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𝐀𝐘𝐀_

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メイ
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第二部
第二章 少しだけ近づいた距離
翌日。
朝から会社は慌ただしかった。
「社長、本日の会議資料です。」
「ありがとう。」
「十時から取引先との打ち合わせ、その後役員会議になります。」
「分かった。」
千景は次々と仕事をこなしていく。
そんな様子を、秘書の遥はいつものように隣で支えていた。
「ちか。」
「ん?」
「朝ご飯、ちゃんと食べた?」
千景は少しだけ目を逸らす。
「……コーヒーだけ。」
「やっぱり。」
遥はため息をついた。
「ちーちゃんには『朝ご飯はちゃんと食べようね』って毎日言ってるのに。」
「……。」
「自分は守らないんだ。」
「時間がなくて。」
「言い訳。」
そう言うと遥は紙袋を机へ置いた。
「サンドイッチ。」
「え?」
「作ってきた。」
千景は驚いて遥を見る。
「昨日、ちーちゃんがおかゆを美味しそうに食べてるのを見てさ。」
「うん。」
「ちかもちゃんと食べないと駄目だなって思って。」
少し照れたように笑う遥。
「だから作ってきた。」
千景はしばらく紙袋を見つめていた。
「……ありがとう。」
その笑顔は、とても優しかった。
「いただきます。」
「召し上がれ。」
千景が一口食べる。
「……美味しい。」
「本当?」
「うん。」
「よかった。」
遥は心から嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た千景は、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
(はるの笑顔を見ると、不思議と安心するな……。)
自分でも気付かない、小さな変化だった。
昼休み。
二人は社長室のソファで昼食をとっていた。
すると千景のスマートフォンが震える。
『にぃに。』
千弥からのメッセージだった。
『今日はね、おともだちとパンケーキたべたよ。』
写真には、ふわふわのパンケーキと、隣に並んだくぅちゃん。
「ふふっ。」
千景が自然に笑う。
「ちーちゃん?」
「うん。」
「今日はパンケーキだって。」
「見せて。」
二人でスマートフォンを覗き込む。
距離が近い。
肩が触れるほど近い。
「可愛いね。」
「うん。」
「幸せそう。」
「うん。」
その時。
コンコン。
社員が書類を持って入ってきた。
「あっ……。」
思わず動きを止める。
社長と秘書が一つのスマートフォンを覗き込み、肩が触れ合うほど近くに座っている。
社員は心の中で思った。
(やっぱり恋人じゃないのかな……。)
しかし。
「この写真も保存しよう。」
「昨日のもアルバムに入れた?」
「もちろん。」
「さすが。」
二人とも会話の内容は全部千弥のことだった。
社員は苦笑しながら部屋を出ていく。
(違った……。)
夕方。
大学の授業を終えた千弥は、いつものように会社へやって来た。
「こんにちは。」
受付の社員たちは笑顔になる。
「ちーちゃん!」
「待ってたよ!」
「今日は元気そうだね。」
「うん。」
受付から社長室へ連絡が入る。
『社長、ちーちゃんがお見えです。』
「迎えに行こう。」
千景が立ち上がる。
「もちろん。」
遥も自然に並ぶ。
エレベーターの扉が開く。
「にぃに!」
「ちーちゃん。」
「はるにぃ!」
「おかえり。」
千弥は二人の前まで駆け寄る。
「ただいま!」
その笑顔を見た瞬間。
千景も遥も自然と笑顔になった。
「今日は大学どうだった?」
「たのしかった!」
「眠くならなかった?」
「すこしだけ。」
「少しだけなら合格かな。」
「うん!」
三人で社長室へ向かって歩き始める。
千弥は真ん中。
左側に千景。
右側に遥。
歩いている途中、不意に千弥が立ち止まった。
「どうした?」
千景がしゃがみ込む。
千弥は二人を交互に見つめた。
「にぃに。」
「うん。」
「はるにぃ。」
「なあに?」
「はい。」
そう言って、二人の手を重ねるように握らせた。
「……え?」
千景が戸惑う。
「ちーちゃん?」
遥も目を丸くした。
千弥は嬉しそうに笑う。
「これで、みんなでおてて。」
純粋な笑顔だった。
「みんな、いっしょ。」
その無邪気な一言に、千景と遥は思わず顔を見合わせる。
照れくさそうに笑いながらも、どちらも手を離そうとはしなかった。
「ありがとう、ちーちゃん。」
遥が優しく言う。
「えへへ。」
千弥は満足そうに笑い、再び二人の間を歩き始める。
その後ろ姿を見つめながら、遥は心の中でそっと思った。
(……もう少しだけ、この距離のままでいたい。)
そして千景もまた、隣を歩く遥の存在が、自分にとってどれほど自然で大切なものなのか、少しずつ気付き始めていた。
春の夕暮れの廊下を、三人の穏やかな笑い声がいつまでも包み込んでいた。
ーーー
第二部 第二章 終わり
第二部 第三章へ続く。
コメント
2件
第二部第二章をお読みいただきありがとうございました!
ああ、この距離感すごく好きだなあ……。千景が遥の手作りのサンドイッチに「美味しい」って言った時の、ほんの少しだけ気持ちが柔らかくなる感じとか、千弥が何も知らずにふたりの手を重ねさせるシーンとか、全部が優しくて胸が温かくなりました。まだ“恋”と認める前の、ほのかな距離の変化が本当に丁寧に描かれていて、じんわりきました。続きも楽しみです🌷