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「…おはよう。」
「おはよ~。」
「おはよ。」
涼ちゃんのスマホのアラームで目が覚める。
6月に入り、ぼくの苦手な季節がやってきた。
カーテンの隙間から見えるのは、朝のお日様ではなくて、窓に叩きつける雨の雫。
寝起きから既に痛む頭に、思わず眉間にシワが寄った。
「今日も朝ご飯、スープだけにする?」
あからさまに体調が悪そうなぼくを見て、涼ちゃんが優しく頭を撫でてくる。
涼ちゃんの言葉に無言で頷きながら、甘えるように胸に身体を寄せると、優しくぎゅっと抱きしめてくれた。
ぽんぽんと背中を優しく叩くその手の温もりに身を委ねると、少しだけ頭の痛みがマシになる気がした。
「じゃぁ、僕、準備してくるから若井のとこいきな?」
暫くそうしていると、ぼくのスマホのアラームが鳴り始めた。
それを合図とするように、涼ちゃんはぼくの代わりにスマホの画面をタップしてアラームを止めると、ゆっくり布団から起き上がった。
涼ちゃんの言葉通り、朝の挨拶は返してくれたけど、その後またすぐにぼくの背中に張り付いて寝てしまった若井の方にぼくは身体の向きを変える。
もぞもぞと動くぼくの事を気にせず眠り続ける若井の腕の中に身体を滑り込ませると、起きてはなさそうなので無意識でだとは思うけど、 ぎゅっと抱き締めてきた。
ぼくは、安心する若井の体温に身を委ね、少しの間だけ目を閉じたーー
「「「いただきまーす。」」」
三人そろって手を合わせる。
用意されたトーストや卵料理の横で、ぼくの前にはスープだけが置かれていた。
ズキズキと疼く頭に、思わず眉をひそめる。
マグカップを両手で包み込みながら、少しずつ口をつけた。
温かさが喉を通っていくのは心地いいけれど、まだ重たい身体は思うように動かない。
「元貴、ほんとにスープだけで大丈夫?」
心配そうに涼ちゃんが問いかける。
「うん…大丈夫。」
そう答える声もどこか弱々しくて、自分でもちょっと笑えてきた。
「元貴、今日一限からだったよね?」
「うん。」
「若井は二限からだよね?じゃあ、今日は僕が一緒に大学行くよ~。 」
「…え?一緒に行ってくれるのは嬉しいけど、涼ちゃん今日、三限からでしょ?」
「うん。でも色々やらなきゃ行けない事もあるしさぁ。」
体調を気遣ってくれるのが分かって、涼ちゃんのやさしい笑みに胸がじんとする。
(自惚れでもいいや、愛されてるなー……。)
そんなことを思いながら『ありがと。』と言って笑顔を返すと、隣でパンをかじっていた若井が『ちょっと待ったー!』と声を上げた。
「おれも行く!」
「えぇ~、若井も行くの~?」
口では嫌そうに言う涼ちゃんだけど、目尻がくすくす笑っている。
「うん!二人よりも三人の方がいいだろっ。なにかと!」
若井は『ね!』と言うみたいに、パンを頬張ったままぼくの方を見てくる。
「もおー。二人とも過保護すぎ。」
苦笑しつつも、胸の奥があたたかくなるのを隠せない。
マグカップを両手で包み、少しだけ素直に呟いた。
「……ありがと。」
・・・
三人で傘を差しながら大学へ向かうと、ぼくは講義室、若井と涼ちゃんは図書室へ、 廊下の途中で『お昼は食堂で』と約束して、別れた。
暫く一人で歩いていると、後ろから肩をトントンと叩かれる。
振り向くと、予想通り桐山くんが笑顔で立っていた。
「あれ?もっくん具合悪い?」
そう言うなり、額に手を当て、ぼくの顔を覗き込んでくる桐山くん。
慌てて一歩下がりながら答えた。
「ね、熱はないよ…!雨だから偏頭痛が酷いだけっ。」
もしこんなところを、あの過保護二人組に見られたら……と思わず周りをキョロキョロしてしまう。
いるはずないのに。
「あははっ、ごめんごめん。もっくんてなんか俺の恋人に似てるから距離感バグっちゃうんだよね。」
へらっと笑う桐山くん。
何気なく言ったその一言に、思わず聞き返した。
「…桐山くん、恋人さんが居るの?」
カフェに行った時、そんな話はしてなかったので少しびっくりした。
でも、桐山くんは特に隠してた訳でもなかったようで…
「あれ?言ってなかったっけ?居るよ!鈴木ちゃんって言う可愛い子が。 」
「そうなんだあ、なんか安心した!」
「えぇー!なにそれ!」
「ほら、桐山くんてなんかチャラそうだから。」
「ひどっ!俺、意外と一途よ?」
「あははっ、ごめん。」
ふざけ合うように笑い合ったあと、桐山くんがふっと真顔で首をすくめる。
「まあ、いいけど。実際鈴木ちゃんに会うまではあんまり偉そうな事言えなかったし。」
「あ、やっぱりチャラかったんだ。」
「うるさいなー。ってか、もっくんはどうなのよ?」
「なにが?」
「クールそうな人と、青髪の人、どっちが恋人?」
その瞬間、笑い合っていた空気が一気に凍った。
ぼくは思わず固まってしまう。
「え、なんで?」
二人の事、知ってるんだろう。
紹介した事もなければ、二人と居る時にすれ違ったりした記憶もない。
それに、一緒に居ただけで恋人だと思われる訳がない。
男同士…普通は友達同士だと思うはずだから。
二人と付き合っている事。
やましいと思った事は一度もないし、別に関係がバレたってぼくは困らないけど、二人は違うかもしれない。
「めちゃくちゃ睨まれたし、やっぱクール系な人かなー?」
「…え?睨まれたって?」
「前に、もっくんと一緒に食堂行った時あったじゃん?その時ーー」
桐山くんの話を聞いていくうちに、真相が見えてきた。
前に桐山くんと食堂に行った時、ぼくの後ろに青髪の人とクール系の人が座っていて、クール系の人にずっと睨まれていたらしい。
その時は、なんで知らない人からこんな睨まれてるんだろう?と思っていたのだけど、後日、その時の二人とぼくが一緒に居るところを見掛けた時に、『あ、もしかしてクール系の人が恋人だったのかも』も思ったのだそうだ。
でも、青髪の人との距離感がクール系の人と同じくらい近かったから、気になっていたのだと言う。
「…..もおーっ。あの過保護二人組め…..!」
ぼくの知らないところで二人がそんな事をしてたなんて。
きっと、ぼくに珍しく友達が出来たもんだから、二人で偵察に来たのだろう。
…帰ったらお説教してやる!
「え、あ…やばっ。ごめん!これ、もしかして言っちゃいけなかったやつ?」
「いや、謝んないで。ってか、むしろ言ってくれてありがとうだよ。今日帰ったらお説教しとく!…ちなみに、どっちもだよ。」
「帰ったら…ね。……て、え?どっちもって?!」
桐山くんが目を見開いて固まる。
驚いた顔を見ていると、胸の奥がぎゅっとした。
「…二人と付き合ってるの。やっぱり…変、だよね?」
本当は隠しても良かったのに。
でもなぜか、桐山くんなら大丈夫だと思ってしまった。
少し戸惑ったように見えたあと、桐山くんはすぐに柔らかく笑った。
「ごめんごめん! いや、意外すぎて。もっくんってウブなイメージだったからさ。でもさ、世間的にどうとかより、みんなが幸せならそれが一番だと思うよ。俺はそういうの全然アリだと思う。」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。俺はマジでそう思ってる。」
「……そっか。ありがと。」
胸の奥のぎゅっとした感覚が、じんわりとあたたかさに変わっていった。
その後、 一限目が終わり別れる時、桐山くんが『今度もっくんの恋人達、紹介してよ!いつか俺の恋人も紹介するし!』そう言って、笑顔で反対側の廊下へと消えていった。
・・・
二限目が終わり食堂に行くと、既に二人は揃っていて、ぼくはトレーに乗ったうどんをテーブルに置いた。
「お疲れー!」
「元貴、こっち座るかと思ったのに~。」
にこにこと涼ちゃんが椅子をポンポン叩くけど、ぼくは敢えて無視して、若井の隣に腰を下ろす。
そして、二人をキッと睨みつけて――
「……今日、帰ったら話があります。」
そうだけ告げて、うどんをズルッと啜った。
「えっ…なに?こわっ!」
「えぇ、絶対怒ってるやつじゃん…。」
慌てる二人を横目で見ながら、心の中でちょっとだけ溜飲が下がる。
「わ…若井、なにしたの?」
「お、おれは何にもしてないって。涼ちゃんでしょ?!」
「…..。」
わざと視線を合わせず、黙々とうどんを口に運ぶ。
「えー、やだなぁ。涼ちゃん、白状するなら今だよ?」
「いやいや若井でしょ。…でも、ほんとになにか気に障ったの?」
焦る二人のやり取りを聞きながら、ぼくは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
ズズッとうどんを啜り終えると、わざとらしくため息をついた。
「……まぁ、帰ってから言うって言ったから。覚悟しておいて。」
「ひぃぃ~、怖い!」
「でも、怒ってる元貴も意外と可愛い気が…」
ぼくがさらにジトッと睨むと、二人は同時に肩をすくめて笑った。
・・・
三限と四限は若井と同じ講義で、珍しく集中力に掛けている若井に、きっと家に帰ったあとに待っている話のことを考えているんだろうな、と思うと、なんだか可笑しくて、また笑いそうになってしまった。
午後の講義がすべて終わり、家路に着く途中で涼ちゃんと合流した。
けれど、いつもみたいなおしゃべりはなく、三人とも重たい沈黙を抱えたまま、無言で歩いた。
そして――。
家に着き、リビングに入ると、ぼくは一度深呼吸をして二人に向き直る。
「……正座して。」
若井と涼ちゃんは、一瞬顔を見合わせる。
帰り道、ぼくが一言も発さなかった事で、本気だと言う事が分かったようで…
「……ついにこの時が来たか。」
「覚悟はしておけって顔だね。」
その一言で、若井と涼ちゃんは一瞬だけ顔を見合わせた。
帰り道でぼくが一言も喋らなかったことから、本気で怒っていると悟ったらしい。
「……ついにこの時が来たか。」
「覚悟を決めろって顔だよね。」
軽口を叩きながらも、二人は素直に絨毯の上に正座した。
妙に律儀で、だけどどこか怯えたようなその姿に、怒りと同時に可笑しさが胸に広がる。
けれど、ここで甘くしてはいけない。また同じことが繰り返されるかもしれないから。
「……じゃあ、聞くよ。ぼくがなに怒ってるか分かる?」
二人の視線が同時にこちらに向く。
“全然分かりません”と書いてある顔。
一瞬吹き出しそうになったけれど、ぐっと堪えて声を低く落とした。
「…この前、ぼくと友達を偵察してたでしょ。」
その瞬間、二人の表情が揃って固まった。まるで漫画みたいに“ギクッ”と。
「…あのっ、それは!涼ちゃんが言い出しっぺで…!」
「うるさい!誰が言い出したかなんて関係ないです。結局一緒になってやったんだから若井も同罪ですっ。しかも、ぼくの友達を睨み付けてたんだって?」
「や…それはっ、だって…元貴の頭、撫でてから…」
「…もしかして、嫉妬してたの?」
「そりゃ、するだろ…好きなんだから。」
一瞬、胸がきゅんと跳ねた。
でも、その気持ちを必死に押し込めて話を続ける。
「…確かに、桐山くんって、ちょっとだけ距離感近いけど…それは、ぼくが桐山くんの恋人に似てるからだって言ってた。」
「え。あの人、恋人居るの?じゃあ、安心…」
「ねえ、じゃあってなに?じゃあって。」
「や、その…」
「桐山くんに恋人が居ようが居まいが関係ないから。だって、ぼくが好きなのは二人なんだからっ。」
「…でも、元貴にその気が無くても相手がどうかは分かんないじゃん。」
「そんなの絶対にない。仮にあったとしても、ぼくが他になびくことなんてないから!」
「……そっか……そう、だよね。ごめん。」
自分でも、何に一番腹を立てていたのか分からなかった。
最初は、こそこそと監視みたいな事をされているのが嫌なんだと思っていた。
けれどこうして口に出していくうちに、二人がぼくを信じてくれていなかったことが、悲しくて、だから怒っていたんだと気付いた。
この時、黙って聞いていた涼ちゃんが、ぽつりと呟く。
「疑うようなことしちゃって、ごめん。本当に信じてなかったわけじゃないんだけど……元貴の友達がどんな人か気になって。」
「……謝ってくれたなら、もういいよ。」
涼ちゃんのしゅんとした顔を見て、胸の奥がズキンと痛む。
「ぼくも怒ってごめん。悲しかっただけなんだ。だから、これからは気になることがあったら、直接聞いて。ちゃんと答えるからさ。」
二人の表情が少し和らぐ。
怒ったり疑ったりするのは、やっぱり誰にとっても嫌なことだ。
「……だから、この話はもう――」
ここで区切りをつけようとした。
けれど。
「じゃあさ、友達とカフェでどんな話してたの?」
涼ちゃんの一言に、心臓が一瞬止まったように感じた。
あの日、同じことを聞かれて誤魔化した記憶が、鮮明によみがえる。
でも、それは――。
ぼくは小さく息をのんで、二人の真剣な瞳を見返した。
「やっぱり言えない事…?」
「…違う。言えないじゃなくて言いたくなかっただけ。」
しぼり出すようにそう答えると、若井の眉がぴくりと動いた。
涼ちゃんも視線を逸らさず、まるでぼくの心の奥を探るように見つめてくる。
「どうして?」
「…二人の事で、相談に乗って貰ってたから。」
ほんの少しだけ目を伏せて、声を落とす。
「…僕達の事?」
さらに追求してくる涼ちゃんに、もう隠せないと思った。
「…聞いても…引かない?」
そう、前置きして、ぼくはカフェでの話を二人に聞かせた。
自分の事だと言うのは、あくまで知り合いの悩みというていで話したという事。
付き合ってるのに、中々キスから先に行く事が出来なくて少し不安に思っていたと言う事。
そして、この前…桐山くんに貰ったアドバイスを実践してみたと言う事。
話しているうちにどんどん恥ずかしくなって、二人の目を見れなくなったぼくは、いつの間にか下を向いて、気付けば早口で話していた。
「ふ…二人とも…なんか言ってよ。」
話し終えても、何も反応を見せない二人に、堪らず顔を上げると、涼ちゃんは両手で口を抑えて、キラキラとした目でぼくを見つめていて、なぜか若井は床に突っ伏して悶えていた。
「…な、なに…その反応。」
二人の反応が思ってたものとは違い過ぎて、逆に引いてる自分がいる。
「だって……」
涼ちゃんはようやく口を抑えていた手を下ろして、笑いを含んだ声で続けた。
「元貴がそんな風に悩んでくれてたなんて、なんか、嬉しくて。」
「おれなんか、想像したら耐えられなくて……!」
床に突っ伏したままの若井が、肩を震わせて笑っているのか苦しんでいるのか分からない声を漏らす。
「ちょっ、ちょっと!二人とも笑わないでよお!」
ぼくは真っ赤になりながら声を荒げる。
「…もう、だから言いたくなかったのに。」
小さく呟いたぼくの声に、二人の笑いはすっとおさまり、代わりに優しい気配がリビングを満たした。
「ごめん、でも笑ってるんじゃなくて、本当に嬉しくてさ。」
「そうだよ。本当…なんでそんな可愛いの?」
「……っ、可愛いとか言わないでよ。」
耳まで熱くなって、ぼくは思わず顔を両手で覆った。
「隠すなって。」
その手を、ふいに若井がするりと外す。
続けて涼ちゃんも、ぼくの肩にそっと手を置いた。
「元貴がそんな風に思ってくれてたなんて……ね、若井。僕達、もっとちゃんと応えてあげないと。」
二人の真剣な視線に、息が詰まる。
恥ずかしいはずなのに、心の奥が温かくて、逃げ場がなくなる。
自然と二人の顔が近付いてくる。
一瞬、ぼくはこの二人の甘い空気に流されそうになるけど、『は!』と思い直して一歩後ろに身を引いた。
「ぽ、ぼく!二人に罰を考えたんだ!」
すごくいい雰囲気だったのに、後ずさったぼくに不思議そうな顔を向ける二人に、ぼくは声を上げる。
「「罰?」」
そして、『罰』と聞いた二人が同時に首を傾げた。
「…2週間!キス禁止!!!」
二人を見て、そう宣言するぼく。
『嘘でしょ?!』と驚いた顔をしてる若井と涼ちゃん。
「…は?え…まじで言ってる?」
「やだぁ…そんなの無理だって。」
「まじです!!!ぼくを疑って悲しくさせた罰です!!!」
そう言い切ると、二人はぽかんとしたまま顔を見合わせた。
「……2週間ってさ、死刑宣告と同じなんだけど。」
「ほんとそれ。無理無理、そんなの耐えられるわけない。」
「ダメです!!!」
ぼくは腕を組んで、ぷいっと顔を背けた。
すると若井がすぐに食い下がってくる。
「じゃあせめて1週間!な?頼むって!」
「てかさ、逆に元貴は僕達と2週間もキス出来なくてもいいの?」
若井の必死な顔。
涼ちゃんの寂しそうな顔が、ぼくの胸を締めつける。
負けちゃだめ!
そう思うけど、涼ちゃんの言葉にも一理ある。
(確かに…よく考えたら二人と2週間もキス出来ないのは寂しいかも…)
「…じゃ、じゃあ、」
思わず声が震えた。
二人の視線が一斉にぼくに向く。
「……1週間と半分!」
「「中途半端ーーー!!!」」
同時に叫ぶ二人に、思わず吹き出してしまった。
でも、笑いながらも若井がすぐに食い下がってくる。
「いやいや、元貴!それなら1週間でいいだろ!」
「そうそう、半分なんて意味ないし。…元貴が寂しいなら、なおさら短くしよう?」
涼ちゃんの少し甘えた声に、胸がぎゅっとなる。
でも!これ以上ぼくにも負けられない戦いがそこにはある!
「だめ!これ以上はおまけしませんっ。」
きっぱり言い切ったぼくに、若井が『えぇぇぇ〜っ』と声を上げて、ソファにばたりと倒れ込んだ。
隣の涼ちゃんも、はぁ…と大きくため息をつく。
「……元貴、本気だね。」
「本気です。」
「うわー……おれ死ぬかもしれない。」
大げさに頭を抱える若井。
それを見て、思わず笑いそうになったけど、唇を噛んで耐える。
すると涼ちゃんが、すっとぼくの手をとった。
その手の温かさに、思わず心臓が跳ねる。
「……分かった。罰は受けるよ。でもね、元貴。」
「な、なに…?」
「キスはできなくても……ぎゅうするのは、いいんだよね?」
優しく囁かれ、腕をぎゅっと握られて。
反射的に『……っ!そ、それは…』と口ごもってしまうぼく。
そして、そんなぼくにはお構い無しというように、気付けば涼ちゃんの腕の中にすっぽりと収まっていた。
「ちょ、涼ちゃんっ。」
逃げだそうともがくけど、涼ちゃんがぼくを抱きしめてるのに気付いた若井が、『ズルい!おれも!』と言って、逆側からぎゅっと抱きしめてきた。
「やっ、若井まで…! 」
二人に挟まれるように抱きしめられ、完全に身体の動きを封じられたぼくは、なんとか顔だけ抜け出した。
そしてーー
「もう!!!二人とも全然反省してないじゃーーーん!!!!」
この日、一番の怒鳴り声が、家中に響き渡った…