フィーレのことをフェルに任せて私はばっちゃんと一緒に軌道エレベーターへ乗り込んだ。初対面なのにいきなり二人きりにするのはどうかと思ったけど、ばっちゃんが大丈夫と言ったから大丈夫なんだろうな。フェルも張り切っていたし、任せることにした。
軌道エレベーターはそれなりの速度で降下していくけど、どうしても時間が掛かる。だからエレベーター内部は簡単なサロンみたいな作りになってるんだ。
適当に椅子に座って時間を潰すのが一番かなぁ。
「それで、ティナちゃん。カレンちゃんに異常は無かったのかな?」
「ちょっと体調を崩していたよ。軽い酸欠かなぁ」
目覚めた後カレンの検査結果をアリアに分析して貰ったんだけど、軽い酸欠……と言うか、高山病みたいな症状が少しだけ現れていたことが分かった。
プラネット号の艦内は無菌室になっているけど、空気の成分は当然ながらアード人に適したものになっている。
地球とアードの大気に含まれる成分はとても似ているけど同じと言うわけではない。特に一番大きな違いは、酸素濃度だと分析された。アードは地球に比べて酸素濃度が少しだけ低い。短時間なら問題はないけど、長時間滞在していると高山病等の酸欠を引き金とする病や症状を引き起こす可能性が非常に高いことが判明した。
正直カレンをプラネット号に連れ込んだのは失敗だったけど、アリアは地球人がアードの環境下で生存可能かどうかを検証するには必要不可欠な試みだったって説明してきた。
確かに交流が順調に進めば地球の外交団をアードへ招く事になるだろうから、その辺りのデータは必要になる。まだまだ先だけどね。
「フラフラするって言ってたもんねぇ☆体調はもとに戻ったのかな?☆」
「うん、検査結果も致命的なものじゃなかったから大丈夫みたいだよ」
あのあと直ぐに地球へ戻ったのも良かったかな。
もうひとつの問題は、惑星アードの大気中に存在する微生物に対する抗体なんだけど、これはお母さんがワクチンを開発してくれている。ちなみにリーフ人にも専用のワクチンがある。
胎児、つまり生まれる前のお母さんのお腹の中に居る段階でワクチンを投与しているから、問題なくアードで生活できる。フェルに関してはアードに入る前の宇宙ステーションでワクチンを接種しているから問題ない。アードの進んだ医療技術の賜物かな。
「じゃあ、次からは環境適応魔法が必要になるのかな?☆」
「酸素濃度の問題だから、適応魔法を使うか宇宙服みたいな装備が必要になるかもしれない」
アリアが言うには、高地で生まれ育った地球人なら問題はないみたいだけどね。
専用の訓練を行うか、酸素マスクみたいなものがあれば問題ないかもしれない。でも片方が酸素マスクを着けた会談かぁ……なんだろう、真面目な場なのにとってもシュールな光景になってしまうんじゃないかな。その辺りも考えないとなぁ。
「まだまだ先の話になるかもね☆」
「まあね、まだ交流は始まったばかりだし」
やらなきゃいけないことはたくさんある。地球には二百を越える国が乱立していて今のままじゃ意思統一なんてとても無理だ。
だから影響力の強い大国である合衆国と最初に交流して、日本とも交流を始めた。フロンティア彗星の破壊で少しは友好的な国が出てくれると嬉しいけど、例のあの国は愉快な論理でミサイルを撃ったからなぁ。
やっぱり地球側だけじゃダメだ。アードにも地球への関心を持たせないといけない。
「ティナちゃんはアード側が地球に興味がないって考えているんだね?☆」
「まあね。地球の食べ物は美味しいけど、必要不可欠って訳じゃないし。何か強く興味を引くようなものが必要だと思ってる」
何があるかなぁ。技術力は論外、地球の資源や宝石にもアードが興味を示すとは思えない。宝石は綺麗だけど、あんなにキラキラ光るものはアードじゃ余り好まれないみたいなんだよね。装飾品だって質素なものが多いし、自然に由来したものがほとんどだ。
うーん、となると文化かなぁ。これも難しいよなぁ。
「ティナちゃんの心配だけど、杞憂に終わると思うなぁ☆」
「どう言うこと?」
ばっちゃんはさっきから自分の端末を見てニヤニヤしてるんだよね。何か面白いことでもあったのかな?
「里に戻ってみれば分かるよ☆ティナちゃんが考えている以上に地球はアードにとって重要な星になるかもしれないよ?」
「どういう意味?」
「それは里に帰ってからのお楽しみだよ☆あっ、私はパトラウスと会ってくるから先に里へ戻っておいてよ。フェルちゃんは私が連れてくるから安心して良いよ」
取り敢えずフィーレのお世話をフェルに任せているけど、一段落したらフェルもドルワの里へ顔を出す予定だ。フェルは家族だし、家に帰るのは当たり前の事だ。
今回は急な帰還だったからお土産は少ないし、交易品の食品も持ち帰れていないけどね。
惑星アードにある軌道エレベーター発着場に到着した私達は備え付けられている転送ポートで分かれてそれぞれの目的地へ向かった。私は当然ドルワの里だ。飛ぶのは好きだけど、軌道エレベーターからドルワの里がある浮き島まで数時間は掛かるから転送ポートを利用する。楽チンなんだよねぇ。気分次第では飛ぶのも悪くないけど。
里のある浮き島は相変わらず豊かな森に包まれている。リーフ人程じゃないけど、アード人の居住区はどこも似たような作りだ。巨大な木がたくさんある場所にツリーハウスを作る。見た目は森の隠れ家そのもの、ロマンの塊。内装もノスタルジックな雰囲気だ。
ただし、超科学の産物がしれっと交ざっていたりするから笑えるんだけどね。
「ただいまー」
転送ポートから飛んで家の玄関に降り立った私はいつものようにドアを開けた。今の時間ならお母さんが居るかな。お父さんは夕方まで仕事をしているからなぁ。
そう考えていると。
「おかえりーーっ!!!」
「おっふぅっ!?」
いきなり小さな女の子が思い切り飛び付いてきた。四歳くらいではあるけど、翼を羽ばたかせながら突っ込んで来るからそれなりの衝撃だ。まあ、倒れたら危ないから踏ん張って耐えた。
女の子は綺麗な金の髪に小さな一対の翼。典型的なアード人の子供だ。
はて、こんな小さな女の子が里に居たかな?子供は私一人だけのはずなんだけど。
「あら、お帰りなさいティナ」
すると奥からお母さんが出てきた。相変わらず天使みたいなアードの装束に白衣を羽織ってる。
「お母さん、この娘は?」
「ああ、連絡していなかったわね。ティナ、あなたの妹よ。ティル、お姉ちゃんよ」
「おねーちゃん!!!」
「……はぁああっ!?」
悲報、一ヶ月の間に妹が出来た。
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