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いきなり具体的な話を言われ、とりあえず動揺しながらも、一旦気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ、神崎さん・・。これ・・やっぱり言ってた通りになったってこと・・?」
そしてオレは一部始終をその場で見ていた神崎さんに尋ねる。
「やはり社長は樹の気持ちを聞かずに動き出したみたいだな」
「まさか親父、本当に麻弥と結婚させようとしてるとはね・・・」
嫌な予感はしていた。
滅多にオレに直接意見を言ってこない親父が、数か月前に急に麻弥との結婚の話をそれとなく持ち出してきて。
当然その時はオレは透子に夢中で麻弥との結婚なんて頭になかったし、いつものように適当に誤魔化して断ったつもりだった。
なのに。
この話はオレの知らないところで具体的に進み始めていて。
「神崎さん。やっぱり会社・・厳しいの?」
「あぁ・・。正直、社長が倒れてから大幅に売り上げが落ちてしまっているからね。やっぱりこの先不安に感じている取引先も多いみたいでね。あとは株主連中がまぁちょっと動き始めてるようで」
「ホントに神崎さんが最初に言ってたようなことになってきたってワケか・・・」
「今のままだと多分社長も時間の問題でこの会社を守りきれなくなると思う」
「それで・・・麻弥との結婚でどうにかしようと?」
「社長にとっては、それが一番最良だと判断したのかもしれないな。麻弥ちゃんはずっと樹のこと好きなワケだし、二人が結婚するとなると若宮グループが力になるってことだからな。そうなると正直この会社は助かる」
小さい頃から麻弥はオレに特別な感情を抱いてるのは正直わかっていた。
だけど、オレの中ではどれだけ年齢を重ねても、麻弥は妹以外に思えなくて。
だからといって、麻弥は妹のような存在だし、頼られれば助けてやることも多かったし、大切な存在には変わりなかった。
正直何度も麻弥の口から好きだと伝えられていたことも確かで。
オレが若い時遊び回ってる時も、麻弥はそれでも一途にオレを想い続けていた。
だから麻弥がどれだけオレに気持ちを伝えて来ても応えることはしなかった。
ずっと気持ちは変わることもなかったし、妹のように大切な存在だからこそ、変に期待させて傷つけることもしたくなかった。
「まさか本当にそう考えてるとは思わなかったけどね・・・」
「昔から社長たちが口約束で二人を結婚させると言ってたのも、意味があったってことだな。きっとお互いに何かあれば助け合おうとそういう意味も含んでいたのかもしれないな」
「でも実際親父がその話を受け入れるとは思わなかったから・・・。正直ちょっとそこまで真剣に考えてなかった」
今、親父が倒れて、オレが社長代理としていくら頑張ってても。
結局親父の存在がないと、どんどん成り立たなくなることも増えて来るのも事実で。
親父がずっと守り続けて来たこの会社だからこそ、ここまでの会社になって。
だけど今正直、この会社を今のまま維持出来るかどうかは定かではない。
それは今すぐどうこうなるわけじゃないはずなのに。
親父は麻弥との結婚で、力のある若宮グループに助けてもらおうと考えている。
「だけど親父が一人で築き上げて守って来た会社だからこそ、そんな力借りないんだと思ってた」
「だからじゃないかな。社長にとってこの会社はすべてだからね。その会社を今自分の手から離れてしまうのはきっと不本意だろうし、最後まで守りたいんだと思うよ」
株主が動きだせば、この会社も親父のものじゃなくなるかもしれない。
親父の身体も今の状態を思えば、この先どうなるかわからない。
きっと親父自身もそれを見越して決断を早めようとしているのだろう。
「でも・・まだ今なら止められるよね? 神崎さん」
「多分社長はまだあのことを知らないから、自分の出来る限りの力を尽くしてこの会社を救おうとしてるんだろうな」
「会社は助けたい。だけど・・・オレ・・どうしても透子以外考えられない・・・」
ようやく透子に想いが通じたのに、このまま麻弥と結婚とかありえない。
なんなんだよ、今どきそんな政略結婚みたいな話。
確かにオレらの小さい頃から親同士が仲いいだけあって、酔った酒のつまみに話しているくらいはあったけど。
だけど、所詮麻弥もどこまで本気かもわからないし、オレだって元々その気はなかったし。
なのに、あれ親同士も本気だったってこと?
「今、会社が危機に陥りそうになって若宮グループが手を貸して救えるのだとしたら・・・。そうなるとまぁ社長は樹に望月さんみたいな存在の人がいるなんて知らないワケだからね。樹に相手がいないのなら、そういう流れになってもおかしくないと思うよ」
至って冷静に神崎さんが状況を判断する。
確かに今までのオレを見てたら身を固めろって思われても仕方ない話で。
特定の大切な存在を紹介したこともなんてもちろんないし、昔フラフラ遊び回っていた時の話も当然親父の耳にも入っていたのだと思う。
そっか。
こんな時にそういう報いって来るものなのか。
「透子のことはもっとちゃんと段階踏んで紹介しようと思ってたし、結婚とかまだそこまでの話も正直透子とはしてないし・・・」
結婚だなんて大事なこと、オレ一人だけで決められるものじゃない。
まだ一緒にいられる時間も数えるくらいしか二人で過ごしてないのに。
オレ的には透子とずっと一緒にいたいけど、オレの気持ちだけ透子に押しつけたくもない。
きっと透子はそうじゃなくても結婚には慎重になっているだろうし。
だからゆっくり時間をかけて育んでいきたかったのに。
まさか別の方向でオレだけが結婚の選択を迫られるなんて・・・。
「だけど、樹はどちらにしろ望月さんとこの先一緒にいる為に今あの計画も進めて頑張っているとこだろ?」
「そうだけど・・・。正直まだそこまでの形になってないのにその間に結婚進められたりなんかしたら、透子を不安にさせるだけだし・・・」
まだ親父にも話してないある計画を神崎さんと進めてはいるものの、まだ今すぐ結果が出せるようなものではなくて。
だけど麻弥との結婚は、きっと今夜皆で顔を合わせれば思ってる以上の速さで進んで行くことは明らかで。
今のうちに何らかの手を考えておかないと・・・。
「樹・・・。今のうちに伝えておいた方がいいんじゃないか、あのこと」
「そう・・だよな。透子のこともちゃんと伝える」
「ようやくお前が自分で決めた道を歩き始めたんだ。自分でちゃんとその道を守れ」
それはずっと見守って来てくれた神崎さんだから言える言葉で、そして会社の秘書としての立場としても敢えてそう伝えてくれる言葉。
今オレがしなきゃいけないこと。
今のオレだから出来ること。
「食事会、神崎さんも今日も一緒なんだよね?」
「あぁ。今回も呼んではもらってるけど」
食事会がある時は、神崎さんもうちの家族とも麻弥との家族とも顔見知りで、同じように同席してもらうことが多い。
「オレがさ、うまく説明出来なかった時はさ。神崎さんフォローしてくんない?」
「あぁ。わかった」
「頼むね」
正直まだオレは親父に対しても堂々と自分の意見を伝えられるほどの勇気がなくて。
ホントは自分一人でどうにかするべきなのかもしれないけど、でも今は自分の気持ちを押し切る力を貸してほしくて。
何があっても、オレがひるまないように・・・。
何言われても、この気持ちをちゃんと貫けるように・・・。