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曇った頭は回転という言葉を忘れ、ただ一定の単語をバラついた感情で永遠に掻き乱した。
「……っ……」
口からはか細い声とともに薄い水のような唾液が山にせまられて帯のように細い領地へと垂れる。
崖から突き落とされた様に身体中から体温が抜けていくのを感じる。
血の気は引いてるのに目や耳、鼻からは狂ったように液体が溢れ出る。鈍くなる思考と吐息に混じる鉄の臭いが、辛うじて意識を保つことを許してくれる。
「っ…ぁ……」
肉が貫かれる音と骨の折れる鈍い音が鼓膜を揺るがし、生温かい血が頬と髪を濡らす
自身から抜けゆく体温が、酷く冷たく感じる。
「っ……」
じわ、と広がりながら虚ろに消えてゆく視界に最後に見えたのは、血の海に溺れる赤く染まった己の手だった。
◇◇◇◇
反射的に目が覚めた。ぼやけた視界に時計の秒針が回る度動くのが見えた。
「夢……?」
いや違う、あれは夢なんかじゃない。
そう自覚した途端、あの光景が脳裏に焼き付いて離れなくなった。
遠くから伝わってくる地鳴り、全身を駆け抜ける憎悪、そして……深く、絡むような視線の雨滴が、首すじに冷たく感触される。
「どうして連れてきちゃったんですか!身売りだとしても、孤児ならなんとかできたかもしれないのに!」
「連れてきちゃったんだから仕方ねぇだろ!俺だって最初から分かってたら連れてこなかったよ!」
棘のように降りかかってくる、他人の声が全身の血が煮られているような不快感を催させる。
「あ、起きたんですか」
部屋の外で騒いでいた声が唐突に止み、代わりに生暖かい空気と共に誰かが入ってくる。
「ぁ……」
喉からは掠れた声しかでなかった。声帯が酷く重く感じられて喋るどころか呼吸もままならない。
「……はいこれ、飲めるかどうかを分からないけど」
床に腰を下ろした男は自分の上体を起こしながら竹筒を口元へ寄せてきた。
「っ……!」
続きます