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無茶苦茶なやり方だとは分かっている。暴力は好きじゃない。痛めつけることに意味がないからだ。それが結果的に仲間を無下に扱っていたのなら、もうシレントは何も厭わない。暴力が解決の糸口になることも、ひとつの結果だと認めた。
もちろん、そうしないのが理想的だ。だけども、全員が当たり前のように話を聞くわけではないと知っている。ただ、慣れないこともあった。
「ほんと、人を殴る感触ってのは柔らかくて嫌になるよ」
「うむ。我輩もみねうちは慣れておらぬ。死んでなければいいが」
一瞬で兵士たちを制圧するのは、驚くほど簡単だった。直前まで彼らとは比べ物にもならない怪物と戦っていたからか、あらゆる行動が遅く見えた。
「出来れば確かめてあげたいけど、今はそれどころじゃない。行こう」
「そうだな。彼らのことは他の者に任せればいい」
皇宮の門を潜り、駆け付けてきた兵士たちを叩きのめす。もう簡単には止まらない。強引に押し入って道を塞ぐ相手は誰であろうと遠慮なく倒した。
それでもまったく押し寄せる敵の勢いは止まらない。無尽蔵に湧いてくるかのようで、思わず気合の入った笑みも引き攣ってしまう。
「何人いるんだよ、僕ら結構倒したと思うけど」
「厳戒態勢の皇宮には数百人を超える規模で兵士たちが配置されている。全員が一か所に集まれば、こうもなる。広い宮殿が狭く見えてくるものだな」
クローディアはすぐ横に階段を見て、シレントに手招きする。
「こっちから行こう。連中が気絶した仲間を踏み越えるのに、いくらかモタモタするはずだ。あの性悪の皇太子がいそうな場所は決まっている」
「もしかして皇宮の地図が分かるのか?」
パーティのときに来たくらいだろうに、とシレントが驚くとクローディアはバイザーをがぱっと開けて、気まずそうな顔を向けた。
「少しだけだ。此処で暮らしたのは数年に過ぎん」
「此処で暮らしたって……え? どういうこと?」
「説明は後だ。連中が来てしまう」
事情は気になったが、わざわざ詮索もすまいとシレントは階段の下を振り返る。怒号と靴音が聞こえ、クローディアと顔を見合わせて頷いた。
「連れて行ってくれ。なんにしても君が頼りだ」
「ありがとう。こっちだ、急げ」
バイザーを下ろして先を進む。その後もいくらかの妨害を経て、やってきたのはパーティに使われた会場だ。シレントは嫌な思い出が脳裏を過った。
「また此処か……。レアナに随分なことを要求してたな、あいつ」
「身の程を知らんのだ。あの男は元よりそういう輩である」
クローディアが扉を押し開ける。待っていたのはスカンダリ皇太子と、彼の傍に立つ黒いローブで姿を隠す体の大きな何者かだ。その背後で階段の踊り場にエッセレが気を失って倒れている。今を待っていたかのように。
「これはこれは反逆者諸君。よくぞ恥ずかしげもなく押し入ったものだ。俺にそんなに会いたかったのか。生憎だが、俺は美女にしか興味がなくてね」
「僕はそんな理由で来たんじゃない。エッセレさんを返してもらおうか」
怒り任せに飛び掛かりそうになるのを抑えて言葉を交わす。
スカンダリがとても退屈そうな眼差しで返した。
「良い女だったよ、あまり鳴かないのがそそる。精神力が強いんだろうな、痛めつけても睨んでくるばかりで、中々いじめ甲斐があった」
隣にいた巨躯の何者かがスカンダリの肩に手を置く。
不気味な青白い手、真っ黒い爪が鷹のように鋭く尖っていた。
「早く済ませろ」
「そう言うな、ルアリ。馬鹿共がのこのことやってきたんだぞ?」
堂々とする彼らを前に、クローディアが剣を構えた。
「シレント殿、あれは人間ではない……!」
「分かってる。なんで魔族が此処にいるのか、教えてもらわないとな」
対決の意志を示されると、ローブを着た魔族は呆れて首を横に振った。
「だから言ったのだ、スカンダリ。貴様は使えん男だな」
「何を言う。連中が厄介だと言ったのは君だ。だから女を捕まえた」
「……おびき出せたことだけは褒めてやろう」
ローブを脱いだ魔族は頭部の右側に緩く捻じれた角を持つ。黒い目の中にある黄色い瞳が、彼らを捉えて殺気を放った。
「気付かれる前に処理すべきだった。貴様の余興に付き合ったのが間違いだ」
「いいじゃないか。お互いに良い取引をした仲だろう?」
言葉を交わしながらも踏み込まない距離感。どうやって接触したのかは分からなかったが、全てはスカンダリの手の中だとシレントは理解する。
「魔族といつから手を組んでいたんだ。僕らに協力するというのは嘘だったのか。それとも、あの後に接触があったのか?」
「ああ、嘘だとも。ルアリに差し出すはずの贄になる予定だった。それが想定外にもお断りされた挙句の果てに、自分たちから魔族に接触して和解だと。馬鹿馬鹿しい計画を立てたものだ。だからあの女を痛めつけてやったのさ」
踊り場で倒れているエッセレを親指で差して悪辣に笑う。
「挑発には乗るつもりはないよ。だとしたら、以前から魔族と繋がっていたわけだ。海の遺跡でドルクトスという魔族が暴れていたときには既に」
「その通り。誰よりも早く封印の解けたルアリは俺のところへ来て、人間の大半を滅ぼす代わりに、こちらの命の保証をすると言った。ゼロというとても強い魔族がいるんだろう。他よりも封印が強く掛かっていて大変なんだとか」
結果的に、ルアリの思惑はスカンダリの都合と一致するものがあった。皇太子の立場に興味はない。豊かな国で人々に愛されるよりも、支配する方がずっといい。逆らう人間がいなくなければ、もっといい。
ルアリとの契約により自分は人間の支配者として君臨する。そのためにはシレントたちのような魔族に対抗しうる勢力は邪魔だ。先んじて滅ぼしておかねば安心ができない。事実を知らないエッセレは、シレントと共に得た情報と共存案を資料に纏めて彼らに全てを伝えてしまい、その足掛かりに使われた。
「さて、話すべきことは他にない。俺は高みの見物としよう」
階段をのぼり、倒れているエッセレを抱いてその頬に口づけをする。
「ルアリ。俺がこの女で楽しむ間、存分に暴れてくれたまえ」
「我に命令するな、劣等種風情が。貴様と我は対等でしかないことを忘れるな」
そう言いながらも、床を爪で擦ると黒い炎が噴出して大きな黒い剣を手に構える。殺さねばならない大敵を前に、ルアリは油断せず呼吸を整えた。
「ゼロを懐柔しようなどとは笑止千万。二度も涙を呑む必要はない」
「僕はそんなつもりはないよ。でも、君はそれでは止まらないんだろ」
「当然だ。我と対等に言葉を交わしたいのであれば、力を示せ」
シレントとクローディアは肩を並べて臨戦態勢を取った。
「じゃあ仕方ない、とことんやってから語り合おう」
コメント
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第46話読みました。ついにシレントが「暴力も一つの結果」と認めて覚悟を決めたのが重かったです。クローディアがかつて宮殿に住んでいたという新事実も気になります。エッセレを痛めつけたスカンダリの描写は本当に胸が悪かった……。魔族ルアリの存在で一気に緊張感が増しましたね。「力を示せ」と言い放つところから、ただの敵役じゃない奥行きを感じます。次が待ち遠しいです!