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立ち話もなんだし、宇宙ステーションの軌道エレベーター乗り合い処で椅子に座ってフィーレと交流することにした。エレベーターの呼び出しに少し時間が掛かるからね。
え?フェルの転移を使えば早いって?それは無理かなぁ。アード全体に隠蔽魔法が展開されているんだけど、これは外部からの魔法すら遮断してしまうんだよね。つまり、軌道エレベーター以外にアードから出入りするのはとんでもなく難しい。ギャラクシー号で宇宙へ飛び出したけど、あれは例外中の例外だ。
「久しぶり~、フィーレちゃん☆」
「里長もお疲れ~。なんか滅茶苦茶疲れた顔した政務局長が開発局に来て皆ビビってたんだけど、何かしたん?」
「ちょっとしたお願いをね☆フィーレちゃんがここに居るってことは、了承してくれたって判断して良いのかな?☆」
「いーよ、暇だったし」
「ばっちゃん、何の話?」
「メカニックが必要だって話をしたよね?まるで知らない人よりはフィーレちゃんの方がいいよね?☆」
いやまあ、それはそうだけど。予想はしていたし、あんまりビックリはしないかな。腕も確かだし。
「んで、そっちのおねーさんが噂の同胞さん?」
「そうだよ」
「えっと、フェラルーシアと言います。その、こんなですがリーフ人です……」
フェルが恐る恐る自己紹介する。まあ同胞達からあんな対応や扱いをされたら警戒するのが当たり前だよね。でも、その心配は無用だ。だってフィーレは。
「ふーん、じゃあフェル姉ぇだ。よろしく~」
「え?」
この娘、技術関係以外に一切興味がないと言うリーフ人の中でも飛び切りの変わり者だ。里にもあんまり帰らずに宇宙開発局の宿舎やハンガーで寝泊まりするくらいに。
予想通りフェルへの差別意識もないね。
「あはは。フェル、この娘はフィーレ。宇宙開発局のメカニックで、変わり者のリーフ人なんだ」
「ティナ姉ぇ、変わり者って酷くない?」
「じゃあメカ以外に興味があるの?」
「無い」
「ほらね?」
フィーレを紹介すると、フェルが困ったように笑う。まあそうだよね、いきなりだもんね。
「フェル、大丈夫。フィーレはフェルに変なことをしないって保証するよ。フィーレはリーフ人の伝統やら文化にほとんど興味がない娘だからさ」
「先日の集会で長が吠えてたけどバカみたいだよね」
「フィーレちゃん、何かあったのかな?☆」
「フェル姉ぇは危険だからどうのこうの言ってたよ」
「あのミドリムシ……まだ懲りてないのか」
ばっちゃんが怖いからこの話題は止めとこう。フェルも聞きたくないだろうしね。
「フィーレ、私達と一緒に地球へ来てくれるって考えていいかな?」
「いーよ、ここに居ても暇だしね。局長の許可も貰ってるし」
「ザッカル局長……分かった、ありがとう。これからよろしくね。フェルとも仲良くしてくれると嬉しい」
「ん、任された」
まあその辺りは正直心配していない。リーフ人はアード人以上に同族意識が強いし、優しくて世話好きなフェルなら純粋で色々ズボラなフィーレと仲良く出来る気がする。
「で、ティナ姉ぇ達はこれから降りるんだよね」
「せっかくだし、お母さん達にも顔を見せないとね」
「私もパトラウスとお話があるし☆」
「なら、引っ越しとギャラクシー号だっけ?あれの整備は私がやっとく」
「引っ越し?」
私とフェルが揃って首をかしげた。確かに火力が必要だし乗り換えは考えていたけど……早くない?
「今使われていない船は、全部定期的に整備されて保管されてるんだよ。許可が下りたら直ぐに使えるようにはなってるし。ほら、これだよ」
フィーレがタブレット端末を弄ってホロディスプレイを起動して中身を見せて貰った。
「これ、デストロイヤー級じゃん!」
デストロイヤー級は重巡洋艦に分類される大型艦だ。全長は軽く五百メートルを超えるし、火力も段違いだ。
え?デストロイヤーって駆逐艦の事じゃないのかって?
……細かいことは良く分かんない。少なくともアードの分類が違うのかな。
火力も単純にプラネット号の数倍、ビーム砲の出力はフロンティア彗星を破壊できるしトラクタービームの出力は彗星を捕まえるのも容易い。
ただ、アードの軍艦らしく居住性はかなり悪くなってる。具体的には収容人数は五十人、プラネット号の三倍以上の大きさなのに居住性は半減してる。
その代わり重武装と広い格納庫がある。これならスターファイターを十機は搭載できるんじゃないかな?
各種装備もプラネット号よりグレードが高くて、たくさんの整備ポッドもあるからフィーレ一人でも余裕を持って整備できる環境が整えられているかな。
ただ、問題は……。
「このペイントは何?」
「船名を見てみなよ、ティナ姉ぇ」
「うわぁ……」
船体には大きくデフォルメされてウインクしてるばっちゃんが描かれていて、船名も“銀河一美少女ティリスちゃん号”と表示されているんだけど。
「私の私物だよ☆」
「フィーレ、取り敢えずペイント消して名前も変えといて」
「分かった」
「酷い☆」
前にも言ったけどアードは塗料が貴重品だったりするんだよねぇ。生活に必要な最低限の量はあるけど、芸術や娯楽回す余裕はほとんど無いから滅茶苦茶高価だ。なんでそんなのを惜しみ無く使うのかな?
いや、ばっちゃんだからなぁ……その場のノリである可能性が高過ぎる。取り敢えず、痛車ならぬ痛軍艦に乗る趣味はないので削除だ。
「私の私物なんだけど?☆」
「じゃあ別のにする」
「でもこれ、そろそろ耐久年数的に限界だからティナ姉ぇ達が選ばれなかったら廃艦されるよ?」
「ティナちゃんにお任せ☆」
「関節大丈夫?手のひらぐるんぐるん回転してない?」
手のひら返しにしても早すぎるよ。
「んじゃあ、整備と調整、引っ越しに二日……いや、三日は貰うからそのつもりで」
「フィーレの荷物は?」
「無いけど?」
この娘は……もう。
「フェル、手伝ってあげてくれないかな?フィーレ、着替えもないみたいだし。私のクレジットを使って良いから幾つか見繕ってあげて」
アード人とリーフ人の服は違うから、フェルに任せるのが一番だ。
じゃないと着の身着のまま来るからね、この娘。
「浄化魔法で綺麗になるから良い」
「良くない。フェル、お願いね」
「あはは……じゃあフィーレさん」
「フィーレでいーよ、フェル姉ぇ」
「えっと……じゃあフィーレちゃん、ちょっと一緒にお買い物をしましょう」
フェルも端末を取り出してショップメニューを開いた。うん、あとは二人に任せて私とばっちゃんは一足先に戻ろう。