テラーノベル
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「右、確認」
ぼそっと呟く。
「後ろも」
勝利は少しだけ肩を上げながら歩いた。
最近。
ちゃんと警戒してる。
……してるつもり。
前みたいに勝手に路地へ行かない。
怪しい音がしたら見る。
人通りも確認する。
全部。
聡に怒られないように。
いや、違う。
……心配させないように。
(いや、別にそんなんじゃないし)
勝利は小さく顔をしかめた。
でも、今日は少しだけ外の空気が吸いたかった。
もちろん。
許可済み。
しかもちゃんと人のいる道。
問題ない。
はずだった。
「へぇ」
低い声。
勝利の足が止まる。
前。
後ろ。
人影。
嫌な空気。
また。
心臓が嫌な音を立てた。
「警戒してる顔じゃん」
男が笑う。
「護衛にでも怒られた?」
勝利はバッグを握る。
逃げ道。
考える。
でも。
囲まれてる。
「……どけ」
強がる。
声だけは。
でも、少し手が冷たい。
男の一人が笑いながら近づく。
「最近調子乗ってるらしいな」
勝利が一歩下がる。
その時。
男の手が、勝利のバッグを掴んだ。
「っ、返せ!」
乱暴に引っ張られる。
バッグが揺れる。
その拍子に、
チャリ。
小さな音。
勝利の視線が止まった。
バッグについていた、小さなキーホルダー。
古い。
少し擦れてる。
でも。
ずっと大事にしてた。
小さい頃。
唯一、普通に笑えた友達にもらったもの。
「これ、お守り!」
そう言ってくれた。
ずっと。
ずっと持ってた。
男がそれを見て笑う。
「なにこれ。ガキくさ」
「やめろ」
勝利の声が少し強くなる。
「返せ」
「へぇ。大事なんだ?」
嫌な笑い方。
そして――
パキッ。
小さい音。
でも。
勝利には、やけに大きく聞こえた。
地面に落ちた、壊れたキーホルダー。
時間が止まる。
「……え」
男が笑う。
「悪ぃ悪ぃ」
勝利がしゃがみ込む。
壊れてる。
欠けてる。
戻らない。
ずっと大事だった。
ずっと。
「……なんで」
喉が苦しい。
なんで。
それ。
大事なのに。
ぽた。
気づいた時には、涙が落ちていた。
勝利自身も驚く。
泣くつもりなんてなかった。
でも。
止まらない。
「……返して」
小さい声。
震えてる。
その瞬間。
静かな声が落ちた。
「何をしたんですか」
空気が変わる。
勝利が顔を上げる。
そこにいたのは
聡。
黒いスーツ。
乱れない姿勢。
無表情。
でも。
何か違う。
怖いくらい静かだった。
聡の視線が、勝利を見る。
涙。
壊れたキーホルダー。
そして。
男たち。
数秒。
沈黙。
そのあと。
低い声が落ちた。
「……泣かせたんですか」
男が笑う。
「は? ちょっと壊れ――」
最後まで言えなかった。
空気が冷える。
勝利も少しだけ息を止める。
怖い。
敵じゃなくて。
聡が。
初めて見るくらい、怒ってる。
顔は変わらない。
声も静か。
でも。
分かる。
本気だ。
聡はゆっくり勝利の前にしゃがむ。
まず、壊れたキーホルダーを拾う。
すごく丁寧に。
壊れないように。
そして。
勝利へ静かに聞く。
「大事なものですか」
勝利が小さく頷く。
涙が止まらない。
「……友達にもらった」
少し震える声。
聡の目が、ほんの少し細くなる。
静かに。
でも。
明らかに怒っていた。
そして。
勝利の頭を一度だけ軽く撫でる。
「少し、待っていてください」
静かな声。
でも。
いつもよりずっと低い。
聡が立ち上がる。
振り返る。
男たちを見る。
そして。
本当に静かな声で言った。
「壊したんですね」
その一言が。
やけに怖かった。
勝利は初めて思った。
……あ。
聡、本気で怒ってる。
空気が冷たくなる。
勝利はしゃがみ込んだまま、壊れたキーホルダーを見ていた。
小さい頃にもらったもの。
ずっと。
ずっと持ってた。
辛い時も。
嫌なことがあった時も。
「お守り!」
そう言って笑ってくれた友達の顔まで思い出してしまう。
欠けた部分。
ひび。
もう前と同じじゃない。
「……っ」
喉が苦しい。
気づいた時には、また涙が落ちていた。
ぽた。
ぽた、と。
止まらない。
「……ごめ」
何に謝ってるのか、自分でも分からない。
でも。
壊れた。
守れなかった。
それが苦しかった。
「……勝利」
聡の声。
静か。
でも。
少しだけ柔らかい。
勝利が顔を上げる。
聡は一瞬だけ膝をついて、壊れたキーホルダーをそっと勝利の手に戻した。
壊れないように。
落とさないように。
すごく丁寧に。
「大丈夫です」
低い声。
落ち着く声。
「直せるかもしれません」
勝利は小さく首を振る。
「……でも」
涙が止まらない。
「大事だった」
声が震える。
「ずっと持ってたのに」
聡の視線が少し止まる。
そして。
勝利の頬を流れる涙を見る。
数秒。
本当に数秒だけ沈黙。
そのあと。
聡がゆっくり立ち上がった。
静かだった。
静かすぎて、逆に怖い。
男たちは少し顔を引きつらせる。
「お、おい。そんな大げさ――」
聡の返事は短かった。
「大げさではありません」
低い声。
感情を抑えてる声。
でも。
今までで一番冷たい。
「あなたたちは、してはいけないことをした」
男たちが後ずさる。
さっきまで笑っていた空気が消えていた。
聡はいつも冷静だ。
無駄に怒らない。
焦らない。
でも。
今は違う。
勝利が泣いてる。
それを見てしまった。
それが、たぶん一番駄目だった。
聡は一度だけ勝利を見る。
しゃがみ込んで、小さく震えてる姿。
その瞬間。
ほんの少しだけ。
表情が硬くなる。
「……待っていてください」
静かな声。
でも。
いつもより少し低い。
勝利は涙を拭きながら、小さく頷く。
しばらくして。
辺りが静かになる。
聡が戻ってきた。
息ひとつ乱れていない。
でも。
どこか空気が違う。
聡はすぐ勝利の前にしゃがむ。
目線を合わせる。
そして。
ハンカチを差し出した。
「泣かないでください」
少し困ったような声。
珍しい。
勝利が鼻をすすりながら言う。
「……だって」
うまく言えない。
聡は少し黙ってから、
そっと勝利の頭を撫でた。
静かに。
落ち着かせるみたいに。
「大事なものだったんですね」
勝利が小さく頷く。
すると。
聡はほんの少しだけ目を細めた。
「では、直しましょう」
「……え」
「可能な限り」
静かな声。
でも。
妙に優しい。
「あなたが大事にしていたものなら、俺も大事にします」
勝利が少し目を開く。
なんか。
また胸が変な感じになる。
「……ほんと?」
「はい」
即答。
そして。
ほんの少しだけ。
口元が緩んだ。
「だから、もう少しだけ泣き止んでください」
その声が優しくて。
勝利はまた少しだけ泣きそうになった。
コメント
1件
うわ、今回めっちゃ刺さった……。勝利が必死に「大丈夫な自分」を演じてるのに、一番大事なもの壊されて涙止まらなくなるの、胸が締め付けられたわ。で、そこに現れた聡の温度差がエグい。普段あんなにクールなのに「泣かせたんですか」の低い声だけで怒りが全身に伝わってくる。でもしゃがんでキーホルダー拾って「直しましょう」って優しい顔になるギャップでやられた。自分が大事にしてたものだからって「俺も大事にします」って言える大人、かっこよすぎるだろ……🔥 周杜さんの心理描写、毎回解像度高くて好きです。続き楽しみにしてます!
#会話部屋
周杜.
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