テラーノベル
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呼吸が乱れて、半ば過呼吸のようになっていた。
しかし、鋭琉はそれにも気づかなかった。
彼の生存本能は、ただ生き延びることに全てを割いていた。
──自陣に戻るまでは。
戦場の端から端までの距離が、どれだけ長いかを想像してほしい。
自陣が見えた瞬間、鋭琉が何かを思う間もなく、彼の膝は地に着いていた。
息を吸うたびに喉が鳴って、足が震える。
鋭琉は、喉の痛みを感じながら、視界がちらつくのを固く目を閉じて耐えていた。
「(・・・生きてた)」
鋭琉は楽な姿勢を探そうと少し体勢を変えた。
「(まさか、成功するとは)」
成功するとは──夢にも思わなかった。
どう考えても死ぬ作戦だった。
まず、あの距離でヘッドショットを決めるのに成功したことが信じられない、と鋭琉は思う。
射程距離ギリギリで、目標を見つけた瞬間ノータイムで撃ってヘッドショットなんて、現実的に考えて出来るものではない。
次に、手榴弾を異能で防がれなかったことも信じられない、と思う。
あの時は考えないようにしていたが、普通に考えて防がれないはずがなかった。
なんなら、自陣まで戻って来れたことも信じられない。
目立たない道を選んだとはいえ、戦場だ。
防御異能もなく、戦場の端から端まで駆け抜けて、どこかで殺されなかったのが不自然なくらいだといえる。
・・・つまり、幸運だった。
鋭琉は、ゆっくりと息を吐く。
やっと喉の痛みも落ち着いてきただろうか。
「(──本当に、幸運だった)」
鋭琉は目を開けて、己の幸運を噛み締めるように自陣を仰ぎ見た。
あの状況から生還した、という事実が、やっと現実味を帯びてくる。
ふいに足音が近づいてくる。
ここは自陣だ──足音の主が敵ではないことは、わかっている。
それでも、鋭琉は反射的に身を固めた。
足音は、こちらに向かってきている。
そして。
「・・・鋭琉?」
──名前を、呼ばれた。
それを聞いて、鋭琉は少し体の力を抜いた。
名前を呼ぶ声で、足音の主が誰か分かったのだ。
「・・・宇琳」
そう呟くと、宇琳はいくらか顔を綻ばせた。
「いなかったから心配したんだぜ?」
「精霊異能みたいなのも途中から来たし」
鋭琉は笑う。
「・・・な」
「俺も死んだと思った」
宇琳はつられて少し笑って、「仮にも上官がそんな事言うなよ」とぼやいた。
鋭琉は、「危険を顧みない脳筋戦法だったんだ」と小声で反論した。
手持ち無沙汰になって、小石を指で弄る。
反論が聞こえたらしい宇琳は、「脳筋はいつもだろ」と笑った。
「じゃあ、輪をかけて、だ」
「・・・脳筋を否定しろよ・・・」
少し笑って、鋭琉はゆっくりと立ち上がる。
息もほとんど整った。
もうほとんど全快と言っていいだろう。
「精霊異能持ちとか、初めて見たよな。対 策、考えなきゃな」
宇琳はそう呟いて、鋭琉を見る。
鋭琉は、持ち場に戻る前に、どうしても自慢がしたくなった。
どんな非現実を自分が見たか、鋭琉は誰かに語りたかったのだ。
これは報告であって自慢じゃない、と自分に言い聞かせて、鋭琉は口を開く。
「・・・そういえば、精霊異能持ちのことなんだが」
「俺自身も驚かんばかりの奇跡が起きたんだ」
──鋭琉曰く、「努めて冷静に」。
──宇琳曰く、「生き生きと」。
コメント
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仲間!?