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「……んん゛、最悪だ……」


​重たいまぶたを無理やり押し上げると、視界がぐらりと揺れた。喉が痛い。熱っぽい。


​「……風邪引いたわ、こりゃ」


​情けなさと倦怠感に溜息をつき、まずは各所へ連絡を入れる。

指先が熱に浮かされているせいか、フリック入力すらおぼつかない。

​『風邪を引いたので、しばらく欠席します。すみません』

​マネには手短に。続いてメンバーのグループにも、数日間動けない旨を伝える。よし、これで最低限の義理は果たした。……あとは、一番伝えづらい相手。


​「……らん、悲しむよなぁ。俺も会いたいし」


​スマホの画面を見つめながら、少しだけ躊躇する。入院生活中の彼女にとって、毎日の自分のお見舞いがどれだけ大きな支えになっているかを知っているから。

けれど、病室にウイルスを持ち込むわけには絶対にいかない。

​『ごめん、らん。風邪引いちゃって、しばらくお見舞い行けない。早く治すから待っててね』

​送信ボタンを押して、力尽きたようにスマホをシーツの上に放り出した。

返信が来る前に少しでも寝よう……そう思った瞬間、枕元でスマホが狂ったように震え始めた。


​「……え、なに、通知止まんないんだけど」


​おそるおそる画面を開くと、そこにはらんからのメッセージが滝のように流れ落ちていた。


​ーー大丈夫!? 熱は!? 今すぐ寝て!!

ーー無理しないでっていつも言ってるでしょ!

ーーちゃんと食べて、薬飲んで、ひたすら眠る。いい?

ーー病人は、仕事なんてしちゃダメなんだからね!

ーーもちろん、隠れて曲書くのも絶対禁止!!


​「……何が『病人は仕事しちゃダメ』だよ」


​思わず、熱で火照った顔に苦笑いが浮かぶ。

曲を書くことまでお見通しかよ。てか、絶賛入院中の君こそ最大の病人なんだから、こんなに勢いよくスマホを打ってないで大人しくしてなさいよ……。

​そう言い返してやりたい気持ちは山々だったけれど、頭がぼーっとして文字を打つ気力がない。

​『ありがとね。おやすみ。』

​一言だけ返して、スマホの電源を落とした。

のそりと起き上がり、重い足を引きずってキッチンへ向かう。冷蔵庫に奇跡的に残っていた雑炊をレンジに入れ、タイマーの音をぼんやりと眺める。

​温まった雑炊を口に運ぶが、喉の痛みのせいで半分も食べられなかった。

それでもらんの言いつけを守るために薬を水で流し込み、逃げるように寝室へ戻る。


​「……早く治して、会いに行かなきゃ」


​冷たいシーツに潜り込み、目を閉じる。


​「……治ったら、思いっきりぎゅーってしてやる」


​次に目が覚めたときには、熱が下がっていますように。

​朦朧とする意識の中で、夢にらんが出てきたら良いなぁ何て考えながら、深い眠りへと落ちていった。

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