テラーノベル
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視界を塞ぐ、霧とも、人魂ともつかないソレに、鋭琉は見覚えがあった。
それでも状況を飲み込めず、鋭琉は一瞬足を止める。
急激に悪くなった視界に浅いパニックを覚えて、生唾を飲もうとする。
・・・喉がうまく収縮しなかった。
本能が、それどころじゃないと言っている。
自分が足を止めていたことに気づいて、鋭琉はふらりと歩き出した。
ほとんど何も見えない。
ただでさえ普段よりいくらか狭い視界が、濃霧でさらに塞がれていた。
手を離しそうになって、鋭琉は慌てて銃を強く握る。
走馬灯のようなものを見ながら、鋭琉は顔を上げた。
──濃霧。
目を凝らせば、奥が見えるだろうか。
鋭琉は震える息を無理に吸って、視野を広げた。
霧でぼやけた視界が、少しだけ輪郭を得る。
だが、まだ見えない。
鋭琉は必死に目を凝らす。
輪郭が整いそうになって、また霧で滲む。
秒を追うごとに、背筋を走る悪寒が強くなってくる。
振り返らなくてもわかる。
精霊が、近い。
振り向きたい衝動を抑え、鋭琉は浅く息を吸う。
視界が、少しぼやけた、刹那。
悪寒が一際強くなって、鋭琉は耐えきれず視線だけ後ろにやった。
霧が──精霊が、鋭琉を飲み込もうとしていた。
形状が変化している。
殺しにかかってきたのだろうということが、鋭琉には考えるまでもなくわかった。
──そして、それと同時に、鋭琉は勝機を見出した。
精霊が鋭琉を飲み込もうとするその一瞬、視界を塞いでいた霧が晴れたのだ。
それに気付くよりも早く、鋭琉の目は精霊異能持ちを探していた。
走馬灯はいつの間にか消えていた。
包み込もうとするような動きを、頭の中だけで完結させられるということはないであろうことを、鋭琉は知っている。
使い手の動きに出るはずだ。
鋭琉の目は、精霊と一瞬動きがリンクした人間を、ひどく自然に捉えていた。
そして、考える間もなく、反射というにも早すぎるくらいに、引き金を引いた。
命のかかった賭けだというのに、その判断はあまりに早かった。
その人間を怪しいと思うより先に、鋭琉はもう撃っていた。
そして、撃ったことを自覚する前に、彼の体は次の動作に入っていた。
手榴弾のピンを抜いて、投擲。
自分でもはっとするほど、正確な軌道を描いた。
人の1番密集していたところの、中心部。
きっとすぐ回復系の異能で治療されるだろう。
だが、敵陣を混乱させるための、目眩し兼時間稼ぎとしては、十分すぎるくらいだった。
──手榴弾を投げ終わるか否や、視界が唐突に晴れる。
目を凝らさなくとも、輪郭がはっきりと映った。
精霊が、消えている。
吸い上げられていた葉が落ちた。
鋭琉はなんとか足を動かす。
「(・・・まだ、終わってない)」
確かに精霊異能持ちは殺した。
だが、まだ敵陣の目の前だ。
今は時間稼ぎをしているから無事だが、早くこの場を離れなければ、命の保証はない。
いや──死ぬ。
撤退する。
走る。
駆け抜ける。
──背は、向けない。
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