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アイリスの説得(?)によって外出を許可した騎士団長だったが、流石に明日以降にして欲しいと必死に頼み込んだことで今日のところは外出なしところで彼女も納得した。
「言い忘れておりましたが、オルタナ殿とルナ殿には護衛をして頂く間はこの屋敷に滞在してもらうことになりました。公爵様の許可は頂いておりますので早速案内させていただきます」
そうして俺たちは騎士団長が用意してくれたという客室へと案内してもらうことになった。道中ルナがまさか貴族様の屋敷に泊まることになるなんて…と来た時以上に緊張していた。
「こちらがルナ殿、そしてあちらがオルタナ殿の部屋になります。何か必要なものがありましたらこの屋敷のメイドにお伝えください。あと食事に関しては我々騎士団のメンバーと同じ時間でお願いすることになりますので時間になりましたら騎士を寄こします。それ以外は基本、王女殿下の護衛となりますのでよろしくお願いします」
「あ、ありがとうございます!」
「騎士団長、この後はどのように?」
「お荷物の整理など出来ましたら先ほどの部屋まで戻ってきてもらえますでしょうか。おそらく王女殿下が明日以降かなり積極的に外へと出られると思いますのでその打ち合わせと注意事項の確認をしたく…」
すでに明日からのことを考えて不安になっているのか騎士団長が大きなため息をつく。彼自ら了承したこととはいえ、半ばアイリスに言わされたようなところがあるので少し可哀想に思ってしまう。
「あ、あの…すみません。母に依頼でしばらく帰れないと手紙を出したいのですが…ダメでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。後ほどメイドに渡してもらえば届けさせますので」
騎士団長の返事にルナはほっとして胸をなでおろす。確かに今日の朝に依頼のことを告げてそのままここへ来たのだから家族に伝える暇がなかったな。
俺はいつでも戻れるから気にしたことないけれどルナはそうもいかない。今後は少し俺もそのことについて気を付けないといけないな。
そうして俺たちはそれぞれの部屋に入って準備を整える。
俺は部屋に入ってすぐに異空間から複数の魔道具を取り出して部屋に設置した。部屋の中の音を外から聞こえないようにする防音用の魔道具、外部からの魔法による干渉を防ぐ魔道具、そして人の接近を感知する魔道具である。
幸いなことにルナの部屋が俺の部屋の隣なので人の接近を感知する魔道具の効果範囲をルナの部屋にまで広げておく。これでもし仮に敵がルナの部屋に侵入しようとしてもいち早く気付くことが出来る。
そしてそれらの魔道具を見つからないように分かりにくいところに設置して透明化の魔法を付与しておく。これで大丈夫だろう。
そうして準備を整えた俺は部屋を出てルナのことを待つことにした。
するとしばらくしてルナが部屋から手紙を持って出て来た。その手紙を近くにいたメイドさんに渡して届けてもらえるようにお願いしてから俺たちは再びアイリスたちの待つ部屋へと戻っていった。
「お二人とも早速ですが明日からの予定について話し合いましょう!」
俺たちが部屋へ入るとすぐにアイリスが目を輝かせながらソファに座るよう促した。仕方なく俺たちはアイリスの対面のソファに座り、それに続いて騎士団長もアイリスに誘導されて彼女の隣に座らされていた。
「え~、それでは明日からの護衛について予定を決めていきたいと思います。まずは王女殿下、どこへ行こうとお考えでしょうか?」
「そうね、やはり今回の目的は犯人をおびき出すことにあるのだから人が多いところは難しいわよね。それにもし万が一、戦闘になってしまった時のために戦いやすい場所の方がみんなもいいわよね。そうなると…」
騎士団長からの問いかけにアイリスは真剣な表情をしながらいろいろと理由を挙げて考えを絞っていた。
「そうだわ!ならば近くの森なんてどうかしら?」
「なっ!どうしてまたそんな危険なところへ!?」
「森ならば犯人もおびき出しやすいでしょうし、周りの被害もあまり考えなくていいから戦いやすいでしょ?」
「た、確かにそうですが森には犯人だけではなく危険な魔物も出没するのですよ?!それにどうしてそんなところに行きたいのですか?!」
騎士団長はあまりの驚きっぷりに声の大きさが一段と大きくなっていた。その様子を見たアイリスは少し落ち着くように彼を宥めて理由を話し始める。
「森の深いところまで行くわけではないのだから私でも対処できる程度の魔物しか出ないと思うわ。それに私はいつも城や学園といった室内にいることが多いからここで自然を感じて息抜きしたいのよ。あと、それとね…」
アイリスはそう言って対面に座っているルナの方へと視線を向けた。突然自分の方へと王女が視線を向けたということに驚いて一瞬にして背筋がピンッと真っ直ぐに伸びた。
「ルナ様、先日ギルドでお話しした際にオルタナ様から魔法を教えてもらっていると聞きましたがこの護衛をしている間は教えてもらえる時間がないですよね?でしたら明日からこの森へ行く際に時間がありますのでその時にオルタナ様から魔法を教えてもらうのはいかがでしょう?」
突然の王女からの申し出にルナはどう返事をして良いのか分からず「あっ、えっと、その…」と口ごもってしまった。
そして助けを求めるように俺の方を見つめてきたので俺がその会話に割って入ることにした。
「王女殿下、お気遣い大変ありがたいのですが我々も仕事として護衛をやらせていただいていますのでそのような時間を取っていただかなくて大丈夫です」
「でもオルタナ様であれば、ルナ様に魔法を教えながらでも周囲の警戒や私の護衛は出来ますよね?」
「え、ええ。確かに出来ますが…」
俺がそのように答えるとその返事を待っていたと言わんばかりに笑顔になって話を進める。
「でしたら何も問題は無いはずです!私もオルタナ様が魔法を教えていらっしゃるところを見てみたいですし、それに騎士団長であるアレグもついているのですから心配ありませんね!私は森へ行ってオルタナ様がルナ様に魔法を教えているところを見てみたい。そして森ならば犯人を誘い出しやすく、戦いやすい場所でもある。すべての条件が見事に合っています。であるならばこれで決定ですね!」
「…なるほど、そう来ましたか」
どうやら完全に彼女の目論見通りに進んでしまったようだ。
最初から彼女はこうなることを望んで話を進めていたのだろう。
俺がアイリスに魔法を教えられないとしても、ルナには教えているのだから今更ルナに教えることに関しては断る理由はない。ならばその時に自分も一緒に居れば断れずに自分も一緒に教えてくれるだろうと考えたわけか。
それにアイリスの言う通り、犯人をおびき出すということであるならば街中よりも郊外の人のいないところの方がやりやすい。それのことを言えば騎士団長も断りづらいと分かった上での提案なのだろう。
俺も騎士団長も彼女の提案を却下する適当な理由がない。
これは完全にチェックメイトか。
「はぁ、分かりました。ルナがそれでいいというのであれば、私は王女殿下の提案に異論ありません」
「オルタナ様、ありがとうございます!ルナ様はどうでしょう?私にオルタナ様から魔法を教わっているところを見せてはいただけませんか?」
「お、王女様がそう仰るなら私は大丈夫…です」
俺とルナが了承したことにより勝ちを確信したアイリスは見事な笑顔で騎士団長の方へと視線を向けた。その顔を見た騎士団長も自分が詰んでいると分かったのか大きなため息をついた。
「…分かりましたよ、殿下。お二人が問題ないのならば森へ行くことを認めましょう。ただし必ず森の深いところにはいかないこと、そして私かオルタナ殿から絶対に離れないこと。これは必ず守っていただきますよ」
「もちろん!アレグもありがとう!!」
そうして俺たちはアイリスの思惑に完全に敗北し、その後も護衛のためにどこへ行くか何時から何時まで外出を認めるのか、護衛時の注意事項などを話し合った。
そうして夕食が出来上がったことをメイドさんが伝えに来る直前に話し合いが終わり、俺たちはそのまま夕食へと向かった。
アイリスは公爵様とそのご子息ご令嬢たちと、俺たちは騎士や兵士たちとともに食事をとることとなった。俺はいつも通り人前で食事をしない主義だと説明して一人客室へと戻った。
オルタナをオート防衛/スリープモードに設定して俺も意識を本体へと戻して家に戻る。夕食をお母さまと食べながら明日からのことを考えて、何も起こらないようにと無事に過ごせることを願っていた。