午後の光が木々の隙間から差し込み、境内の空気をやわらかく照らしていた。
伊月は、石段をゆっくりと登っていた。
白いシャツにセーター、黒いズボン。
手には、ましろに渡すための小さな紙袋を持っている。
「……こんな階段長かったっけ…」
「……来たのじゃな。」
境内の奥、鳥居の影からましろが現れた。
巫女服の袖が風に揺れ、ぽふがその足元で「ぽふ……」と鳴いた。
「うん。……これ、神社の前の店で買った。甘いやつ。」
「おぬし、また甘味を持ってきおったか。……ふふ、ありがたくいただくのじゃ。」
ふたりは縁側に並んで座り、紙袋を開ける。
中には、きなこ餅と、ほんのり冷えたラムネ。
「…今日は、しずくは家にいるって…。」
「あの子は本当に風が好きじゃのう。
伊月は空を見上げた。
「……ましろさんは、風の音、好き?」
「風の音は好きじゃが…境内が荒れるから、勘弁してほしいのじゃ。」
「笑」
しばらく、ふたりは何も言わずに餅を食べた。
ぽふが伊月の膝に乗り、ましろが静かに笑う。
「……おぬし、変わらぬのう。昔から、静かで、優しい。」
「ましろさんも。……でも、ちょっとだけ、強くなった気がする。」
「ふふ、そうかもしれぬな。」
風が吹いた。
木々が揺れ、どこか遠くで、しずくの笑い声が聞こえたような気がした。
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