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気づいたときには、詩季はいなかった。代わりに合ったのは、私に対する嫌悪感と、吐き気と、組織に対する憎しみだけだった。
《(ほんと、私から奪うの好きなんだね…)》
今までの思いと感情を、アイツらにぶつけてやる。今度こそは、守ってやる。もう、誰も失わない為に。私はそう、決意した。
夜、冷たい月が建物のガラスに反射していた。
風も音もない高台。結衣は黒いコートのフードを被り、崖の上から眼下の研究施設を見下ろしていた。
《…ここね。》
耳につけた通信機に、わずかに詩季の声が残っていた録音を流す。
「え、ここどこ???誰かおる〜〜??あ、あのっ、機械さん…ちょっとだけお話できたり…」
(絶対、助けるから。)
彼女は深く息を吸い、小型のスピーカー装置を地面に置いた。
小さく「カンッ」と音を立てて、共鳴波が空気に広がる。
その一瞬だけ、赤外線センサーのネットワークがぶわっと可視化され、結衣はその隙間を駆け抜けた。
《共鳴、撹乱。》
すれ違った警備ドローンが一瞬動きを止める。
影のように滑って動き、施設の壁面に貼り付いた結衣は、研究棟のガラス窓を一瞬で切り開き、無音で滑り込んだ。
__足音さえ、共鳴で消す。
《(この建物…最低でも地下3階…。詩季、どこに…)》
ドク、ドク、ドク___。
彼女の心臓の音さえ、自身の共鳴でノイズとして消す。
そしてモニターの部屋を一つ一つ通過し、ついに__
〚ユニットGEM-13、生体活動安定〛
という表示のあるモニターを見つける。
《見つけた…!》
と同時に、背後のスピーカーから、聞き慣れた冷たい声が響いた。
『また、来たのか…GEM-Zero。』
《(バレてた____…!?)》