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「ねえ、栞里ちゃん!やっぱり寒い!風邪ひくよ!中から見ようか」
寒そうに肩をすくめて言う拓海を栞里は見た。すぐに拓海はいつもの拓海に戻る。
栞里は自分が気にしすぎなのだろうと思い、頷くと拓海の後に続いた。
それから夕飯までの間、栞里達は空港内カフェでお茶をしたり、ショップを覗いたりしていた。
「ねえ、栞里ちゃんこの本面白い?」
空港内の書店で栞里と拓海は並んで本を見ていた。
見ていたのは栞里で拓海はその横で、どれがどう面白いか栞里がレクチャーしていた。
「弟も本が好きなんだ。だから教えてやりたくて。」
パラパラ本を捲りながら拓海は栞里に声を掛けた。
「私の一つ上の弟さんですよね?どんなジャンルの本を読むんですか?」
栞里は持っていた本を棚に返すと尋ねた。
「うーん、俺はあまり詳しくないけど、こないだはこの人の本が好きって言って読んでいたかな」
拓海が手に取った本は、シリーズにもなっている本格ミステリーだった。
「私もその人の話好きですよ。最後の最後まで展開が読めなくて、ハラハラするんです。そして大どんでん返しが必ず待っているんですよ。犯人がすごく意外な人で。だから、みんな犯人に思えてきちゃって」
栞里もパラパラ本を捲りながら思い出すように言った。
「そうなんだ。じゃあ栞里ちゃんと趣味も似てそうだし、お勧めの本ある?」
「そうですね……。その作家さんが好きならこの本とか好きだと思います。これもミステリーなんですけど、少し人情や色恋も入っていてます。色恋いりませんかね?」
そう言うと、栞里は1冊の本を手に取り拓海に渡した。
「色恋は今していると思うから、ありでいいと思うよ。これは読んでなかったと思うから買ってみるよ」
「弟さん、彼女さんいるんですか?青春ですね」
「栞里ちゃんの方が年下なのに、何?そのおばさんみたいな発言」
拓海はクックッと喉を鳴らして笑うと、「ちょっと待っていて」と言い残すと一人レジに向かった。
(拓海さんは弟さんと仲良しなんだな)
そんなじゃれ合う2人も見て見たいそんな事を思いながら、栞里はまた本棚に目を戻した。
冬の空はすぐに暗くなる。
「そろそろ時間かな。行こうか」
自然に出された手を栞里は取ると、拓海に手を引かれレストランへと向かった。
今日一日で手を繋ぐことに栞里は慣れてしまった自分に驚いていたが、全く嫌な気持ちはなかった。
少し奥まったところにあったそのレストランはとても素敵だった。
学生の栞里はめったに行くことのないような落ち着いた店内に高級そうな装飾やインテリア。
(すごく素敵……)
栞里はワンピースを着てきたことを心底よかったと思っていた。
席に案内されると、大きな窓に向かうように並べられた椅子に案内された。
目の前に広がる大きなガラスの窓からは滑走路が見え、夜のライトアップされた機体は昼間とは違った幻想的な雰囲気を醸し出していた。
しばらく声の出ない栞里を拓海は微笑んで見ていた。
「すごいでしょ?昼と違って夜の飛行場って」
拓海も窓の外を見ながら言った。
少し薄暗い店内で見る拓海は、いつもの穏やかな拓海ではなく、男の人に妖艶と言う言葉はどうなのかと思ったが、少し影のあるそんな男性に見えた。
「俺は夜の飛行機も好きなんだ。暗闇に明るく飛び立っていく飛行機を見るの」
拓海の少し怖いぐらい綺麗な横顔を見て、栞里は改めて拓海は大人の男であり、それに釣り合うだろう女の人がいた事に気づいた。
ここに誰かと来たことがあるんだ……とそんな事が頭をよぎった。
拓海ぐらい素敵な人ならば当然だろう。拓海は大人で経験も豊富でなぜこんな自分に声を掛けたのか急に不安が襲った。
今日一日一緒にいて、初めて声を掛けてきた拓海だけが拓海ではない事に気づいた。
本当の拓海は大人で、女の人のエスコートにも慣れていて、明るいだけじゃない。どこか心に影を持っている。
こういう時に、変に客観的に見てしまうから冷静になってしまうのだろう。
手を繋いだり、楽しかった時間を過ごして浮かれていた自分が急に冷静になるのを感じて、慌てて飛行機に思考を戻した。
自家製リコッタチーズを使ったという前菜は絶品だった。そんな料理に幸せそうな表情をしながら栞里は拓海をみた。
「リコッタチーズのパンケーキも美味しいんですよ?」
「またパンケーキ?」
クスクス笑って言った拓海に子供扱いをされている気分になり、栞里は少しムッとした。
「好きなんです」
それだけ言ってまた前菜を口に入れた。程よく油の乗ったサーモンがチーズと一緒にとろけた。
パスタ、メイン、デザートとどれをとってもおいくて、栞里は終始幸せな気分だった。
離発着を繰り返す飛行機を見ながら、たわいもない事をたくさん拓海と話しす時間は初めて感じる、心躍る時間で栞里は時間が早く過ぎる気がした。
どんな本が好きで、映画はどんなものを見て、休日はどうやって過ごす事が多いかなど。
驚くほど拓海と共通点は多く、好きな本や、映画の趣味も似ていた。
しかし全然当たり前だが違う所ももちろんあり、拓海の好きな釣りの話になると、拓海がヒートアップして話すのがおかしく栞里はクスクス笑いながら聞いていた。
「バカにしているでしょ?釣りバカだって」
そんな拓海の言葉すら面白くなり、栞里はまだ笑っていた。
「バカになんてしてないですよ。好きなんだなって思っただけです。最近はどこに釣りにいったんですか?」
美希みなみ
コーヒーを一口飲むと栞里は言った。
「……最近はあまり行けてないんだ。忙しくて」
少し間があったような気がした。
「お仕事ですか?」
「うん。まあ」
はっきりとした返答には聞こえない気がしたが、栞里は話を続けた。
「拓海さん、コンサルタント業ってどんなことをするんですか?」
「いろいろな企業の経営の補佐って感じかな?簡単に言うと。経営状態を見てアドバイスをする仕事」
「へえーなんか会社のお医者さんみたいですね。」
納得したように言った栞里を見て拓海は『初めてそう言う形容された』と笑って言った。
「お仕事たのしいですか?」
「そうだね。やりがいはあるよ。というか釣りの話だったよね?」
「あっ、そっか」
なおまだ釣りの話をしたがる拓海がなんだか可愛く思えた。
「栞里ちゃんのお寺や文豪のゆかりの地めぐりも相当珍しいよ?」
「でも、私一応文学部なんで。あー、こういう所であの作品は生まれたんだ!とか、同じものをあの人も食べたんだ!とか考えるとウキウキしません?」
負けじと言った拓海に栞里は言い返した。
「やったことないから分からないな。でも、こないだの本は純愛ものだったね」
栞里はその事に触れられ、頬を赤くして俯いた。
「その話は……。もしかして拓海さん読んだんですか!!?」
慌てたように言った栞里に、
「読んだよ。栞里ちゃん読んでないの?」
サラッと拓海は答えてまじまじと栞里を見た。
「読んでみたかったんですけど……。というか、半分ぐらいは読んだんですけど……なんか私にはまだわからないって言うか……」
そこまで言って拓海はああ、といった顔をした。
「結構本気の愛の話だもんね。栞里ちゃんにはまだ早かった?」
ちょっとからかう様に拓海は言うと口角を上げた。
「あっ、恋愛もしたことないってバカにしていますよね?さっきの仕返しですか?」
栞里は言い返すと、拓海を見た。
「でも……当たりかもしれません。私あんなにびしょ濡れになっても見つめ合ったり、あなたがいればそれだけでいいって思ったことないです……だから、あんまりあの本に感情移入できなくて……」
正直に言った栞里に、「そのうちわかるよ」と拓海は優しく笑った。
その笑顔に何故か栞里は少し心が痛んだ気がした。
(拓海さんはそう言う恋愛したんですか?)
声に出せない問いを栞里は心の中で呟いた。