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もっと、あの時止めていれば……少しは、違かったかもしれない。
「……こばさん、少しいいかな?」
「はい、大丈夫ですけど……」
運営国は壊れた。
これが、戦争で負けた国の成れの果てだ。
別に、勝った国に支配されたわけでも、世間から批判されることさえもない。だが、運営国において今回の犠牲者はあまりにも重過ぎたのが理由だ。
運営国は、元々戦争には不向きな国だ。能力、そしてら民の人情。それが理由で、今まで貿易に特化した国としてこの世界を生きてきた。
今回、らっだぁが戦争を起こすと言った時は勿論誰もが反対した。それでも、段々みんな本気になって止める人は誰もいなくなった。
俺はやりたくなかった。戦場に行ってまでも、やりたくないと言う気持ちはあった。
だったら、もっと強く止めておけばよかったのではないだろうか。
もっと、止めていれば。
らっだぁは死ななずに済んだのかも、しれない。
運営国がこんなにならなくて済んだのかもしれない。
俺が、もっと引き留めていれば――――
「コンタミさん?どうしました?」
こばさんの声に我に帰る。
冷たい、湿った空気が充満する地下牢に、俺とこばさんは来ていた。
「……もうここは使われなくなったって聞きましたが、……まだあったんですねぇ」
空気を少しでも和まそうとしているのか、そんな雑談をするこばさんは、やっぱり人としてちゃんとしている。こんな俺よりもよっぽど良い人だ。
「……今回の戦争で、残った主幹部は俺とみどりなのは、知ってるよね。」
「……はい、…悲しいことです。……」
「だったら、みどりが表に出ない理由は、知ってる?」
俯いたこばさんが顔を上げる。
少し考える間があり、こばさんは答えた。
「……裏方で動いているのかと思っていたんですが……違うんですか?」
牢屋の前に立ち止まる。
「……少し惜しいかな。……答え合わせをしよっか」
牢屋の中にある影が、ぴくりと反応を起こした。
顔が此方を向くと、その顔は壁にかかった松明の灯りに照らされ、明らかとなった。
「……え…?」
消えかかるような、こばさんの声が隣から聞こえた。
無理もない。
「……みどり、…久しぶり」
これが、みどりだとは誰も考えないだろうから。
「……嘘…。」
あまりにショックだったのか、こばさんは牢屋の中を凝視しながら言葉を失っていた。
「……コン……ちゃ…………ァ」
牢屋の中には、人の形をしている化け物がいる。
何故こうなったのか。
「……気になる?」
こばさんは小さく頷き、震える声で言った。
「……はい」
みどりがこうなってしまったのは、簡単に言えば戦争での傷だ。
ただ、普通の傷とは違かった。
頭の右上からはみどりと同じ、綺麗な緑色をした瞳がいくつも生えており、触手のような尻尾が生えている、人間とは思えないカタチをしている。
普通の戦争の傷ではこんなことはまずならない。然し、みどりは運悪く精神の中心となるような、……つまり、人間の中身。人格をまず、攻撃された。
緑の体はその攻撃から逃れようと体内のウイルス、言わば”バグ”を脳の外から出した。…が、そのバグは脳を出る直前で「深刻なバグ」を起こした。
その結果、逃そうとした右の頭がバグに侵食され、目玉が増殖すると言う「バグ」を起こしたのだ。
「……ってことで、みどりはこうなっちゃったの」
「…で、でもわざわざ地下牢になんか……」
これだけだったら、俺もこんなところにみどりを、唯一助かった仲間を閉じ込めたくなんかない。
ただ、今のみどりはそれよりも「能力の制御」、そして「本能の制御」ができない。
昔、らっだぁから少し聞いたぐらいだが、みどりのここへくる前のことを聞いた。
「能力や、人格をみどりは自分で制御できない。だから、俺が抑えるんだ。」……と、その時のらっだぁはそう語った。
それ故に、らっだぁが亡くなった今、みどりは暴走した。
すぐにこの地下牢に入れたはいいものの、本人にも国民にも、国にも大きな被害をもたらした。
「……でも、もうみどりが苦しい思いをしないで済む。」
「……方法が見つかったんですか?」
地下牢は、室内とは思えないほど冷たい空気に包まれていた。
「……もう少しで、わかるよ。…………さっ、もう行こう。仕事も後もう少しで終わるし。……ここで見たことは他言無用だよぉ?こばさん」
「……もちろん、そのつもりです。……なぜ、僕にこんな重大なことを……?」
俺は振り返る。
「……俺の大切な人の、大切な人だから。」
外の空気は澄んで、とても心地よい風が吹いていた。
タワーが作れるほどにあった書類は、ら民の協力により全て終えた。……俺のやるべきことは終わった。
こばさんには、少し無理をしてもらうことになるけどしょうがないよね。……こばさんなら、きっと、……そう信じてる。
花畑を歩き、約四時間をかけ、俺は限界国の目の前へきた。
門の前には一人、限界国総統「ぐちつぼ」がいた。
「……本当に来てくれたんだ。」
「………いいんすか?……本当に」
哀れみを持った瞳が、此方を見る。
そんな目で見んなよ、せめて侮辱でもしてくれなきゃ吹っ切れない。
「……じゃあ行こっか」
俺はぐちつぼさんを連れ、とあるところまで歩く。
真っ青な青空が、草原の上を包んでいた。雲ひとつない晴天だ。
「……今からでも、辞めることはできますよ?……なんで、こんなこと……」
「……なんで?なんでって、……言わなきゃ
わからない?」
いい。教えよう。
もう、隠す必要も、偽る必要も、何もない。
「……正直、もう無理なんだ。……疲れた、と言うより寂しい日が何日も何日も続く。生き地獄だよ。…らっだぁがいなくなって、運営国は壊れた。……俺一人にどうしようもできなかった。だから、俺はあの人たちに頼むんだよ。」
…………そして、俺が死ねばみどりは元に戻る。
「いいじゃん!それで!……だから、つべこべ言わずやれよ!」
ぐちつぼさんの瞳は、困惑から怯えに変わった。
だけど、……だけど、そんなのに構ってられるほど、もう俺に余裕なんかあるわけがなかった。
「……せめて、……せめてらっだぁさえ生きてれば……こんなんならなかったのに……っ」
その言葉に、ぐちつぼさんは目を見開き、言葉を失った。
自分の心臓が脈打つ音がわかるほど、その一瞬、草原には大きな沈黙が現れた。
「……っすみませ…ん、……俺が、…俺がらっだぁを」
「違う、そうじゃない」
ひとつ、深呼吸をする。
「……らっだぁが頼んだんでしょ。……わかるよ、そんぐらい」
図星を突かれたような顔。隠す気はないのか。
「……君を責めてはいない。だから、ぐちつぼさんも自分を責めることはよしてほしい。……これは言っておくよ。……ねえ。殺してくれないかな?俺のこと。……もういい加減さ、嫌になったんだよ。」
「……わかりました。……でも、そしたら、俺も言っておきます。……らっだぁを殺したこと、俺的に自分で自分を殺したいほど後悔してる。……この罪は、どうしたら償えますか?」
「……俺のことを、その、そのらっだぁの首を刎ねた手で。殺す。……それでいい。それだけでいいんだよ。……俺を、その手で殺してほしい。」
しばらくぐちつぼさんは迷っていたものの、覚悟を決めたのか。俺の首に刃を当てた。
「……後悔は、しないんですよね?」
「……ああ、俺には嬉しさしかないな。」
「…………こばさんにさ、……言っといてくんないかな。……みどりのこと、よろしく……って。」
「……ああ、わかった。」
痛さを感じる間もなく、俺の視界は瞬時に真っ青な空に埋め尽くされた。
それは、突然のことだった。
なんで、僕らはこんな目に遭わなければいけないのか。
「……な……何で……」
申し訳なさそうに伏せる緑色の目は、僕には憎らしくて仕方がない。
「……っ何でこんなこと…っふざけんなよッ!!なんで……っなんでぇッ!!」
掴みかかっても、この人は何もしなかった。無抵抗だった。
「……コンタミさんが、……貴方に「みどりをよろしく」……と、…伝えてって……」
「……ッ早く出ていってください、……しばらく、…顔を合わせたくありません」
ぐちつぼさんを追い出し、僕は一人総統室にて見慣れた一枚の紙を持っていた。
あの人が、運営国にとっての最後の希望だった。……なのに、なんで……なんで。……そんなに考えたって、生き返るはずもない。
ただ、僕は心の中で彼らなら、いつかひょっこり現れて「ただいま」と言ってくれると、希望を持っていた。
そんな希望も、もう輪郭がぼんやりとしてきた中僕は只々ぼんやりと外を眺めた。
『みどりをよろしく』
コンタミさんの、最後の伝言。
みどりさん、みどりさんは、もうあれは……
いや、まて。
「……違うのか…?」
もし、コンタミさんが、自分で死ぬのを選んだのなら、……もし、この言葉がただ単の遺言ではないのだとしたら、
「……」
僕は地下牢に走った。
「……っみどりさん!」
地下牢の、一番奥の牢屋。
この間コンタミさんが連れてきてくれた時には、みどりさんの姿はまさしく化け物のそれだった。
僕が灯りのない牢屋に名前を叫ぶと、黒い影はぴくりと、前回と同じ反応をした。
影が此方に近づく。松明により、顔が明らかとなる。
「……こば……さん…?」
不安げな顔で此方を覗く彼は、どこからどう見ようと普通の人だった。
「……みどり、さん……みどりさん!」
「エっ、あ、どうしたのこばさん、……こばさん?」
以前までの記憶がないのか、突然の僕の行動に戸惑う彼。いつものみどりさんだ。
「……取り敢えず、……俺には戦争の途中までの記憶しかないから……何があったのか、全部教えてよ」
「あっ、そうですね、すみません……いつもと変わらないみどりさんで、安心して……」
「……いつもと変わらなくて、安心?……待って、こばさん。……ラダオ、は……?」
翠色の瞳が、同様の色を表す。
そうだ、みどりさんは、……皆さんが亡くなったことをまだ知らない。
じゃあ、知ってしまったら?……みどりさんも、皆さんと同じように狂ってしまうのでは……?
「……らっだぁさんは、…………っ、あの」
「……わかった。」
僕の言葉を切り、みどりさんはそう答えた。
「とりあえず、俺をここから出して。……話はそれから」
「は、はい……わかりました」
「……あの、みどりさん……らっだぁさん達は……」
「……言わなくてもいい。大体察しがつく。」
みどりさんは、総統室へ戻りコンタミさんが終えた資料を一枚一枚確認していた。
「……我々国勝利……かぁ……。……負けたんだね。」
「あ、はい……その…………そう、です……」
しばらく無言で資料を見つめ、みどりさんは再度質問をした。
「……俺と、コンちゃんが、生き残り……ってことは、コンちゃん生きてるんじゃないノ?」
「……あ……」
言葉に詰まっていると、みどりさんは溜息をし、また書類に目を移した。
「……もう、残ってるの俺だけなんだ…」
淡々と文字を追う緑の瞳は、僕が感じている不安よりも、計り知れない不安と、そして責任の重さを感じているのだろう。
「……コンちゃんが、多分仕事を終わらせてくれたんだよね」
「はい、……そうですね。…ずっと、部屋で仕事を……」
「……だったら、俺がやることは…この国の再建……かな」
「この国の?」
ホワイトボードに、恐らく今の国内の情報をまとめたらしきものを書く。
「……らだおは首を刎ねられて、きょーさんは腰を、……レウさんは……不明、コンちゃんはラダオと同じ……かぁ、……一旦ここは置いとこう。まずは、国民の、ら民の精神状況が心配だな……こばさん、…ら民と、青鬼をやってほしい。」
「青鬼を?……何で今…?」
「……そんなの、ゲームをしたら楽しいからに決まってるでしょ。…取り敢えず、ら民がやりたいことをやって、精神を安定させて、不安を拭うのがこの国でやることの第一だ。……だから、こばさん。……他の幹部と一緒に、遊んでて?」
「え、でもみどりさんは……」
「……俺は、他の国と交流をする。」
こんなみどりさんは、見たことがない。
「…わかりました。じゃあ僕はみこだよさんを呼んで、……後空いてる人誰だろう……近海さんは…」
「……頼んだよ。こばさん」
そう言われ、僕は総統室を後にした。
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読み返しながら古傷を痛めてます。
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