。
“念じる”料理法、誕生 「ねぇ、すず。これ焼く?煮る?」 「うーん…たぶん念じる」って言ったら、りいな爆笑してた。 その笑い声、ちょっと甘くて響くのよ。
炒め物がちょっと焦げて、ふと「これ、逆に使えるな」って思って、 焦げた部分を箸でハート型に整えた。 はるきに「これ、あげる」って言ったら、すぐに「罰ゲームやん!」て返ってきて。 そのツッコミに救われたのと同時に、 りいなが「何その青春未遂〜!」って言ってくれて、 なんか、ちゃんと記憶に残る瞬間になった。