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その日、私は少し風邪気味だったけど、会社に出勤した。
熱はないけど、体がだるい。体調を崩してしまったのは久しぶりだった。
12月も半ばで、慌ただしく過ぎる毎日。
年末までにはスッキリさせたい。これ以上、風邪がひどくならなければいいんだけど……
ただ、風邪が治ったところで、この先の予定は何もなかった。
本当なら、柊君とクリスマスもお正月もずっと一緒に過ごすつもりだったのに……
一気に虚しさがこみ上げる。
「柚葉ちゃん、ちょっとコピー」
まただ。
山下専務にはうんざりする。私が忙しくしててもお構いなしに何でも頼んできて……
ただの雑用係だと思われてるのがよくわかる。
「はい……」
ため息混じりに席を立って、コピーに向かう私の後ろから、「柚葉ちゃん、ちょっと着いてきて」そう言って、専務が私を追い抜かした。
えっ?
どこに行くの?
仕方なく専務のあとに続き、着いた先は、1階下のフロアにある一般の人も予約して使える会議室だった。
その時、周りには誰もおらず、静まり返った場所にハッとした。
「柚葉ちゃん」
その瞬間、私は専務に腕を捕まれ、ほぼ無理矢理部屋の中に押し込まれてしまった。
「ちょっ、ちょっと何するんですか?」
「ごめん、ごめん。びっくりさせて」
「あの、コピーは?」
「後でいいよ、そんなの」
「どういうことですか?」
「柚葉ちゃん、今度のクリスマスなんだけど……」
その後、専務の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「2人きりで、一緒に過ごさないか?」
「ど、どういう意味ですか? 専務さんは、奥さんがいらっしゃいますよね?」
「奥さんがいたら、柚葉ちゃんを誘っちゃダメ?」
ダメ?って……
びっくりを通り越して呆れた。
「当たり前じゃないですか! 結婚してる人が、他の女性を誘ったら……」
「不倫になる?」
濃いめの顔が私に迫る。
イケメンだって周りは言うけど、私は全く思えない。
「不倫って……。私と専務は何もないですから、不倫じゃないです。でも、他の女性に声をかけたら、奥さんは悲しみますよ」
「僕は柚葉ちゃんと不倫したいな。妻だって他の男性にご執心だから、問題ないよ」
「そんな……。奥さんも不倫してるから、専務も不倫していいってことですか?」
全然、理解できない。
「妻は、以前からホスト通いが趣味みたいでね。いろんな男と遊びまくってる」
「そんな……」
「妻とはとっくの昔から冷えきった関係だし、完全な仮面夫婦だよ」
「だからって、結婚してることには変わりないじゃないですか」
「僕が離婚したら、結婚してくれる? 社長とは別れたんだしいいだろ?」
突然、専務が私のことを抱きしめた。
「嫌、やめて!」
すごく気持ち悪い。
嫌で嫌で仕方ない。
だけど、元ラガーマンの力には勝てなくて、私は会議室の壁に押し付けられた。
「専務、お願いです。離して下さい」
「離さないよ。だって、僕は柚葉ちゃんがずっと好きだったんだから。もう、社長の女じゃないんだし、僕と付き合ってよ」