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美希みなみ
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2人でショップ街を並んで歩いていると、親子ずれが楽しそうにカラフルな風船を持って歩いていた。
「最近の空港って、飛行機に乗るだけじゃないんですね。いろんな楽しめるイベントがやってますね」
栞里はきょろきょろと周りを見渡しながら拓海を見た。
「そうだね。雑誌のデートスポット特集に乗っていたから」
栞里は〝デート″と言う言葉にドキッとした。
返す言葉が見つからず黙っていると、真面目な声が上から降ってきた。
「ねえ、栞里ちゃん」
「はい?」
「栞里ちゃんのしたい事ちゃんと言ってね。じゃないと俺きっと間違うから」
その言葉の意味を一瞬栞里は考えた。
「間違う?って」
拓海は栞里のその問いに少し考えて、ゆっくりと言葉を発した。
「うーん、上手く言えないんだけど、俺が栞里ちゃんにしてあげたかった事ができなくなるって事かな」
栞里は更に考えを目えぐらせる。
「ねえ、拓海さん。ちゃんと言って良いって言ったから言いますが、余計にわからないです。私にしてあげたかった事がまず何かわからないですし、私は、自分ばかりがしてもらう事は嫌です。拓海さんのしたい事もしたいし、拓海さんと一緒に楽しみたいです。友達ですから……」
少し恥ずかしくなり、栞里は向けていた真っすぐな瞳を少し逸らした。その栞里の言葉に拓海は驚いた顔をした。
「あは……」
拓海は笑うと、顔を手で覆うと自嘲気味に笑った。
「そうだよね。俺……また間違えた。俺の一方的な気持ちだね。栞里ちゃんだけに喜んで欲しいって」
その顔に栞里はなぜか拓海の本当の姿を垣間見た気がした。
「そうですよ。拓海さんが楽しくなければ私も楽しくありません。そんなの当たり前でしょ?拓海さんの方が私に気を使っているんですよ。それは優しさじゃありません」
きっぱりとはっきりと言い切った栞里を拓海はまじまじと見た。驚いたような表情に、栞里も驚いて拓海を見据えた。
「栞里ちゃん、ありがとう」
それだけ言うと、拓海は優しく微笑んだ。
しばらく2人はお土産ショップを見ていた。
「これ可愛い」
栞里が手に取ったのはイルカとスカイツリーが一緒になったキーホルダー。
「栞里ちゃんってイルカ好きだね」
「はい。好きです。イルカだけじゃなくて、水族館とか海洋生物が好きです。クラゲも好きですよ」
栞里は手の中のキーホルダーを見ながら言った。
キーホルダーを戻すと、
「拓海さん、ちょっと化粧室行ってきます」
「わかった。俺はこの辺りにいるね」
拓海のニコッと笑った顔を見て栞里は店の外へと出た。
その頃栞里は、化粧室に向かいながらふと思った。
(イルカが好きって拓海さんに話した?私……)
※
栞里が歩いていくのを見送ると、拓海は大きなため息をついた。
そっとさっき栞里が手に持っていたキーホルダーを手に取る。
イルカはブルーとピンクがあり、いかにもおみやげと言った感じのものだ。
その可愛らしいイルカのキーホルダーを、ブルーとピンクひとつづつ手に取ると、拓海はいそいでレジへと向かう。
どのレジにも数人の列ができており、拓海は一番早そうなレジへと並んだ。
そsて手の中のキーホルダーをもう一度見つめる。
栞里の好きなイルカ。
自分の順番になり、拓海は一つづつ袋に入れてもらうと、自分のバックへとそれをしまった。
栞里が戻ってくる前に、先ほどのところへ戻らないとと、足を速めると楽しそうなカップルの男性にぶつかってしまい、拓海は小さく頭を下げた。
楽しそうなそのカップルをぼんやりと眺めているときに、後ろから聞こえた声に拓海はハッと意識を戻した。
「次、どうしよっか?そろそろお腹空いた?」
帰ってきた栞里を見て、拓海は自分も空腹を感じた気がして問いかけた。
「はい!今度はホントにお腹空きました」
栞里の表情から本当に空腹なのが解り、拓海はほっとした。
こんなに気を使って女の子といることなど初めてかもしれない。
拓海は心の中で栞里を楽しませることしか考えていたなかった。
2人で案内版をみていると、隣にいた栞里が楽しそうに声を上げた。
「あっ、ここも有名なお店ですよ!」
そう言って栞里が指を指したのはパンケーキの店だった。
「そうなんだ。食べたい?」
ついそんな栞里がかわいくて、自然と笑みがこぼれた。
「お店があるってつもりで言っただけで……。今日は食べなくてもいいんです」
少し恥ずかしそうに言った栞里に、拓海も申し訳なさそうに言葉を発した。
「並ぶよね?パンケーキ。実は、俺……。勝手に夜予約しちゃったんだ。ごめん」
本来であればパンケーキを食べさせてあげたいところだが、かなり長蛇の列ができうるだろうその店に並ぶと、夕飯までの時間が短くなってしまう。
少し申し訳なさそうに言った拓海だったが、栞里がニコリと微笑んでくれたことに安堵する自分がいた。
「どうして謝るんですか?私の事考えてくれたんですよね。嬉しいです。じゃあ、時間も遅いし軽めの方がいいですよね」
そう言って栞里はパンフレットを見ると、一つの店に目を止めた。
「ねえ、拓海さん、ここにしません?軽いテイクアウトメニューだし、飛行機見ながら食べましょうよ」
ニコニコ笑って栞里は、第2ターミナルの5Fの展望デッキを指した。
メニューはサンドイッチやホットドック……。
「あっ、パンケーキある……」
ボソッと言った栞里の言葉に、拓海は大笑いした。
「じゃあ、俺ホットドック食べるから、栞里ちゃんパンケーキ食べたら?夜はイタリアンだし」
拓海の少しからかった言い方に栞里は軽く睨み、「そうするからいいですよ」そう言うと、すたすた歩きだした。
「……栞里ちゃん、そっちじゃない……」
なおも笑ってしまった自分に、驚きつつ栞里を呼び止めた。
その声に、栞里はぴたりと足を止めるとくるりと踵を返した。
「知ってます!」
そう言って顔を真っ赤にさせて、トコトコと拓海の横に戻ってきた栞里がかわいくて、拓海は無意識に栞里の手を取った。
「行こうか」
手を握ってしまってからその行為を後悔する気持ちになったが、どうしても栞里の温かい手を放したくなくて、思いとは反対に拓海はキュッと握りしめる手に力を込めた。
※
拓海に握られた手にばかり意識を取られながらも、優しくつながれた手が栞里はなぜか嬉しかった。
2月の一年で一番寒いだろう季節の外の展望デッキは当たり前だが閑散としていた。
「拓海さん!寒いですね!でも……。すごい景色……」
轟音と共に目の前で飛び立つ飛行機を見上げ、栞里は目を輝かせて声を上げた。
真冬の空気の澄んだ真っ青な空にキラキラと光る機体が何基も飛び、遠くまで続く展望デッキの向こうに見える空も圧巻だった。
「スカイブルー!!」
栞里は柄にもなかったが、開放感からかそう叫んでいた。
どこまでも続く空の青と、栞里の手にあるホットドック。
拓海はその光景を黙って見ていた。
余りの寒さに座って優雅にパンケーキと言う感じでもなかった為、栞里はホットドックをしぶしぶ買ったのだった。
「栞里ちゃん」
空を見上げながらパクリとホットドックを食べていた栞里は、不意に呼ばれた声に拓海を見た。
「はい?」
シャッターを切る音と、スマホをこちらに向けていた拓海に栞里は驚いて目を見開いた。
「栞里ちゃんの、隙あり写真」
そんな栞里に構うことなく、楽しそうに笑った拓海に、栞里はもう!と言って少し怒りながらもまた飛行機を眺めた。
「本当どこまでも飛んで行きますよね……飛行機。すごいな……」
目の前から離発着をする飛行機を見て栞里は呟くように言った。
拓海も、ホットドックを頬張ると飛行機を見上げた。
「あっ……さっき車から見た飛行機と同じ……」
栞里が指をさした飛行機は青と白の機体が空高く飛び立ったところだった。
「やっぱり、さっき見たより大きい……。当たり前だけど」
つぶやくように言ってクスクス笑った栞里は、じっと向けられる拓海の視線になぜか落ち着かなくなり、不意に思っていた疑問を拓海にぶつける。
「なんで空って青色なんだろ?」
(バカな質問しちゃった!)
そんな栞里に思いとは裏腹に、拓海は真面目な表情を浮かべた。
「拓海は詳しく聞きたい?」
「え?はい!」
以外にも答えてくれそうな拓海に、栞里はもう一度空を見上げた。
「寒くない?」
そう言いながら、いつのまにかぴたりと隣に立った拓海のおかげで、冷たい風が遮られた。
「太陽の光は虹の色と同じだけの色があるんだ。その7色が混じり合っているんだけど、その光は、どれも大気中の分子に当たると、散乱し、あたり一面に広がるんだ。このなかで、青い光が一番多く散乱する。この光が人間の目に入るから空は青い……難しいかな」
そう言って優しく微笑んだ拓海の言葉に、栞里は今の言葉を頭の中で繰り返した。
「……うーん、えっと……太陽の光が大気に当たって散らばって、その中で青が一番多い…そういうこと?」
「そうそう」
「拓海さん、詳しいですね。すごい!そして自然ってすごいな。なんて小さいんだろ。人間って」
呟くようにそう言った栞里は、また空を見上げた。
「ねえ、拓海さん。ほんと広大な自然とか見ると自分ってすごくちっぽけだなって思いません?」
自由に生きたいという思いと、できない自分がいつももどかしい栞里にとって、どこまでも広がる空は自由の象徴のようなものだった。
栞里は拓海の方を見ると、その表情に驚いて拓海を見つめた。
まるで拓海は今にも泣きそうな表情に見えた。
「そう思うよ。俺にできる事ってあるのかな……。って」
飛行機を見あげながら言った拓海に、栞里は間髪入れずに言葉を発した。
「あるに決まっています!」
そこで栞里は大きく息を吸ってから、拓海を改めて見つめた。
「現に私はやりたいなって思ってできていなかった事、拓海さんと沢山しましたよ」
「え……?」
拓海は驚いたように笑顔の栞里を見た。
「私、本当はずっとこないだ食べたイチゴのパンケーキ食べたかったし、近くで飛行機も見たかったです。だから、拓海さんは私に喜びをくれているんです。それは拓海さんがしてくれたことでしょう?」
屈託なく笑った栞里を見て、拓海はキュッと唇を噛んで何かをかみしめるように言葉を止めた。
「……栞里ちゃん、ありがとう」
何度目か解らない拓海からの“ありがとう”と言う言葉に栞里は少し戸惑いを覚えたが、特に何も言う事はできなかった。
拓海はまた青い空を見上げた。
雲一つない真っ青な空を。
栞里は時折見せる拓海の悲し気な表情の理由を推し測った。
しかし、どんなに考えてもわかるも訳なく、栞里も空と飛行機を見上げた。