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幸せなんて、私には遠くてみえないものだと思ってた。『私なんかが』って言葉がいつも私のことを埋め尽くしていた。悲しくないって笑いながら、心の奥底で泣いていた彼のように、また、私も涙を流すことはないけれど傷ついていた。
(大丈夫、傷ついたぶん、強くなれるからね)
いつもそう言い聞かせてた。小さい頃から母に疎まれていることはわかってた。私は”いらない子供”として育てられてきた。暴力なんて当たり前で、笑いながら私のことを甚振る母には正気を感じられなかった。そんな毎日の中に、疲弊しながら傷ついた私に手を差し伸べてくれた男の子、それが彼だった。彼は笑いながら私の名前を優しく呼んでくれた。母から与えられた唯一のものだった名前は、忌々しいものだと思っていた。鎖のように私に巻き付いては離れてくれなくて、同仕様もなく疎ましかった。彼が私を呼んでくれるまで、私はこの名前を変えるつもりだった。
『真白』
今ではこの名前が愛おしくて仕方ない。彼が名前を呼ぶたびに心が跳ねて、彼が名前を呼ぶたびに、笑いかけてくれるたびに、幸せだと強く思えるようになった。
そう思った矢先、私は病気と診断された。
『病名は─────』
心が凍りついた。
(せっかく、彼がいる場所がわかったのに…)
そう思わずにはいられなかった。彼とまた会える。その淡い希望を持っていたのに、それは難なく打ち砕かれた。
『この病気は不治の病と言われていて────』
医者の言葉なんか耳に入らなかった。ただただ無理だと思った。その日からだった。私がまた幸せを見失ったのは。
そして、私は彼の元に戻った。母は私が病気と分かると、『こんな娘育てられるわけ無いでしょう』と吐き捨ててどこかへ出ていった。私は多少のお金で細々と暮らしていた。
(こんな辛いなら、もう…いいかな…?)
そんな言葉が私の頭をよぎっていた。
けど…彼と一緒に過ごすにつれて、私はまた幸せを感じられるようになった。彼の笑顔に、また救われた。彼が飽きれたように苦笑いするところも、愛おしくてたまらなかった。
『私は幸せになってもいい』
ある日、そう口に出してみた。今までならばきっと嫌悪感で吐き気でも催していたと思う。けど、今の私はこの言葉をすんなり受け入れられていた。嫌悪感などなく、私の中にストンと落ちてくるようだった。
私は幸せなんだ
この日から私は幸せという言葉を、前より意識しなくなっていた。ふと、彼から笑いかけられることがあった。私と目が合うたびに幸せそうに笑う彼。その笑顔を見ると、幸せだなぁ…そう思わずにはいられなかった。
きっと私は生まれ変わっても───────