テラーノベル
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壱月と休みの被った今日、私たちは花斗と対面していた。
花斗はリビングのソファに腰掛け、私たちはその前に正座する。
「これから、大事な話をします」
私が言うと、花斗はピクリと肩を震わせ、それからこちらをじっと見た。
「ぼく、しょうがくせいに、なれない?」
怯えるように震える花斗に、「そんなことはないよ!」と慌てて言う。
けれど、花斗にはもっとつらい話かもしれない。
そう思うと、どうしても胸を抉られたような気分になってしまう。
つらいのは、私じゃなくて花斗なのに。
壱月をふと見ると、彼は私の手をきゅっと優しく繋いでくれた。そのまま、「平気だ」と言うように、一度頷いてくれる。
それで、私は改めて花斗に向き合った。
「あのね、花斗」
キョトンとした瞳と目が合って、その純粋な瞳にこんなことを言うのは、と尻込みしてしまいそうになる。
それでも私は壱月の手をきゅっと握り返して、口を開いた。
「花斗はみんなと色の見え方が違うの。しってるかな?」
「うん、しってるよ。だから、ぼくはときどき、いろをまちがえる」
ほう、と一度胸をなでおろす。
どうやら自分のことを、しっかりと理解しているらしい。
「でも、それは花斗がダメなわけじゃなくて、たまたま花斗の世界は他の人と違ってるってだけなのね」
「うん……?」
花斗は私の説明がよくわかならかったらしい。首をかしげ、壱月を見る。
壱月は「あー……」と口を開き、少し悩んでから、口を開く。
「つまり、花斗は特別ってことだ」
すると、花斗はニコッと笑った。
「それでね、花斗――」
私が話し始めると、花斗の純粋な瞳がこちらを向いた。
それで、再び言葉に詰まってしまう。
胸がきゅうっと苦しくなる。
けれど、言わなくては。
花斗の、未来のためにも。
小さく深呼吸をすると、繋いでいた壱月の手が離され、そっと私の背に触れる。
それに勇気をもらい、私は花斗の瞳を見つめた。
「花斗の見え方をする人は、パイロットにはなれないの」
「え……?」
花斗はキョトンとする。
それから、壱月を見て言った。
「ぼく、パパみたいになれないの?」
それで、私の脳裏に、パイロット姿の壱月を見て目を輝かせる花斗の姿が浮かんだ。
それは、壱月と再会した、あの日のこと。
これからフライトに出かける壱月の足に、花斗がぶつかったあの運命の瞬間だ。
「花斗は、パパと同じパイロットにはなれないんだ。ごめんな」
壱月が言うと、花斗はしゅんとうつむいてしまう。
「なんで?」
花斗はそのまま、小声でつぶやいた。
そんな花斗の頭を、壱月がくしゃりと撫でる。
「なんで? パパとぼくは、なにがちがうの?」
「……花斗は生まれたその時から、見え方がちょっと違うんだ」
「でも、ぼく、ひこうきちゃんとみえるよ? ひこうき、だいすきだよ?」
そう言って顔を上げた花斗の目には、涙がたっぷりと浮かんでいた。
「ぼく、パイロットになるもん!」
花斗は叫んだ後、下唇をぐっと噛んで涙をこらえる。
そんな花斗をフォローするように、壱月は立ち上がって花斗の隣に座った。それから、花斗の背にそっと触れ、口を開く。
「でもな、花斗。飛行機を飛ばすには、パイロット以外にもたくさんの人たちが関わっているんだ。だから――」
「パイロット! パイロットじゃなきゃヤダ!」
壱月の手から逃げるように、花斗は勢いよく立ち上がる。
それから、リビングのテーブルに置いてあった飛行機のおもちゃを手に取り、床に投げつけた。
「花斗!」
呼び止めようとしたけれど、花斗はぷいっと向こうを向いて寝室のほうへ駆けてゆく。
「パパとママは、こないで!」
花斗はそう言うと、バタンと扉を閉め、中にこもってしまった。
コメント
1件
うわあ……第87話、めちゃくちゃ胸が締め付けられました……。花斗が「パイロットになれないの?」って聞くところ、純粋だからこそ刺さる。壱月が「パイロット以外にもたくさん関わってる」ってフォローしようとしたのも、でも花斗は「パイロットじゃなきゃヤダ」って叫んで駆けていく……。子どもの夢を否定しなきゃいけない親の苦しさ、すごく伝わってきました。涙堪える花斗の姿が忘れられない……😢
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