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透子に会えないと宣言した通り、あれから予想通り目まぐるしく忙しなく過ぎて行く毎日。
自分に任された仕事、社長代理としての任務に追われてる一方で、会社の雰囲気が少しずつ変化していることに気付く。
なんとなく予想はついたモノの、敢えて直接オレの所に話が来ないことで、今は与えられた目の前のことに集中する。
そんなある日。
「樹。若宮社長と麻弥さんがお見えになった」
仕事をしているとドアを開けて秘書の神崎さんからそう伝えられる。
「若宮さんが?オレに? 何の用事だろ」
「今、通して大丈夫か?」
「あぁ。お願い」
そして二人を神崎さんが社長室へと通す。
「やぁ。樹くん。久しぶりだね」
「いっくん久しぶり~!」
そう言って社長室に入って来た二人の人物。
幼馴染でもある3歳下の麻弥と、その父親でもあり親父と学生時代から仲がよく家族ぐるみで付き合っている叔父さんの姿。
「あぁ。お久しぶりです。わざわざ今日はどうされたんですか?」
「ちょっとこっちに来る用事があってね。今日の夜まで麻弥が待ちきれなくて樹くんに会いたいと聞かないものだから」
「あぁ。そういえば今日久々に食事会うちであるって言ってましたね」
ここの家族とは、何年かに一回たまに集まって食事会なんかがあって。
麻弥の父親の叔父さんは、うちとはまた違う企業で大成功を収めてる世界規模の会社を経営していて、若宮グループと聞けば大体の人物が知っているグループ。
麻弥は俗に言うお嬢様。
そして今はモデル業を仕事としていて、うちの会社の仕事も関わってもらったりもしている間柄。
そんな麻弥は、小さい頃から兄弟のいないオレにとって妹的な可愛い存在で。
麻弥の家も早くに母親が亡くなっていることもあって、今は片親同士という境遇もよく似ていて、うちの家が離婚してからも、麻弥とは連絡を取り合っていた仲。
麻弥もお嬢様故に、自由がきかないことだったり、親に言えないことは兄貴代わりのオレによく相談したりしてきていた。
そしてオレがこの会社に入社してからは、オレと親父の繋がりが増えたことで、また親父や叔父さんも一緒に時間を過ごすことが多くなった。
「今日の夜が嬉しすぎて待ちきれなくて、いっくんに会いに来ちゃった!」
いつもこうやって麻弥はオレに懐いてくれている。
だけど、今日はなんかちょっと様子が違う気がして。
「え? 今日の夜って、いつものただの食事会じゃ・・」
「樹くん。今日は麻弥と君とのこれからの結婚について話し合う会だって聞いてないのか?」
「・・えっ!!??」
いきなり信じられない言葉が飛び出して動揺してただ驚いた声を出してしまう。
はっ?? 何それ。
麻弥との結婚!?
親父・・まさか・・。
「いっくん。今更でしょ? 昔から私はずっと結婚するならいっくんがいいって言ってるじゃん」
「いや。それは、麻弥がそう言ってただけで・・・」
確かに麻弥はオレのことをオレが妹的に思っている感情より、それ以上の感情があることはわかってはいたけど。
それは麻弥がずっと口癖のように昔からただ言ってただけもあって、親たちもノリで話していただけのはずだった。
「何それ。私が本気じゃなかったとでも?」
「いや。そういうわけじゃないけど・・・。そんな具体的な話にいつ・・・」
親父からはただ今夜麻弥たち家族との食事会があるから顔を出すようにと言われただけで。
そんな説明一つもなかった。
どういうこと?
オレがいないとこで親父何勝手に話進めてんの?
「なんだ。樹くん、アイツから何も聞いてないのか?」
「あっ・・はい・・」
「そうか。まぁアイツもちょっと自分の口からは言いにくいのかもしれんな。まぁいい。今夜、それも含めてちゃんと皆で話をしよう」
叔父さんはこの話の流れがどうしてこうなったのか知っているような口ぶりで。
「私はとにかくいっくんと結婚出来るならなんでもいい。ようやく私の想いがいっくんに届くんだもん」
「いや、ちょっと待って麻弥。オレはそのことに関しては何も・・・」
なのに麻弥はすでに気持ちが高まってるのか、嬉しそうにそんなことまで言い出してしまって、戸惑ってしまう。
「あぁ。すまない樹くん。ちょっと次の用事がまだ詰まっていてね。この辺で失礼するよ。また夜に」
「あっ、はい・・・」
「またね~いっくん」
そう言って麻弥達は嵐のように過ぎ去っていった。
少しずつ、オレの周りが、オレの知らないところで、騒がしくなってきた予感がする。
それはきっと望まないことが、予測出来ないことが、起きて来るようなそんな不安な予感・・・。