目を開けると、辺り一面が黒い空間だった。
「ここ……は……」
ただの黒い空間だ。先も見えない。光はない。ただ暗い。かろうじて自分の体は見えるくらいで、つま先は見えない。
私は歩き出す。方角も道も、何も分からないが止まっているよりかはマシだと思うから。
少し歩いただけでも、息が苦しい。熱い。走ってはいないのに、まるで走ったのかのように息は切れ、体温は上がっている。
ここは一体何なのだろうか。私が本能的に歩きたいと思った理由は、何か嫌なことを忘れている気がする。くらくらと目眩を覚えた。
「あ。奏、瑞希、絵名……」
歩いていると、三人の姿が見えた。三人共私に気がついた様で振り返る。
しかしその表情は決して明るくはない。まあそうだろう、こんな空間にいては安心なんてできない。
どうしてここにいるのか、何故こんなにも真っ暗な空間に放り出されているのか、謎だ。三人寄れば文殊の知恵、とは言うが、どうせ四人集まったところで何一つとして変わらない結果なのだろう。
「ここ、どこだろうね」
そんな風に声をかけても、三人は何も反応しなかった。異様だ、返事くらいしてくれても、目くらい合わせてくれてもいいではないか。
「みんな、どうしたの……?」
すると、奏は歩き出した。二人は反応しない。それどころか瑞希も歩き出した。そうして、絵名も。
私は踏み出した絵名の手を取ろうとする。しかし、手は動かない。前は絵名の手が掴めたのに。みんなバラバラの方向に、ゆっくりと歩いている。しかし、私の身体は動かない。
「待って、ねえ、待って!」
声を出すことはできた。しかし、三人は振り返らず歩いていく。姿は見えなくなっていく。
『……別に私はどこにも行かないよ。私は、ずっとまふゆの側にいてあげるから』
嘘つき。絵名は離れているじゃないか。そんな言葉は嘘じゃないか。あれ、違う、そうだ、そもそもここは夢の世界で、ここは現実じゃ────
***
「はあ……はあ……」
暑い。額に髪が張り付いている。汗も凄い。
何度目かは分からないが、両手では収まる程度で見た夢。絵名に寝かせられた時から見なくなり、無くなったのかと安堵していたのだが。
前はミク達もいた。今回分かったが、もう完全にいなくなってしまったみたいだ。それが、もう二度と戻らないような予兆に思えてしまって。
「影響されすぎ。」
私は、スマホを手に取った。時刻はまだ、三時になったばかりだった。
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