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転校してきた殺し屋君第2章:崩壊する日常
第18話:双璧の決戦(ダブル・レクイエム)その4
校庭を包んでいた熱気が、一瞬で凍りついた。
時計塔の針が零時を回る直前、放送室の壁を突き破って一人の影が乱入した。用務員の安藤――引退した伝説のスナイパー、竹内康作だ。
「……教頭、お前の『卒業式』に花束は用意してないぜ」 「竹内君、君のような旧時代の遺物が、私の神聖な実験を邪魔するのですか?」
教頭が起爆スイッチに指をかけた瞬間、竹内は躊躇なく教頭の体に組み付いた。竹内の背後には、彼が持ち込んだ大量の指向性爆薬。
「黒咲! 藤堂! あとは頼んだぞ!」
竹内が、教頭の胸ぐらを掴んだまま自爆スイッチを入れた。 轟音。放送室が、教頭の狂気とともに夜空へ霧散した。学校中に設置された爆弾の親機が破壊され、最悪の事態は免れた……はずだった。
「……終わった、のか?」
浩一は胸に抱いた海沼玲亜を見つめた。 彼女の瞳がゆっくりと開き、人格の混濁が消えた、澄んだ光が戻っていた。
「……凪、くん? 私……ひどいことを……」 「いいんだ、玲亜。もう、全部終わった」
浩一の顔に、初めて安堵の笑みが浮かんだ。 だが、その安堵は、一筋の銀光によって無残に引き裂かれた。
――――パァンッ!!
乾いた銃声。 海沼の胸元が、鮮血で赤く染まった。
「……え?」
浩一の腕の中で、海沼の体がビクンと跳ね、力が抜けていく。 絶叫すら出なかった。浩一が顔を上げると、時計塔の影から、ライフルの残煙を漂わせた黒岩(黒鷹勇)が、憎悪に満ちた瞳で見下ろしていた。
その足元には、無残に撃ち抜かれた浪岡龍水の死体が転がっている。
「浪岡を……俺の唯一の理解者を殺した報いだ。……黒咲、お前の大事なものも、同じように消してやる」
黒岩は冷たく言い放つと、夜の闇へと消えていった。
「玲亜……? おい、玲亜!!」
浩一は彼女を強く抱きしめたが、温かかった彼女の体温は、夏の夜風にさらわれて急速に冷えていく。 せっかく取り戻した彼女の「心」。 「普通」に戻れるはずだった彼女の未来。 それが、あまりにも理不尽に、あまりにも呆気なく奪われた。
「ああああああああああああああああああッ!!」
浩一の慟哭が、静まり返った校庭に響き渡る。 かつてない絶望が、彼の魂を真っ黒に塗りつぶしていく。 「殺し屋」としてではなく、一人の「少年」として守りたかった日常は、瓦礫とともに崩れ去った。
浩一の瞳から、人間らしい光が完全に消えた。 残ったのは、血を吐くような憎悪と、全てを終わらせるための冷徹な殺意。
転校してきた殺し屋君、第2章。 その幕引きは、あまりにも残酷な赤に染まっていた。
(第2章・完)
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ひとせるな
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