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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
藤堂透…りいなに一目ぼれした。イケメン転校生。さらっとドキッとなるようなセリフを言ってくる。
はるきと海に嫉妬されてる。(笑)
いつものチャイム。いつもの教室。 だけど、なんだか空気が“玉ねぎと照れ”でうっすら染まってる。 誰かが何かを言い出したら、一気に昨日に戻ってしまいそうだから、 みんなちょっとだけ無口になってた。
りいな目線
「普通に朝が来たのに、なんか“手が重なった感じ”だけが残ってる気がする」 昨日、海に腕をふれられた時のじんわりが、 透にティッシュを渡した瞬間の指先が、 はるきの焦げハートを見た時の笑いが、ぜんぶ“残像”になってる。
休み時間、すずとふたり並んでお茶を飲みながら、りいながぽそっと言った。 「ねぇ、調理実習って、ちょっと告白試験じゃなかった?」
すずは笑って「わかるー!未遂多発!」と返したけど、 その目が、昨日より少しだけ“誰か”を追ってた。
海目線
透と並んで席に座ってても、昨日の“距離”がチラつく。 りいながティッシュ渡してた時の透の顔、見逃してない。 でも、それを“嫉妬”って言うとダサいから、心の中でだけ反芻してた。
プリント配る手伝いをしてるりいなの後ろ姿を見ながら、 心の中でつぶやいた。
「今日、俺が何も言わなかったら、昨日の“好きの余韻”は透に持ってかれるのかも」
けど言えなかった。“今日の俺”に勇気がついてなかった。
透目線
昨日の玉ねぎの切れ味が、なんとなく心にも残ってる。 りいながティッシュくれた時、指先がふれて——それだけなのに、 距離感がいきなり近くなった気がした。
今朝、海がちょっと静かだったことに気づいてたけど、 それよりもりいなの笑顔が“俺に向いてないかもしれない”ってことが、ちょっと痛かった。
席でそっとプリントを折りながら、心の中で言った。
「昨日の“意味わからんけど甘いね”を、もっとちゃんと意味ある言葉にしたかった」
はるき目線
俺だけ焦げハートを持ち帰ったんじゃないか?って思うくらい、 今日のみんなの目線が“りいなに遠慮してる”気がした。 すずはちょい目線がりいな外してるし、海も透も喋らんし。どうした、青春。
自分の席でラムネ瓶をぐるぐる回しながら考える。
「焦げハート=俺の“好きごっこ”の形だったけど、次はもうちょい真面目に味付けしようかな」
とか言いながら、机の上にラムネ瓶をそっと置いた。 “次の甘さ”、準備中ってことで。
すず目線
りいなの表情がちょっと柔らかい。昨日の余韻、抜けきってない。 はるきの焦げハート、笑ったけど、今思えば——あれって、ちょっと告白だったのかも。
教室の端で、女子たちが昨日の話で盛り上がってるのを横目で見ながら、 心の中で思った。
「次、調理する時は、もう“未遂”じゃなくて“確定”狙ってもいいかもね」
自分だけの“スパイス”を、こっそり探す午前中だった。
昼休み、わざとらしく理科室前に集合した男子3人。 はるきがこっそり取り出したのは、昨日使った“焦げハート”の鉄板。 それを見た海は、ふとラムネ瓶を手にして言った。
「これ、調理実習第二弾の招待状にするってどう?」
ラムネ瓶に小さく書いた「実習②♡」の紙を入れて、 それぞれが、気になる相手の机にそっと置いていった。 海のターゲットはもちろん——りいな。
ラムネ瓶の中の小さな紙を見て、心が少し跳ねた。 “誰から?”という問いよりも、“なにこれ甘すぎ”が先に来る。 でも、もらうだけじゃなくて、“渡す側”にもなりたい気持ちが湧いてきて。
放課後、りいなは折り紙で小さなエプロン型のカードを作った。 「ごちそうさまでした。つぎは私の番?」って書いて、 自分の想いをちょっと混ぜて——ターゲットは海。 ラムネ瓶の横にそっと添えて、昨日の焦げハートの鉄板にしのばせる。
次の日の朝、鉄板にはエプロンカードとラムネ瓶。 それを見た海は、何も言わずにニヤッと笑い、 「やっぱ好きごっこは連鎖するね」とつぶやく。
りいなの視線に気づいた透も、すずも、はるきも、 「え?何か始まった?」と気配を感じ取る。
そして、次の“調理実習”の話が正式に始まるんだ。 今度は“レシピ未遂”じゃない。 誰かの「好き」をちゃんと盛りつける日になる——かもしれない。
「ねぇ…これ、切るのこわいかも」 エプロン姿でりいなが包丁を構えた瞬間、手が微かに震える。 周りには、海・はるき・透——昨日からちょっと気になる男子たち。 その空気を感じて、まず動いたのは海。
「ちょっと貸してみ?」って言いながら、りいなの手に自然に添える。 指先が重なる瞬間に、りいなは心の中で「あっ」って声にならない甘さを感じる。 海の距離はちょっと近くて、でも安心できる。
「おいおい〜怖がる女子は全力で守ってくスタイルね」 そう言いながら、横からりいなの肩にぽんっと手を置く。 それがどこか優しくて、なんか“照れを隠すギャグ”みたいでキュン。 しかも包丁持ってるのに、全然“バカっぽい優しさ”が刺さる。
海とはるきに包囲されつつ、透は反対側から静かに野菜を押さえてあげる。 ふと目が合って、りいなは思う。 「透って、なにも言わないけど、隣にいてくれるの…ずるいじゃん」
無言の優しさって、包丁より鋭く心に入ってくる
遠くからその“りいな包囲網”を見ていたすずは、 小さく声をあげた。「ちょっと!それってもう四角関係どころか、恋の厨房じゃん!!」 キャーキャー騒ぐ女子たちの中で、すずだけは冷静な解説者。 「りいなって、まじ不器用で鈍感バカなのに、なんか“モテの無自覚”極めてる…こわっ」
でもその目はちょっとうらやましそうで、 自分も“包丁補助”されたいって、こっそり思ってる。
作業が終わったあと、りいながふと小さな声で言った。 「ありがとうね、みんな。あの…ちょっと嬉しかった」 その“ちょっと”の中に、たくさんの“好き未遂”が詰まってて、 男子たちはそれぞれ胸がぐるぐるしてた。
ラムネ瓶の中の“実習②”は、 どうやら“りいな争奪戦”の火種にもなってきたみたい。
プリント整理して教室のすみっこにいたりいな。 ふと、足元のファイルが落ちて、拾おうとしゃがんだ——そのとき! 透が近づこうとして不意につまずき、重力のままに…
床ドンッ!!! (=りいなのすぐ横に両手ついて、顔の距離20cm)
りいなの心拍数:急上昇。透の表情:素で焦ってる。 教室の空気:数秒止まった後、キャーとざわっが広がる。
たまたま通りがかったすず。状況確認→即理解→即発言。 「はい!いま、透がりいなに床ドンしてます!これは予期せぬドンです!甘い!事故!事件!」
さらに海とはるきも気づいて接近。
「え、待って、先手ドンはずるくない?」 そう言いながら自分も壁際に立ち、 りいなのすぐ後ろに手を伸ばして——壁ドン(模擬)発動。 「こっちもやっとく?」って、半分冗談、でも目が少し本気。
りいな:「!?!?(心の中で“ドン祭りかよ”)」
「じゃあ俺は天井ドン……いやそれは無理だわ」 笑わせて距離詰めようとして、 自分の膝でりいなのファイルを拾いながらニコッ。 「りいな、今日もモテ事故起きすぎ。危ないねぇ、心が」
目の前で起こるドン・ドン・ドンに挟まれて、 頭は真っ白、心は真っ赤。 「え、これって…好きごっこ?冗談?でもちょっと甘い…」 笑ったらいいのか、照れたらいいのか、 感情のフライパンがぐつぐつしてる。
「というわけで、今日のりいなはドン3連発受けました! 床ドン・壁ドン・ファイルドン(?)によるモテ無自覚トリオ戦! 実況席からは、“すずもドンされたい”という気持ちを込めてお送りします!」
廊下からすずが実況しながら入ってきた瞬間—— 「ただいま教室内、床ドン発生!さらに壁ドン模倣と膝でフォローの三連同時攻撃! 戦線に巻き込まれたのは、我らが不器用ヒロイン・りいな選手です!!」
教室ざわっ…!クラスメイトたちが騒ぎだす。
透:静かなドンのあと、あたふたしてるけど、目だけは真剣。その優しさが“致命的”。
海:壁ドンのあと、普通に「好きごっこってこういうやつでしょ?」と悪戯に笑う。“余裕系攻撃”
はるき:「ドンの締めはギャグで」と言いながら、机の上にラムネ瓶を置き“意味深ドン”
そして—— りいな:鈍感バカの防御力高すぎて、ドン全部受け止めちゃう。照れてるのに気づいてない。 「え…え?みんななんでそんな近いの?っていうか、私の顔赤い…?」
教室の中央に立ち、ペンをマイクにして声を張り上げる。 「視聴者のみなさん(=教室の女子たち)、これは”りいな争奪ドンバトル”です!! 床ドン派?壁ドン派?膝フォロー派?…っていうか、私にもやってくれませんか〜〜〜!?」
その言葉で女子たちもキャー!って湧き上がる。 この戦場、見てるだけじゃつまらない——恋の参戦希望者続出。
チャイムが鳴る。 みんな自分の席に戻るけど、顔はちょっと照れてる。 りいなはファイルを抱えて呟く。
「なんか今日、教室の空気が甘いんだけど…誰か、砂糖でもまいた?」
それはね、りいな。 “好きの気配”っていう甘味料だよ。
教室でちょっと体調悪そうだったりいな。保健の先生は不在で、「少し横になってていいよ」と言われてベッドへ。 そのあと、遅れて海が保健室に入ってきた。手にはラムネ瓶。理由は—— 「先生に呼ばれたって言ったけど、俺が勝手に来た」
りいな:「…え?なんで?」
海:「なんかさ、りいなが、ちょっと元気なかった気がして」
空気が、保健室のカーテンみたいにふわりと動いた。
りいなはベッドに横になってる。 カーテン越しの午後の光がやさしくて、逆に心拍数がバクる。 海は隣のイスに座ってるけど、何度も腰を浮かせて、「もっと近くていい?」って目で見てる。
りいな:「…熱はないけど、なんかドキドキしてる」 海:「それ、俺のせいってことでいい?」 りいな:「え、そっちなの!?いや、ちが——え?…うん」
カーテンが軽く揺れた。風じゃなく、空気が甘くなったから。
海はそっと立ち上がって、りいなの額に手を置く。 「熱ないね。でも、俺の指先の方がちょっと熱いかも」 その言葉、りいなは反射的に目をそらした。でも心はまっすぐ見つめてる。
りいな:「…なんでそんな甘い言い方できるの?」 海:「たぶん、“りいな対応”ってだけ。ふつうの子には言わないよ」 りいなの耳が真っ赤になる。その色、保健室のカーテンにも染まりそう。
海:「これ、朝から持ってた。理由は…なんか、今日りいなとしゃべる気がしてたから」 ラムネ瓶をりいなの手に渡した瞬間、指先同士がかすかにふれる。 ふたりとも気づいてるけど、あえて何も言わない。 ただ、ビー玉の音が、心の距離を測ってるように、ころころと鳴ってた。
りいな:「…もし、私がすごく体調悪かったら、海はもっと心配してくれる?」 海:「もちろん。でも正直、今くらいがちょうどいい。ちょっと弱くて、俺がそばにいる意味ができるくらい」 その言葉に、りいなは「バカじゃん…」って笑う。 でもその笑いは、“好きの受け入れ”にすごく近かった。
海がラムネ瓶を渡したあと、りいなの髪の端が瓶に引っかかって 「ごめ、髪…」と自然に海がふれる。 りいな:「……え、いまの、事故?」 海:「うーん、“事故っぽい好意”ってことで」
りいなは一瞬うつむいて、それから顔を上げて、 「…じゃあ、私も“うっかり好きっぽいこと”してもいい?」
海の目がちょっとだけ見開かれて、それから柔らかくなる。 「歓迎です」
保健室のドアの外では、すずがそっと覗いてる。 「ん?おでこタッチ済み…ラムネも渡し済み…髪にふれた!?うわああああ、それ青春の宝石箱じゃん!!」 教室に戻ったら、今日の実況は止まらない。
りいなと海はまだ保健室に残ってて、 ふたりきりの世界で、ドキドキの“火加減”を調整してる。
「ねえ、さっきから私のこと、ちょっとバカにしてない?」
ベッドに座ったりいなが、ふくれ顔で海を見つめる。 保健室の静かな空気のなかで、ラムネ瓶のビー玉がまた“からん”と鳴った。
海はイスに座りながらわざと無邪気に笑う。
「えー?してないよ。“不器用かわいい”って言ってるだけじゃん」
りいな「それ、絶対“鈍感バカかわいい”って思ってるでしょ」
海はすっとりいなの前髪を指でつまんで、からかうみたいに軽く跳ねさせる。
「…こういう髪の動き、まじ“バカかわいさ”レベルMAX」
りいな「もう!海バカ!海の方がもっとバカ!」 言いながら、りいなは海の腕を小さくぺちっと叩く。 でもそれが全然怒ってないタッチで、照れてるのがバレバレ。
海「えー、叩いた?じゃあ反撃していいの?」
りいな「だめ。でも…ちょっとだけなら」
海はにやっと笑ってから、りいなの手を軽く握る。 親指でそっと指先をなぞるように動かしてきて——それが、妙に甘い。
りいな「…なんか、その動き、ずるい。ていうか、ちょっとずるすぎ」
海「こういうの、“照れいちゃ”って言うらしいよ。俺、研究済」
りいな「は?何それ!どこで研究してんの!?実習室!?」
海「りいなの隣の保健室っていう、“最高の研究所”で」
ふたりの指先が絡んでいるまま、 海がりいなの肩に手を添えて、そっと引き寄せるような角度になる。
りいなの耳元に、ささやき声。
「りいなの怒った顔も、かわいかったよ」 「…でもやっぱり、今のこの顔が一番好きかも」
りいなは顔が真っ赤になって、 でもそのまま自分から海の腕にそっと腕を回した。
「もっと遊んでいいよ。でも、“好きごっこ”だからね。ルールは、…たまに照れること」
海はうなずいて、笑った。
「じゃあ、次のターン、“こっそりハグ未遂”やってみる?」
りいな「え、それ“未遂”ならセーフだけど、…本気は反則かも」
ラムネ瓶の中のビー玉が、ぽんと跳ねてふたりに呼応するように鳴った。 保健室の午後、いちゃつきは加速中。
ラムネの瓶がまた“カラン”と鳴ったタイミングで、 保健室のドアが“ガラリ”と大きな音を立てて開く。
扉の向こうに立っていたのは——透。
「…楽しそうだな、ふたりとも」
その一言は優しげなのに、なんだか温度の低い微笑みをまとってる。 海の手を握ったままのりいなが、反射的にぴくっと肩をすくめた。
透はゆっくり保健室に入ってくる。 その歩き方すら“静かで鋭い”。
海「よっ、透。ケガ?具合悪い?」
透「いや、別に。呼び出されたわけでもない。ただ…」
透はりいなと海の指先が絡んだままなのを見て、 わずかに視線を伏せたあと、すぐに元の表情に戻る。
「…ここ、気温が高すぎるんじゃないかと思って」
りいな「えっ、う、うん…その……ラムネがね、ちょっとだけ冷たくて」
その言い訳があまりに苦しくて、 海まで思わず吹き出しかける。
でも透の前では笑えない。空気が…ちょっとだけ“張りつめる”。
透は保健室の隅に置かれた扇風機のスイッチを入れる。 風が回り始めても、それは空気を“冷やす”というより 余計に緊張を煽るような音だった。
海「透、俺たち、ただちょっと……ふざけてただけ」
透「うん。そうだよね、海はいつも、そうやってふざける」
その言葉には棘がないのに、 どこか“刺さるような響き”があった。
りいなは言葉が出せずに、 ビー玉の転がる音を聞くだけになってしまった。
透はしばらく黙って、外を眺める。 その背中が、どこか遠く感じる。
りいなは心の奥で、“透の目”がずっと何かを見ていたことに気づく。 いつもそばにいたはずなのに、 その感情を見逃していたかもしれない——そんな予感。
海も、あえて軽口を言わず、 “未遂”のハグをするには、今じゃないと思った。
保健室にちょっと冷たい緊張が漂う中—— 海は空気を読んだ“いたずらな表情”を見せる。
りいなの手を握ったまま、唐突にこんなことを言い出す。
「ねえ透、りいなに怒られたら元気になる薬って知ってる?」
透は少しだけ眉をひそめる。
「…何それ?」
海はポケットから折り紙で作った“♡の包み”を取り出してみせる。 中には、ラムネと一緒に小さなメモ。
「《りいなにふくれられて照れたとき飲むと、“甘え体質”が復活する》って書いてある」
りいな「え、そんな薬、今作ったでしょ!」
海「違うよ!透が来る前に調合済。ちゃんと、“ラブ保健室”製です」
透「……それ、俺も飲んだ方がいいか?」
海「え、透まで甘え体質になっちゃったら、りいながモテすぎて危ない」
りいな「なにその理論!海バカっ!」
海はわざと、りいなの髪の横を指でつまんで、
「ここに“照れパーツ”ついてますね、治療しましょう」
りいな「やめて!照れパーツって何!」
透が横目でそのふたりを見て—— ふ、とほんの少しだけ表情が和らいだようにも見える。
海「照れって、空気を温める魔法なんだよ」
りいな「誰が魔法使いだし…ていうか、…その言い方ずるい」
透は小さくため息をついたあと、
「……俺、マジでラムネもらっていい?」
りいな「えっ、うん。海の薬よりマシだから」
海「俺の“照れ薬”バカにしたら効果なくなるよ〜!」
透はふたりのやりとりに加わりながら、 “ピリッとした空気”を、少しずつ吸収していった。
透がラムネを手に取りつつ、ふたりを見て、 ふっと笑ったかと思えば——
「俺、提案。ここで“りいな照れさせ選手権”やろうぜ」 「どっちがりいなを一番照れさせられるか。俺と海、ガチ勝負」
りいな「はあ!? なんで急にそんなこと…!」
海「いいじゃん!勝者には、“照れ王”の称号と——りいなの照れ顔独占権だな」
りいな「独占権!? そんなの、あるわけ…」
透「ある。いま制定した。審査員は…ラムネのビー玉でいい」
海「ビー玉!? 判定方法ゆる〜!」
りいなは完全に巻き込まれた状態で、顔を赤らめながら抗議する。
「え、ちょっと、私の照れ顔で遊ばないで…!」
海は立ち上がり、りいなの前に正座して、 手を合わせるようなポーズ。
「拝啓・照れの女神・りいな様 本日は、“好きの濃度”MAXで参ります」
その言い回しだけで、りいなは耳まで真っ赤に。
りいな「ちょ、やめ!おかしいおかしい!! 好きの濃度って何!」
透「ビー玉、2回鳴った。照れ認定。得点、8点」
海「よしっ!“好き濃度”の勝利」
透は近づきすぎない距離で、 ただ一言、低い声でささやくように。
「…お前、こっち向いたとき、ほんの一瞬、耳赤かったよな」
りいな「うわっ、えっ、…ちょっと待って、それ見てたの!?」
透「見逃すわけない。俺、誰よりも…見てるから」
ビー玉が“ぽん”と、独特な跳ね方で鳴った。
海「おお、ビー玉反応強め!透、9点!」
りいな「も〜!なんなのこの大会〜〜〜!!!」
りいなは頬をぷくっとふくらませてから、唐突に言う。
「じゃあ、私が一番照れさせられる相手選手権やる!」
透と海「…それ、どういう判定?」
りいな「ビー玉と、“私の気分”のハイブリッド方式」
海「それ、完全にりいな有利すぎる!」
りいな「いいの。主催者権限。だって、“好きごっこ”だから、照れたら勝ちでも照れさせたら勝ちでも、どっちでもアリ」
透「……結局、りいなが一番強いんだな」
海「それな。“照れ王”=“りいな”説ある」
照れと遊びでごちゃまぜの大会、優勝者は未定。 けど、この保健室、きっと今日が“最高気温”を更新する。
放課後・図書室
“照れ王大会”は騒がしく幕を閉じたけど、青春ってほんと——終わったふりして、次のページがめくれる。
放課後。りいなが静かに図書室に来た。 ラムネ瓶はもう手元になくて、代わりに借りた本を胸に抱えて歩いてた。 その空間に、先に透がいた。窓際、ページをめくる音だけが響いてる。
りいな「…透もいたんだ」 透「うん。りいなが来そうな気がしてた」
その言葉が、静かな再戦の“はじまりの合図”。 透は本を閉じて、りいなの隣の席に座る。
りいな「さっきの大会さ……照れたけど、なんかちょっと、嬉しかった」 透「俺も。“ふざけ”って言ったけど、本気で勝ちたかった」 りいな「どっちに?」 透「照れさせる方に。——でも、ほんとは、“心を動かす方”が良かった」
その言葉が、“ビー玉の音より響いた”気がした。
沈黙。 でも、ページのめくる音がふたりの間に流れて、 気まずさの代わりに“やさしさ”が満ちていく。
透「読んでるの、なに?」 りいな「詩集。『風にふれる言葉』ってやつ」 透「……いいね。りいなが読んでるってだけで、響きが変わる」
りいな「またそういう……ずるいよ」 そう言いながら、りいながページを開いて透に見せる。 そのとき、手がふれて、ふたりとも一瞬止まる。
透「これって…照れ王選手権・図書室版?」 りいな「違う。“好きごっこ・静かな回”」 透「じゃあ、照れたら負けじゃなくて……照れても見逃すやつだ」
りいなは本をそっと閉じて、透に向き直る。 「ねえ、透。あの大会、またやるなら——今度は、照れずに勝ちたい」 透「じゃあ、俺は、照れさせずに笑わせる」
図書室の夕方。光は静かに差して、ページを閉じたふたりの顔を照らしていた。 “好きごっこ”はまだ終わらない。 静かな再戦は、きっと一番深くふれあってる。
図書室の余白で告げられた一言
静かな再戦が、ほんのり甘く香る“予告編”に変わる瞬間。
透がりいなの隣に座って、本の間に挟まっていた栞をそっと抜く。 それは折り紙の、小さなひまわりだった。
透「これ、去年の夏、偶然机の中に残ってたやつ。……たぶん、りいなの」
りいな「えっ……なんでそれ、まだ持ってるの」 照れて声が揺れる。でも透は穏やかに答える。
透「なんか、捨てられなくて。——これ見てると、“夏の気持ち”が、少しわかる気がしたから」
その“夏の気持ち”に、りいなはもう何も言えなかった。 だって、自分でもその感情をまだちゃんと名前で呼べてない。
透「今、またりいなに会えて、よかったって思った」 「……いつか、“照れることよりも大事な気持ち”をちゃんと伝えたい」 「でも、今日は——隣で静かに“好きごっこ”できた、それだけで勝ちだと思ってる」
本のページはもうめくられないけど
その言葉が、今日最後の一行だった。
りいなはひまわりの折り紙を受け取って、そっとカバンにしまう。 まるでその“気持ち”を、まだ自分の中で育てるみたいに。
透「また来る? この場所」 りいな「…照れない約束で」 透「約束できないけど、“気持ち”は隠さないようにする」
図書室の窓から射す夕日が、ふたりの表情をふわりと染める。 “好きごっこ”は静かに続いていく。
「今日、りいなも一緒に食べよーぜ!」 はるきの声で、男子3人+りいなが机をくっつけてランチ開始。 すずは少し離れた席から、ペンをマイクにしてすでに実況モード。
すず「はい!本日も開幕しました、“りいな争奪ランチタイム”! 注目は、あーん未遂と間接キスの可能性!実況席、緊張感高まっております!」
りいな「え、なにそれ!?ただのお昼ご飯だよ!?」
透「いや、ただの昼ご飯じゃない。“好きごっこの昼の部”だよ」
海「俺、今日のメニュー“照れ味噌”だから、りいなにあーんしたら絶対赤くなる」
りいな「え、味噌で赤くなるの!? それアレルギーじゃない!?」
はるき「違う違う、照れアレルギー。りいな、天然すぎて逆に危ない」
海が自分の弁当から卵焼きを箸で持ち上げて、 「はい、りいな。あーんしてみる?」と差し出す。
りいな「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え
りいな「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え……っ!」
海「……長っ(笑)」
りいな「ちょ、ちょっと待って、心の準備が……!ていうか、なんで急に!?そういうの、ずるいってば……!」
海「えー、だってりいな、卵焼き好きでしょ?しかも俺の手作りだよ?特別感あるでしょ?」
りいな「う、うん……でも、あーんは……その……心臓に悪い……」
海「じゃあ、やめとく?それとも……勇気出してみる?」
りいな「……っ、ちょっとだけ目つぶっててくれたら……考える……」
海「おっけー。目、つぶった。ほら、りいな。あーん。」
りいな「……あーん……(ぱくっ)」
海「……!!ほんとに食べた!かわいすぎるってば……」
りいな「……もう、海のばか……」
昼休み、海が自分の弁当から卵焼きを箸で持ち上げて、 「はい、りいな。あーんしてみる?」と差し出す。
りいな「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え……っ!」
すず(実況):「おっと〜!りいな選手、まさかの“え”連打!これは完全に混乱状態!かわいさで場を制圧していく〜!」
りいな「ちょ、ちょっと待って、心の準備が……!ていうか、なんで急に!?そういうの、ずるいってば……!」
すず(実況):「海選手、攻めの一手!卵焼きという武器を手に、りいな選手の天然バリアを突破できるか!?これは青春の攻防戦!」
海「だって、りいな卵焼き好きでしょ?俺の手作りだし」
りいな「う、うん……でも、あーんは……その……心臓に悪い……」
すず(実況):「心臓に悪い発言いただきました〜!これは恋の病か!?いや、ただの天然か!?判断が難しい〜!」
海「じゃあ、やめとく?それとも……勇気出してみる?」
りいな「……っ、ちょっとだけ目つぶっててくれたら……考える……」
海「おっけー。目、つぶった。ほら、りいな。あーん。」
りいな「……あーん……(ぱくっ)」
すず(実況):「食べたーーー!!これは“未遂”じゃない!“成功”だーーー!!青春の一口、ここに刻まれたーーー!!」
りいな「……もう、海のばか……」
すず(実況):「はい、照れツン入りました〜!かわいさの暴力、りいな選手、無自覚で場を破壊していく〜!」
放課後の教室。窓際の席で、はるきがペットボトルを片手にぼんやり外を眺めている。りいなが近づくと、彼はふと振り返って、無邪気に言った。
「これ、飲む? 冷えてるよ」
差し出されたペットボトル。キャップはすでに開いていて、口元にははるきの唇の痕跡が……。
りいな、フリーズ。
すず(教室後方・実況席)「はい注目〜! りいなさん、間接キスのチャンスを前に固まりました〜!」
りいな「すず、ほんと黙ってて……!」
すず「いやいやこれは実況せずにはいられないでしょ! はるきくん、無自覚に爆弾投下〜!」
りいなは、ペットボトルを受け取るふりをして、ふと視線を逸らす。
「……ありがと。でも、さっき購買でジュース買ったから」
すず「おっとここで回避行動! しかしその手には缶ジュース、つまり“交換フラグ”が立っております!」
はるき「あ、そっか……」
すず「はるきくん、ちょっとだけしょんぼり! でもまだチャンスはあるぞ!」
りいな「じゃあ、交換しよ。そっちも飲んでみたい」
すず「きたーーーーー!! りいなさん、勇気の一手! 間接キス、成立なるか!?」
その瞬間、教室のドアがガラッと開く。
海「……何してんの」
空気が一瞬、凍る。
すず「おっとここで予想外の乱入者! 海くん、嫉妬の気配をまとって登場〜!」
りいな「え、海……?」
海ははるきの手元のペットボトルに目をやり、そしてりいなの手にある缶ジュースを見て、眉をひそめる。
海「それ、間接キスになるってわかってて言ってる?」
はるき「え、別に……そんなつもりじゃ……」
海「……ふーん。りいな、ジュースなら俺のもあるけど」
そう言って、海は自分のカバンから未開封の缶ジュースを取り出し、無言で差し出す。
すず「きたきたきたーーー! 海くん、嫉妬の缶ジュースアタック! これは三角関係の火種が燃え上がる予感〜!」
りいなは、はるきのペットボトルと、海の缶ジュースの間で視線を揺らす。
(どっちを選ぶの……? いや、選ぶって何……?)
教室の空気が張りつめる。
海が差し出した缶ジュースと、はるきのペットボトル。りいなの手元には、まだ開けたばかりの自分のジュースもある。
すず(実況席)「さあ、りいなさんの選択が迫られております! 間接キスか、嫉妬の缶ジュースか、それとも……?」
りいなは、ふたりの顔を交互に見つめる。はるきは少し困ったように笑い、海は無表情のまま缶ジュースを差し出している。
その沈黙を破ったのは、海のぽつりとした一言だった。
「……俺のジュース、りいなが飲んだら嬉しいって思ってる。別に、間接キスとかじゃなくて」
はるき「……海?」
海「でも、はるきのも飲むなら、それはそれで……ちょっと、悔しい」
すず「きたーーーーー!! 海くんの本音、漏れました〜! これは青春の“ざわざわ”が最高潮〜!」
りいなは、海の言葉に目を見開く。そして、ふっと笑う。
「じゃあ、両方もらうね」
はるき「えっ」
海「……は?」
すず「まさかの第三の選択肢! りいなさん、“選ばない”ことで全部受け取るスタイル〜! これは新時代のヒロイン像です!」
りいなは、はるきのペットボトルを受け取り、そっと口をつける。冷たい水が喉を通る。
そして、海の缶ジュースも受け取って、プシュッと開ける。
「ありがと、ふたりとも。どっちも嬉しい」
すず「はい、ここで実況終了! りいなさん、青春の揺れをまるごと抱きしめました〜!」
はるきは照れくさそうに笑い、海は少しだけ目をそらす。でもその耳は、ほんのり赤い。
りいなの胸の奥で、何かが静かに灯った。
(選ばなくても、ちゃんと“今の自分”を選べるんだ)
りいなが、はるきのペットボトルと海の缶ジュースを両手に持って微笑む。
すず「はいはいはい! じゃあ私も飲む〜!」
りいな「えっ」
はるき「え?」
海「……は?」
すずは自分のカバンからストローを取り出し、りいなの手元のペットボトルにスッと差し込む。
すず「間接キス? そんなの気にしてたら青春できないでしょ〜! てことで、私も仲間入り〜!」
はるき「いや、仲間入りって……」
すず「つまり、これで四角関係ってことだよね? はるき、海、りいな、そして私! “選ばない青春”に、私も混ぜてください!」
りいな「ちょっと待って、すず……!」
すず「待たないのが私のスタイル♡」
教室は笑いとざわつきに包まれる。はるきは苦笑い、りいなは照れ笑い、海は……黙っている。
その日の放課後。校舎裏のベンチに、海がひとり座っている。
缶ジュースを手にしたまま、開けることなく、ただじっと見つめている。
「……俺、あんな風に混ざれない」
誰に言うでもなく、ぽつりとこぼれた言葉。
「りいなが笑ってるの、嬉しい。でも……俺のジュース、ほんとは“選んで”ほしかった」
風が吹いて、海の髪を揺らす。
「すずみたいに、軽く言えたらよかったのに。はるきみたいに、無邪気に渡せたらよかったのに」
缶ジュースをそっとベンチに置いて、海は立ち上がる。
「……でも、俺は俺のままで、りいなが好きなんだよ」
その言葉は、誰にも届かない。けれど、夕焼けの中で、確かにそこにあった。
昼休み。中庭のベンチ。りいなが海の隣に座って、ふたりでお弁当を広げている。
りいな「海の卵焼き、今日も甘い〜。これ、絶対私好みにしてるでしょ?」
海「……してるけど」
りいな「え〜、やっぱり〜! ありがと♡」
海「……“ありがと”だけ?」
りいな「じゃあ、特別に一口あげる!」
そう言って、自分のお弁当から唐揚げを海の口元に差し出す。
海は無言でそれを食べる。りいなは満足げに笑う。
すず(遠くから見てる)「はいはいはい! また始まりました〜! “自然にいちゃつくと有名なふたり”の昼休み劇場〜!」
はるき(隣でゲームしてる)「あれ、付き合ってないんだよね?」
すず「うん、でもあれはもう“付き合ってる未満の恋人以上”ってやつだよね」
りいな「すず〜! 実況しないで〜!」
海「……別に、実況されてもいいけど」
りいな「え、なんで?」
海は、ふと真顔になる。
「だって、俺はりいなのこと、好きだから」
りいな「……え?」
海「ずっと、好きだよ。からかってるわけじゃない」
りいな「え〜、また爆弾発言〜! 海ってたまにそういうこと言うよね〜。照れ隠し?」
海「……違う。俺、本気だよ?」
りいなは、笑いかけた顔のまま、ふと止まる。
(……本気?)
海の目は、冗談じゃないって言ってる。いつもの“自然ないちゃつき”の延長じゃない、何かがそこにある。
りいな「……そっか。じゃあ、卵焼きもう一個ちょうだい」
海「え?」
りいな「“好き”って言ってくれた人には、もっと食べてもらわなきゃでしょ?」
海は、ふっと笑う。
「……ほんと、天然だな」
りいな「えへへ。でも、海の“本気”はちゃんと受け取ったよ」
ふたりの距離は、変わらない。でも、確かに少しだけ近づいた。
すず(遠くから)「はい、事件③終了〜! これはもう、青春の“本気と天然の交差点”です!」
放課後。校庭の隅。りいなと海が並んで歩いている。さっきの“本気”発言の余韻が、まだふたりの間に残っている。
りいな「……海って、ほんとに私のこと好きなんだね」
海「今さら?」
りいな「うん。でも、なんか……嬉しい」
海「……そっか」
ふたりの距離は、自然に近い。誰が見ても“いい感じ”に見えるその瞬間、背後から足音が響く。
すず「ちょっと待ったーーーー!!」
りいな「すず?」
海「……何」
すずは息を切らしながら、ふたりの前に立つ。そして、突然叫ぶ。
「私も本気だったんだけど!!」
沈黙。
りいな「……え?」
海「……は?」
すず「ずっと、りいなの隣にいたかったし、海の隣にもいたかったし、はるきの隣も捨てがたかったし……でも、でもね!」
すずの目に涙が浮かぶ。
「りいなが“選ばない”って言ったとき、私も“選ばない”でいられるって思ってた。でも、海が“本気”って言った瞬間、私の“本気”が置いてかれた気がしたの!」
りいな「すず……」
すず「私、ずっと“実況係”だったけど、本当は“プレイヤー”になりたかったんだよ!」
海「……すず」
すず「でも、りいなが海の卵焼き食べてるの見て、私、負けたって思った。卵焼きで負けるって何!? でも、負けたの!」
りいな「……卵焼き、そんなに重要だったんだ」
すず「重要だよ! 甘さのレベルが愛の深さなんだよ!」
海「……それは知らなかった」
すずは涙を拭いて、ふたりを見つめる。
「だから、言っとく。私も本気だった。でも、今は……りいなが笑ってるなら、それでいい」
りいな「……すず」
すず「でも、卵焼きはもらうからね!」
そう言って、すずは海のお弁当から卵焼きをひとつ奪って、走り去る。
海「……あいつ、やっぱりすずだな」
りいな「うん。でも、すずの“本気”も、ちゃんと受け取ったよ」
ふたりは、少しだけ立ち止まって、空を見上げる。
すずの“本気”は、笑いと涙と卵焼きに包まれて、確かにそこにあった。
夕方の教室。窓から差し込むオレンジ色の光の中、はるきはひとり、机に突っ伏している。
机の上には、空になったペットボトル。
(あのとき、りいなが飲んでくれたの、嬉しかった)
(でも、海の缶ジュースも受け取ってた)
(すずも“本気だった”って言ってた)
はるき「……俺だけ、何も言ってない」
誰にも聞かれていない独り言。でも、その声には、確かな揺れがあった。
はるきはゆっくり顔を上げて、窓の外を見る。
(りいなって、誰にでも優しい。天然で、ふわふわしてて、でも時々、すごく強い)
(俺、ずっと“友達”でいいって思ってた。隣にいられれば、それで)
(でも、違う。俺も――)
そのとき、教室のドアが開く。
りいな「はるき、まだいたんだ」
はるき「……うん。ちょっと、考えごと」
りいなは、はるきの隣の席に座る。ふたりの距離は、いつも通り。でも、はるきの心は、いつもと違う。
りいな「今日、すずすごかったね。卵焼きで本気宣言するとは思わなかった」
はるき「……うん。すず、かっこよかった」
りいな「海も、なんか真剣だったし」
はるき「……りいなは、誰かを選ぶの?」
りいな「え?」
はるき「いや、なんでもない。ごめん」
りいな「……選ばないよ。今は、ね」
はるき「そっか」
沈黙。
はるきは、ペットボトルを指で転がしながら、ぽつりとつぶやく。
「俺も、りいなのこと……好きだよ」
りいな「……え?」
はるき「ずっと、言わなくていいって思ってた。でも、言わなきゃ、何も変わらない気がして」
りいな「……はるき」
はるき「でも、選ばなくていい。俺は、隣にいられるだけで、嬉しいから」
りいなは、はるきの顔を見つめる。その目は、いつもの無邪気さじゃなくて、ちゃんと“本気”だった。
りいな「……じゃあ、隣にいてね。ずっと」
はるき「うん。ずっと、いるよ」
夕焼けの中、ふたりの影が並んで伸びていく。
すず(廊下の隅)「はい、事件⑤終了〜! はるきくん、ついに自覚しました〜! でも、りいなさんは“選ばない”を貫いております〜!」
海(階段の上)「……それでも、俺は選ばれたい」
青春のざわめきは、まだ終わらない。