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朱木は、近くの自販機でホットココアを買うことにした。温かい缶の感触が、冷えた手に心地よい。
その時、背後から、走り去ったはずのヤンキーたちが、息を切らしながら近づいてくるのが見えた。そのうちの1人は、朱木に何かを伝えようと、必死に走ってきたようだ。
ヤンキー
「さ、さっきはすみませんでした!」
朱木は、ココアの温かさを感じながら、振り返った。彼の表情は、先ほどの威圧的なものではなく、穏やかなものに戻っていた。
凪木 朱木
「なんで俺に謝罪するんだよ。あの人たちに謝った方がいいんじゃないか?」
ヤンキー
「もう謝ってきました……。一応、あなたにもしておいた方がいいと思って……。あなたの言ったことが、頭から離れなくて……。」
朱木は、その素直さに、少し驚いた。彼は、このヤンキーが、根っからの悪人ではないことを感じ取った。
凪乃 朱木
「なるほどな。もうあんなこと絶対すんなよな。次やったら、俺が容赦しねぇ。
ところでお前たちは中学生?名前は?」
ヤンキー
「俺の名は…まぁ、
「戸塚 明仁(とつか あきひと)」。明仁って呼んでくれ。
今は中学3年生だけど、俺たちは学校には行ってない…いわゆる不登校ってやつだ。あなたこそ、こんな体格だけど、いくつなんですか?」
朱木は、ココアを一口飲み、少し得意げに答えた。
凪乃 朱木
「明仁か。俺は、まぁ朱木って呼んでくれ。こう見えて中1だ。」
明仁は、その言葉に、再び驚愕の表情を浮かべた。彼の目が見開かれ、信じられないといった様子で朱木を見つめる。
戸塚 明仁
「嘘だろ……。俺より下ってことか。……絶対中1じゃない……。その体格で中1って、どういうことだよ……。」
朱木は、その反応に慣れたように笑う。
「まぁ、そう思われて当然か。生まれつきなんだ。
……不登校って言ったが、家では何してんだ?さっきのヤンキー行為も、何か理由があるんだろ?」
明仁は、朱木の威圧感の中に潜む優しさを感じ取り、少しずつ心を開き始めた。彼の心の中の重い扉が、ゆっくりと開いていく。
戸塚 明仁
「家……正確に言うと、婆ちゃん家に住んでて、家の手伝いをしてる。婆ちゃんが病気がちで、俺がいないと大変なんだ。」
彼の声には、家族を思う優しさが滲んでいた。
凪乃 朱木
「なるほどな。それは立派だ。言いたくなければ言わなくていいが、なんで学校行ってないんだ?何かあったんだろ?」
明仁は、俯き、重い沈黙の後、ゆっくりと、悲痛な過去を語り始めた。彼の声は、途切れ途切れで、その言葉一つ一つに、深い悲しみと怒りが込められていた。
戸塚 明仁
「……小学生の時は、毎日楽しく行っていた。友達もいたし、将来の夢もあった。
でも、親父が他の人と不倫して、それがお母さんにバレて離婚。親父は家を出て行った。
お母さんは昔から病弱で、それでも頑張って仕事をして、お金を貯めて俺のために養ってくれた。俺も、早く大人になってお母さんを楽にさせてあげたいと思ってた。
けれど、いつの日か、「死刻の五柱」っていうゴミな奴らに殺されたんだ。あの時、俺は何もできなかった……。」
明仁の瞳には、涙が浮かんでいた。朱木の顔から、一瞬で笑顔が消えた。彼の目には、強い光が宿る。
それに続いて後ろにいた他のヤンキーたちも言う。
「俺の親もあいつらに殺されたんだ!」
「俺も…」
「あいつら許さないぜマジで…」
凪乃 朱木
「死刻の……五柱?すまないが、そいつらについて、少し詳しく聞かせてくれるか?」
朱木は、ココアの缶を握りしめ、真剣な眼差しで明仁を見つめた。
戸塚 明仁
「そう。彼らは、「5人組」でこの街を支配しているような奴らだ。警察も手を出せない、絶対的な力を持っている。
そいつらの、お頭おかしら的な存在は、団長の、
桜木 亙(さくらぎ わたる)
彼は、常に冷静沈着で、この街の裏社会を牛耳っていると言われている。
そして、謎のピエロの仮面をした、
笑嵐 廻(しょうらん かい)
彼の行動は予測不能で、その仮面の下の素顔を見た者はいない。
冷酷かつ凶悪な、
水無瀬 朧真 (みなせ ろうま)
彼は、感情を持たない機械のように人を殺す。彼の銃口は、常に無差別に向けられている。
静かな令嬢、
一条 璃姫(いちじょう りき)
彼女は、一見するとお嬢様だが、その手には血塗られた過去があると言われている。
断罪の乙女、
赤神 轟子(あかがみ ごうこ)
彼女は、独自の正義感を持ち、それに反する者を容赦なく裁く。
この中の水無瀬みなせ 朧真ろうまってやつが、俺のお母さんを殺したやつなんだ…」
明仁の言葉は、朱木の記憶を呼び覚ました。あの歓楽街で出会った、異様なオーラを放つ5人組。彼らは、やはりこの街の支配者だったのだ。
凪乃 朱木
「やっぱりあいつらか……。どうりで周りとオーラが違ってたわけだ。あの時、俺たちも危なかった。」
戸塚 明仁
「歓楽街でのあの出来事は忘れないです。あの、朱木さんたちと五柱たちが睨み合った時。
僕もそうでしたけど、周りの人々も呆然としてました。あれ、下手したら殺されてましたよ。彼らは、人の命を何とも思っていない。」
朱木は冷や汗をかいた。同時に、自分たちが関わってしまった事態の重大さを改めて認識した。
凪乃 朱木
「まぁな……。
ところで、なんで水無瀬みなせ 朧真ろうまってやつが、明仁のお母さんを殺しちまったんだ?何か理由があったのか?」
明仁は、再び顔を下げ、沈黙した。その沈黙は、言葉にできないほどの怒りと悲しみを含んでいた。
戸塚 明仁
「忘れもしません。
朧真問わず、その他の4人も、たまにこの街を歩いていて、機嫌が悪いと無差別に人を銃殺するんです。彼らにとって、人の命は、道端の石ころと同じなんです。
その時の殺された人は、運悪く俺のお母さんでした……。お母さんは、ただ買い物から帰る途中だったのに……。
そして、俺の親は二人ともいなくなって、金が無くなって、中学校には途中で通えなくなりました。婆ちゃんは、俺に学校に行ってほしいって言ってくれるけど、俺にはそんな余裕はない。
朧真。あいつだけは許さない……いつか俺がお母さんの仇を取って、あいつを殺す……許さない。」
明仁の復讐心に満ちた言葉は、朱木の胸に重く響いた。彼の目には、憎しみと絶望が入り混じっていた。
凪乃 朱木
「…………そうか。そんなことがあったのか。」
朱木も明仁も、深刻そうに顔を俯く。この街の闇は、一人の少年の未来を、そして心を、深く蝕んでいた。朱木は、明仁の抱える痛みが、自分の想像を遥かに超えるものであることを理解した。
朱木は、静かに明仁の肩に手を置いた。その手は、規格外の巨体に似合わず、温かく、力強かった。その温もりが、明仁の張り詰めた心を少しだけ緩ませる。
凪乃 朱木
「まぁな。なぁ明仁。
そんな辛い過去があっても、お前は頑張って婆ちゃん家で家の手伝いしたりしてんだろ?それは、お母さんが望んでいたことなんじゃないか?
それは立派なことだ。お前すげぇよ、本当に。
そりゃ、周りの幸せな人たちを憎む気持ちもわかる。さっきは、ちょっとやりすぎたな。ごめんな。でも、お前は、幸せになる権利があるんだ。」
明仁は、朱木の温かい言葉に、張り詰めていた糸が切れたように、照れて泣いた。彼の目から溢れる涙は、悲しみだけでなく、少しの安堵も含んでいた。
凪乃 朱木
「安心しろ明仁。
死刻の五柱って言うんだっけか?
俺と、俺の友達が、そいつらを倒す。俺たちは、この街の闇を払うために来たんだ。
俺が代わりに明仁の仇、取ってやるよ。お前の手は、復讐のために汚す必要はない。」
その言葉は、中学生の口から出たとは思えないほど、重く、真剣だった。朱木の決意は固く、その瞳には、迷いがなかった。
戸塚 明仁
「朱木さん……本当に、そんなことできるんですか……?」
明仁は、朱木の勇敢な姿に、希望の光を見た。それは、彼一人では決して掴むことのできなかった、遠い光だった。
凪乃 朱木
「これは男と男の約束だ。俺は、約束は必ず守る。
ほら、グータッチ。」
朱木は、その大きな拳を差し出した。明仁は、涙を拭い、その拳に、小さな拳を合わせた。ゴンという、力強い音が響く。男と男の、固い約束が交わされた瞬間だった。このグータッチは、明仁にとって、復讐の誓いではなく、未来への希望の誓いとなった。
戸塚 明仁
「俺、さっきのあの台詞、忘れないです。
幸せな人たちの背中を優しく見守る。
かっこいい人になって見せます。朱木さんみたいに、強くて優しい人間に。」
明仁の目に、再び力が宿った。彼の心の中で、何かが変わり始めていた。
凪乃 朱木
「おう。期待してるぞ、明仁。
えっ!?もう夜の10時か……。やべぇ、ウィーリス荘の門限に遅れちまう。
俺は帰らないといけねぇ。
じゃあな。明仁。これからも頑張れよ。また会おう。」
朱木は、急いで踵を返した。
戸塚 明仁
「はい!それではまたいつか!ありがとうございました!」
明仁は、朱木の大きな背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。彼の心は、先ほどまでの絶望から、確かな希望へと満たされていた。
朱木の小さな興味本位で行った人気ひとけの少ない道。
この偶然の寄り道が、この街に小さな友情と、大きな希望を結んだのであった。朱木は、明仁の背負う悲しみを、自分たちの使命として受け止め、ウィーリス荘へと急いだ。彼の心は、新たな決意で満たされていた。