『都会の交差点で出会った君へ』 ⑤ 君と初 めての特別な日
日曜日。
快晴。風も気持ちよくて、街には夏の気配が漂って いた。
蓮翔は駅前のベンチに座りながら、スマホを何度も 確認していた。
(やばい… 緊張してきた…)
そんなとき、後ろから声が聞こえた。
「おまたせ~!」
振り向くと、璃蓮がいつもと違う私服姿で立ってい た。
ふんわりした白のトップスに、淡い水色のスカー ト。
普段より少し大人っぽくて、でも璃蓮らしい明るさ がにじみ出ている。
「….. めっちゃ似合ってる。」
「え、うそ…!? うち、変ちゃう?」
「いや、ほんまに。可愛い。」
璃蓮は顔を真っ赤にして、口元をぎゅっとおさえ た。
「蓮翔って… そんなストレートに言うタイプやった っけ?」
「今日だけ特別ってことで。」
ふたりは笑いながら歩き出した。 初めての“恋人”としての時間が、静かに始まった。
***
デートは、ショッピングモール。
璃蓮が目を輝かせて雑貨屋を見たり、クレープを一 緒に食べたり、プリクラを撮ったり。 どれも、今までと同じようで、全然違った。
手をつなごうとしたとき、ふたりとも一瞬ためらっ たけど–
「….. つなご?」
璃蓮の方から、そっと手を差し出してくれた。
蓮翔は何も言わずに、優しくその手を握った。
「なあ、蓮翔。」
「ん?」
「今日な、朝からずっとドキドキしててん。 でも、今こうして歩いてると、ああ、好きになって よかったなって思う。」
「….. 俺もや。」
ふたりの影が、午後の太陽に照らされて、ひとつに なって伸びていった。
その日は、何度も目が合って、
何度も笑って、
そして、何度も心があったかくなった。
初めてのデートは、ふたりだけの秘密の宝物になっ た。