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家の中はガランとしていて、だけど掃除はしっかりされていた。母さんが死んでから僕は掃除を欠かしたことはなかった。母さんは生前に掃除を大事にしてたから、面影を追いかけて家の中だけでも同じにしたかった…
「暖かい家だね」
「え?」
暖かい要素なんか何一つないこの家にどうしてそんなことを言うのだろう。心底不思議になった。
「不思議って顔してるね」
「う、うん」
真白は少しだけ家の奥を見つめると、ポツリと呟くように言った。
「私の家は思い出なんてなかったから」
そう言いながら真白は柱を撫でた。柱には僕の成長を残すため身長を刻んでいた。僕も懐かしくなった。けど同時に、母さんとの思い出も蘇ってきて涙が出そうになった。
「拓馬くん、泣いてるの?」
「泣いてないよ、ただ…すごく懐かしくて」
悲しいわけじゃない。人間なんだからいつかは死んでしまう。それは至極当然のことだから。けど、どうせだったら真白がいるのを母さんにも見てほしかったと思ってしまう。この家に、真白がいる。それだけで何だか家が暖かくなったようにも思えた。
「ありがとう、真白」
「何のこと?」
僕は少しはにかんで「なんでもないよ」と答えて真白の手を握った。僕は君を一生手放せない。きっと君がいないと生きていけない。君が死んでしまうその時、一人になるくらいなんだったら、僕も一緒に…
(君のいない世界なんてやっぱり考えられないから…)
はじめは嫌いから始まった僕たちだった。まぁ、僕の一方的なものだったけれど…
(真白はいつもひたむきだったな)
いつも無感情と思っていた彼女はそうせざるを得ない状況下におかれていた。そんな彼女を見て僕はひたすら罪悪感を押し殺していた。彼女を気味悪がったことを心の底から申し訳ないと思うのと同時に、あのときの僕を本当に殴り飛ばしてやりたいとも思う。真白はきっと送られた声援に辛くなることもあっただろう。なのにひたすら努力を惜しまず頑張り続けていた。作文では賞をとり、生徒の前に立ってはみんなを引っ張っていた。全ては母親に認められるために。そして自分の悲しみを紛らわせるために。そんな健気でどうしようもない悲しみにいる彼女を助けたい。そんな彼女がどうしようもなく愛おしい。僕は真白のことを愛しているから、どうしても臆病になってしまう。真白のいない世界が恐ろしくて仕方ないんだ。
どうして君なんだろう。君が死ななければならない世界なんて僕にはいらない。そんなことを思っている反面、僕は君に出会えた世界に感謝しなければならないと、強く思ってしまう。君に振り回されてると、つくづく思うけれど、そんなところも僕らしくて…そう思わせてくれる君がさらに愛おしい。僕は君にすべてを捧げているが、それを君から当然のように返されることを望んではいない。けれど、もし君が僕にその命を預けてくれるのなら、僕は全力で君を愛し抜く…いや、幸せにすると誓おう。