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 二人がヴィルマが用意してくれたお茶を飲んでゆっくりした後、仕事の邪魔をしてはいけないからと早々に帰るのをギュンター・ノルベルトはあからさまに落胆した顔で見送り、レオポルドはまたいつでも来いと二人を会社の受付があるロビーまで見送る。

 会長自ら見送りをするほどの人とはどんな人だとその場に居合わせた人々は驚愕の目で二人を見るが、その視線を感じつつも平然とした顔で自動ドアを潜り、来客スペースに止めてあるスパイダーに乗り込むが、リオンがトイレに行きたいと急に宣い、呆れたウーヴェが車内で待っているから行ってこいと送り出す。

「悪ぃ。すぐ戻って来るから」

 キスと共に言い残して自動ドアを再度潜ったリオンは、エレベーターの前で他の社員と何やら会話をしているレオポルドを呼び止める為に声を掛けようとするが、一瞬だけ躊躇してしまう。

 この大企業をたった一代で作り上げた立志列伝が何冊も出版されてもおかしくない偉人を今までのように呼んで良いのかとの躊躇いが芽生えるが、本人がそう呼べといつだったかリオンに笑って伝えた過去の出来事を盾にしようと決めて軽く息を吸うと腹の底から声を出す。

「親父!」

「!?」

 その声はロビーの中で響き渡り一斉に皆がリオンの顔を見つめエレベーターを待っていたレオポルドも驚いた様に振り返るが、少しだけ頬を赤くしたリオンの表情から何かを感じ取ったのか、ウーヴェと一緒の時とまったく変わらない顔でどうしたと問いかけながらリオンの前に歩み寄る。

「ちょっと相談したい事があるんだけど良いか?」

「何だ、ウーヴェには聞かれたくない話か」

 まさかとは思うが新婚旅行先で浮気をしたのではないだろうなと背後のソファを顎で示しつつレオポルドが笑うと、リオンがそんな訳あるかと苦笑するがまだ今は聞かれたくない話だと断り、肩を並べてソファに座る。

 受付の社員にしてみれば会長自らが見送りに来るだけではなくロビーのソファで座り込んで話をする姿を見る日が来るなど想像も出来ず、ただ呆然とその姿を見ているがエレベーターから社長であるギュンター・ノルベルトとその秘書であるヘクターがやって来た事に気付いて見送るために礼をする。

「会長、こんな所で話ですか」

「おお、リオンが話があると言うから聞いていた」

 こんな所で話をせずに部屋に戻れば良いのにとギュンター・ノルベルトが呆れた様に二人を見るが、ウーヴェを待たせているらしいとレオポルドが告げたため、どうしたと眉を寄せる。

「……再就職の話だけど、時間の自由が効く仕事があれば紹介して欲しい」

「何だ、そんなことか」

「俺はバカだからサラリーマンとかは無理だと思う。セキュリティ会社とかならまだ何とかなるかなーとは思ってる」

 前職が刑事というのも再就職の時に何かの役に立つかと思うがと頭に手を宛がうリオンを前にギュンター・ノルベルトがヘクターに顔を寄せて何事かを囁くと、総てを心得ているようにヘクターが頷きヴィーズン明けの少し前から呼んでみればどうだと提案されて今度はギュンター・ノルベルトが小さく頷く。

「父さん、後で少し話がある」

「分かった。再就職先だが色々当たってやるから待ってろ、リオン」

「ダンケ、親父、兄貴」

「……お前が元気に働く事でフェリクスが笑ってくれるのだったらいくらでも就職先を探してやる」

 己の行動の根本にいるのはやはり今でも幼い頃の笑顔を浮かべるウーヴェだと苦笑する伴侶の兄-実父-に苦笑したリオンは、あまり時間を掛けるとウーヴェが心配するからと告げて立ち上がると、甘えて悪いが頼むと一礼をし軽い足取りで三度自動ドアを潜るのだった。

「……話とは何だ」

「父さん専属のセキュリティを雇おうかと思ってる」

 最近は海外に出張する回数も減っているが、それでも時々出かけることがある会長職の父のため専属のセキュリティを雇う必要性について話をしていたと、社長であり息子であるギュンター・ノルベルトが自動ドアの向こうへと顔を向けつつ囁くと、何を言わんとするのかを察したレオポルドが腕を組んで満足そうに吐息を一つ磨かれたフロアに落とす。

「……お前に任せる」

「ヘクター、ヴィルマと一緒に準備をしてやってくれ」

「分かりました」

 レオポルドの許可を得た事でこの話は決定済みだとギュンター・ノルベルトが笑い、役員会に諮る必要は無いと思うが万が一のことがあれば面倒だから手回しを頼むとも告げ、今からフランクフルトで会議に出席してくる、戻るのは明日になる事を告げると鷹揚に頷くレオポルドにヘクターも頭を下げるのだった。



 スパイダーを鼻歌交じりに運転し自宅に帰り着いたリオンは、ウーヴェと肩を並べて自宅のドアの前に立つ。

「……やっぱさ、家が良いよな」

「そうだな」

 旅行先のホテルも良いがやはり自宅に勝るものは無いと笑い、ウーヴェが鍵を開けてリオンがドアを開ける。

 長い廊下にはウーヴェの歩行の手助けをする為に手摺りを付け、リビングやキッチン、ベッドルームでも不自由さを軽減できるようにウーヴェが一人の時でも家の中を自由に歩けるようにと一つずつ手を加えていた。

「クリニック再開の案内を作らないといけないな」

「業者に依頼するのか?」

「いや、時間があるから手書きする」

 印刷された無機質なものではなく、少しでも気持ちが伝われば良いとの思いから長らくクリニックを閉めていた事を詫び再開することを伝える文面を手書きすると告げると、リオンが呆れた様に天井を見上げる。

「手伝ってくれないか、リーオ」

「……えー」

「チョコ一枚でどうだ?」

「二枚!」

 この後の予定を楽しげに笑み混じりに告げつつリオンの宣言にどうしようかとウーヴェが思案する素振りを見せるが、二枚ぐらい良いだろうダーリンと頬にキスをされて微苦笑に切り替える。

「そうだな」

 本当は面倒臭いことなどしたくない筈なのにチョコ二枚で手伝ってくれるリオンの本心に内心で感謝の言葉を伝えたウーヴェは、明日から作業に掛かるが準備等もあるから明日リアのカフェに行って彼女にも手伝ってもらえるかどうか確かめようと提案すると、 リオンが文字通り諸手を挙げて賛成する。

「イイな、それ」

「ああ」

 明日から忙しくなるから今日はまだゆっくりしようと笑ってリビングのドアを開けたウーヴェはカウチソファに座って横臥すると、身体に覆い被さるようにリオンも寝そべってくる。

「オーヴェ、ちょっと昼寝しようぜ」

「ああ」

 ソファで二人身を寄せ合いながら昼寝しようと笑い、残暑も厳しいが窓を開けていると涼しい風が入る事に気付きリオンがそそくさと窓を開ける。

「……リーオ」

「ん?」

 リオンを手招きしたウーヴェは病室で良くしていたようにリオンの胸に耳を宛がうためカウチに寝ろとその手を引っ張り、ウーヴェの望みに気付いたリオンを褒めるようにキスをする。

「……お前の鼓動は……やっぱり、落ち着く……」

「そっか。じゃあこうしてるからさ、寝ろよ」

 病室でいつもやっていたように鼓動を聞きながら昼寝をしようと囁くリオンに頷いたウーヴェは、優しく背中を撫でられて小さく欠伸をし、その心地よさに誘われて眠りに落ちるのだった。

 そんなウーヴェを追いかけるようにリオンも欠伸をするが、明日からの忙しさが充実している証になる様に願いつつ一際大きく欠伸をした後、ウーヴェの髪にキスをし目を閉じるのだった。


Über das glückliche Leben.

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