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「おぉ~すごい。聞きたいけど……多分わかります。俺らほんとにそういう話しかしてないから。」
「やっぱりな。初詣のあれ、仕組まれてたんだろ? ほんっとタチ悪いって。そば食って腹壊したとか、絶対嘘だろ?」
「ねぇ、誰だよそばで腹壊すやつ。そんなやつ、この令和にいねぇだろ」
呆れ顔のりゅうせいに俺は確信を持った。
それ、絶対いっちゃんが考案したやつじゃん。りゅうせい、いつきくん以外にはちょっと毒舌なとこだすよね。
「……あのね、だいきくん」
りゅうせいが、少しだけ真面目な顔をして言葉を繋いだ。
「もし、無事にお付き合いできて、それからだんだん緊張感も薄れて、冗談も当たり前になって……。心地いい関係になっていくと思うんすよ。でもそれって気づかないうちに、相手を傷つけるようなことも平気でしちゃうようになる。それが『当たり前』で気づかずに終わるのか、自分で気づいて『ごめんね』って続けていけるのか。そこで、ただの『恋』だったのか『愛』だったのかがわかると思うんすよ」
「……うわっ、深いわ。先輩、勉強になります!」
「ほんと、思ってますぅ~?」
「思ってるよ!……俺さ、関係拗れるのがいやで、好きな人に『好き』って言えなくて、お互いを思いやるような『ちゃんとした恋愛』なんて、まだしてないのよ。…… 初詣のとき、もししゅうとが男のままで来て、今日みたいに気がある素振り見せてたら……正直、どうなってたかわかんない。だから『カレンちゃん期』って、俺にとってはすっげぇ大事な時間だったんだ。
そこがあったから、もししゅうとを好きになってもただの恋じゃ終わらない気はする」
「うわぁ……それ、しゅうちゃんが聞いたら大喜びしますね?」
「……お前絶対しゅうとには言うなよ?まだ自分でもよくわかって無いんだからさ」
その言葉に、りゅうせいがいたずらっぽく微笑む。
「……じゃあ、だいきくん。今は『卵の時期』なんだ」
「ん? そうだな、卵。大事に温めて、いつか無事にかえったらいい」
「うわぁ、なんか思い出してドキドキしちゃう……」
「なんだよ、りゅうせいはずっとそうだろ? あの、いつきくんを手に入れてんだぜ」
「そうっすね。俺、一生ドキドキしてると思います」
「くぅ~~! うらやましいっ!」
「……今の言い方、すっげぇおじさんだった」
「うるせぇ! 宇宙の果てまでぶっ飛ばすぞ!」
「え!?なにそれ、めっちゃおもろいじゃん。俺も使おうかな」
「残念。いっちゃんといつきくんの前では俺がもう使ったから、手札なしね」
「一回きりしか使えないんだ……」
「そう、1発目の『初出し』が一番ウケるんだよ」
馬鹿みたいな話で笑い合える、この時間も俺にとっては宝物だ。
「あ、そうだ。カレンちゃんってさ、いつから受付やってんの? 俺、全然知らなかったんだけど」
「ほんっと、女の子に興味ないっすよね。もう2年くらい経ちますよ?」
「マジで!? 女の子は喋らないと見分けつかない……で、いつから『女の子』なの?」
「こっちに来てからずっとですよ。しゅうちゃん、関西支社にいた頃、女子に人気すぎて大変だったんですから」
りゅうせいが教えてくれた真相は、想像以上にドラマチックだった。
背の高いなっちゃんやりゅうせいと違って、しゅうとは「威圧感のない可愛さ」が仇となったらしい。
しゅうとを手放したくない社長と社長婦人が取った秘策——それが『女装して受付嬢』だった。
「イケメン税ってやつだな……。しゅうとも、苦労してんだな」
「何言ってるんすか、だいきくんだってイケメンですよ?」
「俺? 俺なんて影で『顔“だけ”はいいのにね』ってディスられてるらしいぞ」
「女子こわぁ……」
そんな自虐を飛ばしながら、りゅうせいを送り届ける。いつきくんの家までついて行こうとしたら、本気で嫌がられた。……冗談だってば。俺だって空気読めるよ?
けれど、自分の部屋に戻り、ドアを閉めた瞬間にそれはやってきた。
「……静かすぎるだろ」
さっきまでの騒がしさが嘘のような、冷たい静寂。
ソファに深く腰沈め、水族館から連れて帰ってきた大きめのサメのぬいぐるみを、これでもかとぎゅうっと抱きしめる。
……しゅうとにも、デカいサメ買ってやればよかったな。
……しゅうとの目の前で他の男を助手席に乗せるだなんて俺ってなんてデリカシーないんだよ。
頭の中は、もう「しゅうと」の四文字で埋め尽くされている。
小さいサメとカワウソを大事そうに持っていたアイツの姿を思い出しては、胸の奥がキュンと鳴る。
「……ちょろすぎだろ、俺。ほんとしゅうとの言う通りだわ」
スマホを覗いても、通知はいつきくんからの「無事ついた?」という過保護なメッセージだけ。
しゅうとに送ろうとして、指が止まる。今頃いっちゃんと楽しく飲んでるかもしれない。いっちゃん、今日もお持ち帰りされる気満々だったしな……。
そう思うと、抱きしめたサメのぬいぐるみに顔を埋めずにはいられなかった。
「……くっ、心臓いてぇ」
萩原なちち
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